32 / 50
三十二話
しおりを挟む
「起きてください。見張りの時間です」
シバリアさんに起こされて目が覚めた。寝たのが八時ごろだったので、アルファとブラボーが見張りを終えたとなると、現在は午前二時あたりか。
目の前の座席では、座席に横たわるザギが眠っていた。なので、僕とシバリアさんは隣同士になって座席に座った。
喋ることも特にない。暗闇に意識を向けて、何かいないか警戒するだけの仕事。
暗闇を見ていると、そこに魔物が潜んでいる気がして、怖い。背中も寒気が走るし、なによりも夜の山は怖すぎる。
魔物じゃなくても、幽霊とか出て来そう。
『例えば私かい?』
と、筒井の声が聞こえた気がして、無視する。無視しつつ、寝ている間に見た夢を、反芻していた。
誰もいない教室で二人きり。
僕たちはいた。
どんな話をしていたかも忘れたし、でも、会話を楽しんでいた記憶はある。
そこで芽生えるのはやはり。
ずっと、筒井といたい。
ずっと、夢の中にいたい。
と、いう恋心だった。
筒井にだけ熱中したい。
もう、地獄の様な光景は見たくないのだ。
人が死ぬところを見たくない。死んでいるところを見たくない。
怪我をしたくない。死にたくない。
戦いたくない。
逃げたい。
誰かに愛されたい。
慰めてもらいたい。
事件に巻き込まれた僕を誰かに癒してもらいたい。
でも。
そんなことをしてくれる人は、この世に一人だっていない。
いたかもしれない。元の世界には。
あったかもしれない。筒井が生きていて、僕と恋人になってくれる未来が。
だが、両方無に帰した。
僕は異世界へ飛ばされたし、筒井は死んだ。
文武両道で万能感のある筒井でさえ、つまらない交通事故で死んだのだ。勉強が少しできるくらいの僕は、異世界で石にでも躓いて転んで死ぬだろう。
それが怖い。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
怖い。
今、眼前に広がる暗闇が怖い。
闇が僕の心を侵食していく。
闇が僕の眼球を犯していく。
いつしか、両目が闇に潰されて、何も見えなくなってしまいそうだ。
怖い。怖すぎる。もう外を見たくない。
そう考えて、僕が視線をずらしたのは、車内のシバリアさんにだった。
「?」
こちらに気づいて、頭を傾げるシバリアさんは可愛かった。広がっていた闇がその歩を止めた。僕にはシバリアさんが必要だ。この人だけは、失いたくない。
筒井の様に。
失いたくない。
僕は黙って、シバリアさんの手を握った。また握り返してくれるシバリアさんはやはり優しかった。それがとてつもなく嬉しかった。
だから、もう闇は怖くなかった。手をつないでいる間は、闇が怖くなかった。
空は満天。
月は森をかすかに照らす。
それが希望の様に見えた。
だから、今度こそ闇を直視することができる。
僕はシバリアさんと手を繋ぎつつ、外の監視を再開させた。
耳をすませ。
目を光らせる。
そうして三時間が過ぎるのを待った。
シバリアさんに起こされて目が覚めた。寝たのが八時ごろだったので、アルファとブラボーが見張りを終えたとなると、現在は午前二時あたりか。
目の前の座席では、座席に横たわるザギが眠っていた。なので、僕とシバリアさんは隣同士になって座席に座った。
喋ることも特にない。暗闇に意識を向けて、何かいないか警戒するだけの仕事。
暗闇を見ていると、そこに魔物が潜んでいる気がして、怖い。背中も寒気が走るし、なによりも夜の山は怖すぎる。
魔物じゃなくても、幽霊とか出て来そう。
『例えば私かい?』
と、筒井の声が聞こえた気がして、無視する。無視しつつ、寝ている間に見た夢を、反芻していた。
誰もいない教室で二人きり。
僕たちはいた。
どんな話をしていたかも忘れたし、でも、会話を楽しんでいた記憶はある。
そこで芽生えるのはやはり。
ずっと、筒井といたい。
ずっと、夢の中にいたい。
と、いう恋心だった。
筒井にだけ熱中したい。
もう、地獄の様な光景は見たくないのだ。
人が死ぬところを見たくない。死んでいるところを見たくない。
怪我をしたくない。死にたくない。
戦いたくない。
逃げたい。
誰かに愛されたい。
慰めてもらいたい。
事件に巻き込まれた僕を誰かに癒してもらいたい。
でも。
そんなことをしてくれる人は、この世に一人だっていない。
いたかもしれない。元の世界には。
あったかもしれない。筒井が生きていて、僕と恋人になってくれる未来が。
だが、両方無に帰した。
僕は異世界へ飛ばされたし、筒井は死んだ。
文武両道で万能感のある筒井でさえ、つまらない交通事故で死んだのだ。勉強が少しできるくらいの僕は、異世界で石にでも躓いて転んで死ぬだろう。
それが怖い。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
怖い。
今、眼前に広がる暗闇が怖い。
闇が僕の心を侵食していく。
闇が僕の眼球を犯していく。
いつしか、両目が闇に潰されて、何も見えなくなってしまいそうだ。
怖い。怖すぎる。もう外を見たくない。
そう考えて、僕が視線をずらしたのは、車内のシバリアさんにだった。
「?」
こちらに気づいて、頭を傾げるシバリアさんは可愛かった。広がっていた闇がその歩を止めた。僕にはシバリアさんが必要だ。この人だけは、失いたくない。
筒井の様に。
失いたくない。
僕は黙って、シバリアさんの手を握った。また握り返してくれるシバリアさんはやはり優しかった。それがとてつもなく嬉しかった。
だから、もう闇は怖くなかった。手をつないでいる間は、闇が怖くなかった。
空は満天。
月は森をかすかに照らす。
それが希望の様に見えた。
だから、今度こそ闇を直視することができる。
僕はシバリアさんと手を繋ぎつつ、外の監視を再開させた。
耳をすませ。
目を光らせる。
そうして三時間が過ぎるのを待った。
0
あなたにおすすめの小説
SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~
しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、
目を覚ますと――そこは異世界だった。
賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、
そして「魔法」という名のシステム。
元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。
一方、現実世界では、
兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。
それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、
科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。
二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。
異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。
《「小説家になろう」にも投稿しています》
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる