妹、異世界にて最強

海鷂魚

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三十二話

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「起きてください。見張りの時間です」
 シバリアさんに起こされて目が覚めた。寝たのが八時ごろだったので、アルファとブラボーが見張りを終えたとなると、現在は午前二時あたりか。
 目の前の座席では、座席に横たわるザギが眠っていた。なので、僕とシバリアさんは隣同士になって座席に座った。
 喋ることも特にない。暗闇に意識を向けて、何かいないか警戒するだけの仕事。
 暗闇を見ていると、そこに魔物が潜んでいる気がして、怖い。背中も寒気が走るし、なによりも夜の山は怖すぎる。
 魔物じゃなくても、幽霊とか出て来そう。
『例えば私かい?』
 と、筒井の声が聞こえた気がして、無視する。無視しつつ、寝ている間に見た夢を、反芻していた。
 誰もいない教室で二人きり。
 僕たちはいた。
 どんな話をしていたかも忘れたし、でも、会話を楽しんでいた記憶はある。
 そこで芽生えるのはやはり。
 ずっと、筒井といたい。
 ずっと、夢の中にいたい。
 と、いう恋心だった。
 筒井にだけ熱中したい。
 もう、地獄の様な光景は見たくないのだ。
 人が死ぬところを見たくない。死んでいるところを見たくない。
 怪我をしたくない。死にたくない。
 戦いたくない。
 逃げたい。
 誰かに愛されたい。
 慰めてもらいたい。
 事件に巻き込まれた僕を誰かに癒してもらいたい。
 でも。
 そんなことをしてくれる人は、この世に一人だっていない。
 いたかもしれない。元の世界には。
 あったかもしれない。筒井が生きていて、僕と恋人になってくれる未来が。
 だが、両方無に帰した。
 僕は異世界へ飛ばされたし、筒井は死んだ。
 文武両道で万能感のある筒井でさえ、つまらない交通事故で死んだのだ。勉強が少しできるくらいの僕は、異世界で石にでも躓いて転んで死ぬだろう。
 それが怖い。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 怖い。
 今、眼前に広がる暗闇が怖い。
 闇が僕の心を侵食していく。
 闇が僕の眼球を犯していく。
 いつしか、両目が闇に潰されて、何も見えなくなってしまいそうだ。
 怖い。怖すぎる。もう外を見たくない。
 そう考えて、僕が視線をずらしたのは、車内のシバリアさんにだった。
「?」
 こちらに気づいて、頭を傾げるシバリアさんは可愛かった。広がっていた闇がその歩を止めた。僕にはシバリアさんが必要だ。この人だけは、失いたくない。
 筒井の様に。
 失いたくない。
 僕は黙って、シバリアさんの手を握った。また握り返してくれるシバリアさんはやはり優しかった。それがとてつもなく嬉しかった。
 だから、もう闇は怖くなかった。手をつないでいる間は、闇が怖くなかった。
 空は満天。
 月は森をかすかに照らす。
 それが希望の様に見えた。
 だから、今度こそ闇を直視することができる。
 僕はシバリアさんと手を繋ぎつつ、外の監視を再開させた。
 耳をすませ。
 目を光らせる。
 そうして三時間が過ぎるのを待った。

 
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