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二十八話
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先に動き出したのは男——名前がわからないので先代と言おう。
彼は五十メートルにも近い距離を一気に脚力で縮めて、僕の胴体に見事な突きをお見舞いした。こんな距離があるのに反応できなかった。
そして蹲ったところに、顔面へ蹴りが繰り出された。それも避けられない。アッパーを食らったかのような攻撃を受け、空中に飛ばされる。そこで先代は飛び上がり、僕を地面の方向へぶん殴るのだった。
ゴリゴリの鉄拳攻撃に、僕はなすすべなくやられるばかりだった。シバリアさんを泣かせた男として許せなくて、彼の前に立ったが、このようなやられっぷりだとシバリアさんに格好がつかない。
地面に叩きつけられた後、すぐさま起き上がり、先代の方向——上を見る。上から踵落としを決めると思われるその体勢を見切って、横にステップを踏む。先代の踵は、ブンという音を立て空を切り、地面に突き刺さる。地面がひび割れて削れるのを見て驚きつつも、僕も見ているだけではない。先代へ右手に持っていた刀を左へ振った。それはに避けられた。
後ろへ避けた先代を追う。
刀を振る。避けられる。振る。避けられる。そして刀を素手で受け止められ、やっぱりこの木刀役に立たないなと思いながら、掴まれた刀ごと僕は投げ飛ばされた。この遠心力に対してよく刀から手を離さなかったなと己を称賛しつつ、地面へ着地。それなりに幅はあるがここは山道であり、茂みのある森に吹き飛ばされたりしたら遭難する恐れがあった。
しかしそれを先代がしないのは、僕とのタイマンを、先代が正面から受け止めてくれてるからだ。
正々堂々と戦う。
威風堂々と殺す。
そんな戦いを、彼は好んでいる。
ならばこちらはそれに甘んじるしかない。
先代に対する戦略など思いつかない。
僕も真正面から先代とぶつかり合うしかないのだ。
しかし、僕はもう体が傷だらけで、彼は傷一つついていないのが現状。現在競り合ってても、僕が押される一方だ。
だが、なんとなくだが、戦いのコツを掴んできたような気がするのは確かで、それは僕自身を生かすために働いた。
微妙にだが、先代の攻撃を避けきれたりすることができるようになってきたのだ。先代のスピードが落ちてきている?
先ほどの灯との小競り合いで疲労したわけでもあるまいし——と、思ったところで、器用に、先代が戦いながら話しかけてきた。
「いい動きになってきたじゃねえか! 最初はただの雑魚だと思ったが、どんどんお前のスピードが上がっていってる……これだから戦いは楽しいなあ!?」
楽しくはない。
ないが、僕の実力が上がってきての結果が、先代の攻撃を避けきるという事実なのだとしたら、先代勇者に僕が勝つという未来も見えてこなくはない。
ただ、一方で考えるのは、そんな戦い好きの先代が恐れをなして逃げるほどの魔物とは、一体……。
「隙ありッ」
僕の横腹に蹴りがめり込み、横へ吹き飛ばされる。すぐそこの木にぶつかって地面に着地できたが、茂みの方に飛ばされていたら危うく遭難していた。戦闘中に他のことを考えていると、遭難どころではない。死んでしまう。気をつけなければ。
呼吸が乱れ、しばらく動けずにいると、先代もこちらの様子を伺うように待っていた。
余裕があるといいたいのか。
最低限、無駄な動きをカットして、しゃがみこんだ体勢から足を踏み出す。全力のスタートダッシュから、先代に斜め下から刀を上に振る。それは防御されたが、今まで回避されてたことが、腕での防御に変わった。僕の刀を避けきれないと判断したのだ。
僕のスピードは確かに上がっている。体が慣れてきているのだ。しかも普通の人間ならば死ぬような攻撃を受けても僕は死なないし、僕も異世界へ来て人間離れできている。魔物と戦える。
その自信が、昂りが、僕を俊敏にする。
気づけば先代の防御していた腕もボロボロで、使い物にならなくなっていた。そこで正面から先代の腹に蹴りを突き出し、腕の防御が崩れたところで、彼の脳天に刀を思い切り振り込んだ。
地面が割れるほどの勢いで地面に叩きつけられた先代は、頭から血を流して動かない。とどめを刺すか。
両手で刀を下向きに突き刺す形で持って、先代の首に狙いをつけた時(こんな刀では刺し殺せないだろうが)、小さく、声が聞こえた。
「——参った……」
先代が、負けを認めた。
僕は勝利したのだった。
すると、今まで気になっていなかった体の痛みが響いて来て、少しふらつく。
ふらついたところに、腕で支えてくれたのが、シバリアさんだった。
「大丈夫ですか!? 今治療します」
短い呪文を唱えて、両掌から暖かい光を出すシバリアさん。その暖かさが傷を癒し、先ほどまであった痣が、すぐさま綺麗になくなった。
「ありがとうございます、シバリアさん」
「それはこちらのセリフです。私のために戦ってくれて、ありがとう。すごく格好良かった……です」
シバリアさんが顔を赤らめつつ放ったその言葉に、耳が熱くなるのを感じつつ、僕は先代を見た。
「魔物が追って来てるそうだ。このまま彼を置いていたら傷で死ぬかもしれないし、魔物に追いつかれて死ぬかもしれない。傷を直してあげてください」
「アオシさんは、それでいいんですか?」
「はい。一応、彼も勇者だし。本来僕らの敵じゃあない」
「わかりました」
自分の命を危険に晒した男を治すシバリアさんは本当に優しい。指示を出したのは僕だが、それを拒否することもできるはずだ。それをしないのは単純に優しいからと言えるだろう。
「二人の傷を一気に治しちゃいます——神の癒しよ、ここに」
全身、サウナほども暑くない、ちょうど良い暖かさに身を包まれ、うっかり寝落ちしてしまいそうになったが、意識を取り戻す。
僕の傷は完全に治っていた。
どこも痛くない。
寝ていた先代も起き上がり、シバリアさんに傷を治されたのだと理解すると、
「心から感謝する」
と、頭を下げた。
「魔物から追われてるんだよね。そいつらはこっちで片付けとくから、馬車とかは貸せないけど、頑張って逃げて」
「マジでヤバい奴らだぞ。俺と張り合ってギリギリ勝てたお前じゃ勝てない」
先代の負け惜しみとも取れる言葉に、
「灯とか、多分僕の百倍強いし、シロやクロだって僕より強いはずだよ。手合わせしたことないからわからないけど」
するとシロが、
「そうじゃのう。見ていてあくびが出そうになったわい」
と、あくびのジェスチャーをしながら言うのだった。
「お前ら強いな。俺なんかじゃ歯が立たない。……ここで話し込んでても仕方ない。もう行く」
先代は、僕らがきた方向に向かって歩き出す。
「力尽くで強盗とか、するなよ」
僕の言葉に、
「わかったよ」
先代は短く答えて、その場を去った。
彼は五十メートルにも近い距離を一気に脚力で縮めて、僕の胴体に見事な突きをお見舞いした。こんな距離があるのに反応できなかった。
そして蹲ったところに、顔面へ蹴りが繰り出された。それも避けられない。アッパーを食らったかのような攻撃を受け、空中に飛ばされる。そこで先代は飛び上がり、僕を地面の方向へぶん殴るのだった。
ゴリゴリの鉄拳攻撃に、僕はなすすべなくやられるばかりだった。シバリアさんを泣かせた男として許せなくて、彼の前に立ったが、このようなやられっぷりだとシバリアさんに格好がつかない。
地面に叩きつけられた後、すぐさま起き上がり、先代の方向——上を見る。上から踵落としを決めると思われるその体勢を見切って、横にステップを踏む。先代の踵は、ブンという音を立て空を切り、地面に突き刺さる。地面がひび割れて削れるのを見て驚きつつも、僕も見ているだけではない。先代へ右手に持っていた刀を左へ振った。それはに避けられた。
後ろへ避けた先代を追う。
刀を振る。避けられる。振る。避けられる。そして刀を素手で受け止められ、やっぱりこの木刀役に立たないなと思いながら、掴まれた刀ごと僕は投げ飛ばされた。この遠心力に対してよく刀から手を離さなかったなと己を称賛しつつ、地面へ着地。それなりに幅はあるがここは山道であり、茂みのある森に吹き飛ばされたりしたら遭難する恐れがあった。
しかしそれを先代がしないのは、僕とのタイマンを、先代が正面から受け止めてくれてるからだ。
正々堂々と戦う。
威風堂々と殺す。
そんな戦いを、彼は好んでいる。
ならばこちらはそれに甘んじるしかない。
先代に対する戦略など思いつかない。
僕も真正面から先代とぶつかり合うしかないのだ。
しかし、僕はもう体が傷だらけで、彼は傷一つついていないのが現状。現在競り合ってても、僕が押される一方だ。
だが、なんとなくだが、戦いのコツを掴んできたような気がするのは確かで、それは僕自身を生かすために働いた。
微妙にだが、先代の攻撃を避けきれたりすることができるようになってきたのだ。先代のスピードが落ちてきている?
