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三十一話
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「三時間ずつ誰かが寝て、それを交代しよう」
夕飯なんて食べる気は起こらなかったが、無理やり腹のなかに食べ物を納めている夕食時に、そんな話題が持ち上がった。提案者はザギだった。
「二人起きて、それを三回交代制でやるんだ」
見張りを三時間ずつ、交代でやる。
それはいい提案だと思った。
三時間ずつなら総合で九時間は寝られる。一人六時間寝られる計算だ。
「アルファ、ブラボー、チャーリーのチームを作ろう」
僕が補足で提案する。二人組なら三チーム必要だ。この世界でアルファベットが通じるか不安だったので、通話表に基づいたチーム名を作ったけれど、
「不思議なチーム名だな」
と、ザギから突っ込まれたので、やはりアルファベットやそれに関する言葉は通じないのだった。
僕たちは現在、シバリアさんの照らす灯りが燈る馬車の中、食事をしていた。と、言ってもヴィルランドールさんは運転席で一人だ。小さなランプを照らしてご飯を食べている。それに関しては、本人が気にしなくていいというので気にしないようにはしているが、運転席は雨よけの天井があるだけで、馬車の外部に接続されている。魔物に見つかったら、一番最初にやられるのはヴィルランドールさんだろう。それが心配だった。
心配事といえば、ザギが加わったことによる食料問題も、解決こそしないが、問題自体が小さい。お互い食事量を減らせばいいだけだ。今まで満腹になるまで食べていたのが、腹八分目くらいにする程度の我慢。そのくらいなら何も問題はなかったといっても過言ではない。
「アルファが一番最初に見張りをして、ブラボーが二番目。三番目がチャーリー」
この場合、一番きついのはブラボーではないだろうか。三時間ずつ見張りをすると、三時間寝て三時間起きて三時間寝るという睡眠時間の組み合わせになる。寝た気はあまりしなさそうだ。
それを解決するには、最初アルファブラボーチャーリーの順番だったのを、ブラボーチャーリーアルファ、チャーリーアルファブラボー。と、三日で一周するように組まなくてはならない。
それを説明して、みんな納得してくれた。灯は首を傾げていたが、実際にやれば理解するはずだ。頭で理解できなくても体で覚えるやつなのだ、この妹は。
だからゲームなどがめっぽう強い。アクションゲームとか、全国ランキング十位以内にいつもいるようなスコアを叩き出すやつだった。
それはゲームだけの話ではなく。
部活動(灯はバスケ部)でも、県内一位の座をチームとともに手に入れたりと、体で覚えることなら才能を発揮するやつだ。
心配はあまりいらない。
「チーム決めとなると、儂とクロのチームは譲れんのう」
シロが先手を打って言う。それはいい。誰がどう組もうが見張りの能力なんてわからないのだ。こいつは見張りがダメだからこいつと組み合わせて——なんて、そんなチーム決めは必要ない。ただ好きにチームを組めばいい。
「じゃ、じゃあ私は、アオシさんと、組みたいです……」
シバリアさんが遠慮気味に挙手しつつ、僕を見ていた。
シバリアさんと組めるとなるとかなり嬉しいが、戦力が少し偏るのが難点だな……。やはりそこら辺はチームの組み替えが必要か……?
「じゃあ私はザギとだね! よろしくザギ!」
「ああ。寝るなよ?」
「了解!」
問題を口に出す前に、チームが決まってしまった。まあ、決まってしまったのなら仕方がない。このまま続行しよう。
僕はシバリアさんと組むことになった。
「じゃあ、どの組みがアルファやブラボーやチャーリーに行くか決めよう」
「儂らは睡眠時間が短くても多少は大丈夫じゃ。ブラボーになろう」
シロがそう提案する。最初に嫌な役割を担ってくれるのは優しいが、どうせ皆に嫌な役割は巡ってくるのだ。だがシロに感謝を忘れてはならないだろう。その優しさが、癒しになるのだ。
クロも反対はしなかったので、シロクロの二人はブラボーに専属した。
「私たちはアルファ!」
「異論はない」
と言うふたりだったので、灯とザギはアルファ。
僕とシバリアさんがチャーリーとなった。
「じゃあもう歯磨きして寝よう!」
「外には気をつけろよ。魔物がいるかもしれない」
僕が灯に注意を促すと、
「近くに何かいたら私等が気づく。そんな心配せんでもいい」
シロが自信満々にそう言うのだった。その慢心が死に繋がらなければいいが……。
まあ確かに、人間よりは身体能力が上になるハーフのシロとクロである。
この二人を信頼して背中を預けよう。
外に出て、みんなで歯を磨いた。
ザギは何も手荷物を持っておらず、歯も磨かないらしい。曰く、
「サバイバルで虫歯の心配か? 呑気だな」
とのこと。
まあ確かにそうだが、身体的に衛生面を確保できると言うのは、精神衛生上もいい。歯磨きなんて確かに無駄かもしれなかったが、それでもいいのだ。
「じゃあおやすみ。頼んだぜ、灯」
アルファの二人が起きて見張りをする間、僕たちは寝る。見張る二人は馬車の中で過ごすので、テントが一つ空く。そこにはシバリアさんに寝てもらって、僕は馬車で寝るのだった。
灯は僕に配慮してか、珍しく物静かに見張り役を担っていた。
ザギも言葉数の多い男ではない。
馬車の席は少し狭いが、文句なく眠れそうだ。
夕飯なんて食べる気は起こらなかったが、無理やり腹のなかに食べ物を納めている夕食時に、そんな話題が持ち上がった。提案者はザギだった。
「二人起きて、それを三回交代制でやるんだ」
見張りを三時間ずつ、交代でやる。
それはいい提案だと思った。
三時間ずつなら総合で九時間は寝られる。一人六時間寝られる計算だ。
「アルファ、ブラボー、チャーリーのチームを作ろう」
僕が補足で提案する。二人組なら三チーム必要だ。この世界でアルファベットが通じるか不安だったので、通話表に基づいたチーム名を作ったけれど、
「不思議なチーム名だな」
と、ザギから突っ込まれたので、やはりアルファベットやそれに関する言葉は通じないのだった。
僕たちは現在、シバリアさんの照らす灯りが燈る馬車の中、食事をしていた。と、言ってもヴィルランドールさんは運転席で一人だ。小さなランプを照らしてご飯を食べている。それに関しては、本人が気にしなくていいというので気にしないようにはしているが、運転席は雨よけの天井があるだけで、馬車の外部に接続されている。魔物に見つかったら、一番最初にやられるのはヴィルランドールさんだろう。それが心配だった。
心配事といえば、ザギが加わったことによる食料問題も、解決こそしないが、問題自体が小さい。お互い食事量を減らせばいいだけだ。今まで満腹になるまで食べていたのが、腹八分目くらいにする程度の我慢。そのくらいなら何も問題はなかったといっても過言ではない。
「アルファが一番最初に見張りをして、ブラボーが二番目。三番目がチャーリー」
この場合、一番きついのはブラボーではないだろうか。三時間ずつ見張りをすると、三時間寝て三時間起きて三時間寝るという睡眠時間の組み合わせになる。寝た気はあまりしなさそうだ。
それを解決するには、最初アルファブラボーチャーリーの順番だったのを、ブラボーチャーリーアルファ、チャーリーアルファブラボー。と、三日で一周するように組まなくてはならない。
それを説明して、みんな納得してくれた。灯は首を傾げていたが、実際にやれば理解するはずだ。頭で理解できなくても体で覚えるやつなのだ、この妹は。
だからゲームなどがめっぽう強い。アクションゲームとか、全国ランキング十位以内にいつもいるようなスコアを叩き出すやつだった。
それはゲームだけの話ではなく。
部活動(灯はバスケ部)でも、県内一位の座をチームとともに手に入れたりと、体で覚えることなら才能を発揮するやつだ。
心配はあまりいらない。
「チーム決めとなると、儂とクロのチームは譲れんのう」
シロが先手を打って言う。それはいい。誰がどう組もうが見張りの能力なんてわからないのだ。こいつは見張りがダメだからこいつと組み合わせて——なんて、そんなチーム決めは必要ない。ただ好きにチームを組めばいい。
「じゃ、じゃあ私は、アオシさんと、組みたいです……」
シバリアさんが遠慮気味に挙手しつつ、僕を見ていた。
シバリアさんと組めるとなるとかなり嬉しいが、戦力が少し偏るのが難点だな……。やはりそこら辺はチームの組み替えが必要か……?
「じゃあ私はザギとだね! よろしくザギ!」
「ああ。寝るなよ?」
「了解!」
問題を口に出す前に、チームが決まってしまった。まあ、決まってしまったのなら仕方がない。このまま続行しよう。
僕はシバリアさんと組むことになった。
「じゃあ、どの組みがアルファやブラボーやチャーリーに行くか決めよう」
「儂らは睡眠時間が短くても多少は大丈夫じゃ。ブラボーになろう」
シロがそう提案する。最初に嫌な役割を担ってくれるのは優しいが、どうせ皆に嫌な役割は巡ってくるのだ。だがシロに感謝を忘れてはならないだろう。その優しさが、癒しになるのだ。
クロも反対はしなかったので、シロクロの二人はブラボーに専属した。
「私たちはアルファ!」
「異論はない」
と言うふたりだったので、灯とザギはアルファ。
僕とシバリアさんがチャーリーとなった。
「じゃあもう歯磨きして寝よう!」
「外には気をつけろよ。魔物がいるかもしれない」
僕が灯に注意を促すと、
「近くに何かいたら私等が気づく。そんな心配せんでもいい」
シロが自信満々にそう言うのだった。その慢心が死に繋がらなければいいが……。
まあ確かに、人間よりは身体能力が上になるハーフのシロとクロである。
この二人を信頼して背中を預けよう。
外に出て、みんなで歯を磨いた。
ザギは何も手荷物を持っておらず、歯も磨かないらしい。曰く、
「サバイバルで虫歯の心配か? 呑気だな」
とのこと。
まあ確かにそうだが、身体的に衛生面を確保できると言うのは、精神衛生上もいい。歯磨きなんて確かに無駄かもしれなかったが、それでもいいのだ。
「じゃあおやすみ。頼んだぜ、灯」
アルファの二人が起きて見張りをする間、僕たちは寝る。見張る二人は馬車の中で過ごすので、テントが一つ空く。そこにはシバリアさんに寝てもらって、僕は馬車で寝るのだった。
灯は僕に配慮してか、珍しく物静かに見張り役を担っていた。
ザギも言葉数の多い男ではない。
馬車の席は少し狭いが、文句なく眠れそうだ。
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