先ほどの灯との小競り合いで疲労したわけでもあるまいし——と、思ったところで、器用に、先代が戦いながら話しかけてきた。
「いい動きになってきたじゃねえか! 最初はただの雑魚だと思ったが、どんどんお前のスピードが上がっていってる……これだから戦いは楽しいなあ!?」
楽しくはない。
ないが、僕の実力が上がってきての結果が、先代の攻撃を避けきるという事実なのだとしたら、先代勇者に僕が勝つという未来も見えてこなくはない。
ただ、一方で考えるのは、そんな戦い好きの先代が恐れをなして逃げるほどの魔物とは、一体……。
「隙ありッ」
僕の横腹に蹴りがめり込み、横へ吹き飛ばされる。すぐそこの木にぶつかって地面に着地できたが、茂みの方に飛ばされていたら危うく遭難していた。戦闘中に他のことを考えていると、遭難どころではない。死んでしまう。気をつけなければ。
呼吸が乱れ、しばらく動けずにいると、先代もこちらの様子を伺うように待っていた。
余裕があるといいたいのか。
最低限、無駄な動きをカットして、しゃがみこんだ体勢から足を踏み出す。全力のスタートダッシュから、先代に斜め下から刀を上に振る。それは防御されたが、今まで回避されてたことが、腕での防御に変わった。僕の刀を避けきれないと判断したのだ。
僕のスピードは確かに上がっている。体が慣れてきているのだ。しかも普通の人間ならば死ぬような攻撃を受けても僕は死なないし、僕も異世界へ来て人間離れできている。魔物と戦える。
その自信が、昂りが、僕を俊敏にする。
気づけば先代の防御していた腕もボロボロで、使い物にならなくなっていた。そこで正面から先代の腹に蹴りを突き出し、腕の防御が崩れたところで、彼の脳天に刀を思い切り振り込んだ。
地面が割れるほどの勢いで地面に叩きつけられた先代は、頭から血を流して動かない。とどめを刺すか。
両手で刀を下向きに突き刺す形で持って、先代の首に狙いをつけた時(こんな刀では刺し殺せないだろうが)、小さく、声が聞こえた。
「——参った……」
先代が、負けを認めた。
僕は勝利したのだった。
すると、今まで気になっていなかった体の痛みが響いて来て、少しふらつく。
ふらついたところに、腕で支えてくれたのが、シバリアさんだった。
「大丈夫ですか!? 今治療します」
短い呪文を唱えて、両掌から暖かい光を出すシバリアさん。その暖かさが傷を癒し、先ほどまであった痣が、すぐさま綺麗になくなった。
「ありがとうございます、シバリアさん」
「それはこちらのセリフです。私のために戦ってくれて、ありがとう。すごく格好良かった……です」
シバリアさんが顔を赤らめつつ放ったその言葉に、耳が熱くなるのを感じつつ、僕は先代を見た。
「魔物が追って来てるそうだ。このまま彼を置いていたら傷で死ぬかもしれないし、魔物に追いつかれて死ぬかもしれない。傷を直してあげてください」
「アオシさんは、それでいいんですか?」
「はい。一応、彼も勇者だし。本来僕らの敵じゃあない」
「わかりました」
自分の命を危険に晒した男を治すシバリアさんは本当に優しい。指示を出したのは僕だが、それを拒否することもできるはずだ。それをしないのは単純に優しいからと言えるだろう。
「二人の傷を一気に治しちゃいます——神の癒しよ、ここに」
全身、サウナほども暑くない、ちょうど良い暖かさに身を包まれ、うっかり寝落ちしてしまいそうになったが、意識を取り戻す。
僕の傷は完全に治っていた。
どこも痛くない。
寝ていた先代も起き上がり、シバリアさんに傷を治されたのだと理解すると、
「心から感謝する」
と、頭を下げた。
「魔物から追われてるんだよね。そいつらはこっちで片付けとくから、馬車とかは貸せないけど、頑張って逃げて」
「マジでヤバい奴らだぞ。俺と張り合ってギリギリ勝てたお前じゃ勝てない」
先代の負け惜しみとも取れる言葉に、
「灯とか、多分僕の百倍強いし、シロやクロだって僕より強いはずだよ。手合わせしたことないからわからないけど」
するとシロが、
「そうじゃのう。見ていてあくびが出そうになったわい」
と、あくびのジェスチャーをしながら言うのだった。
「お前ら強いな。俺なんかじゃ歯が立たない。……ここで話し込んでても仕方ない。もう行く」
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