妹、異世界にて最強

海鷂魚

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三十話

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 シュバルハとアルハの国境にある村。シュバルハ最先端の村に到着したのは、夕方だった。この村から一時間もすればアルハに到着する——その村だが。
 壊滅していた。
 小さな村で、小さくない人間の体がバラバラにされて、無惨に放置されていた。
 血溜まりが、血飛沫の跡が、剥がれた頭皮が、飛ばされた頭部が、転がる眼球が、散らばった内臓が、指が、腕が、足が、剥き出しの骨が。
 事の凄惨さを染み染みと僕たちに伝えている。
「ここで、寝泊まりは……」
 できないだろう。
 腐敗臭が凄まじい。殺されて数日は経っている。
「しかし戻るにしても、山しかありませんぞ」
「もう少し進むか?」
「そこも山ね」
「山の中で寝泊りやだ! キモイ虫飛んでる!」
「わがまま言うな」
「山の中でないとしたらこの村で過ごすか? 正気か?」
「この村もやだ!」
「喧しいのう。テントの中や馬車だったら虫も入らんじゃろ」
「ザギの寝るところはどうするの?」
「あ、ないね」
「冷静だなお前ら。この村の現状を理解してんのか」
「してるわよ。みんな死んでるわね」
「だったらそれどころじゃないだろ」
「喧しいのう。この村の惨状を招いた犯人はザギに殺されたあの巨体の魔物じゃろうが。ことは解決しておる」
「だから! 寝る場所!」
「そうじゃなくて近くに魔物がいるかもしれない!」
「いたら殺してやる」
「そう言う問題じゃ……」
「じゃあお前は馬車にでも引きこもってろ」
「喧嘩すんな!」
「喧嘩ね……。こんな時に呑気な」
「呑気なのは誰だ」
「みんな真剣だろう」
「真剣に寝る場所探しか。死体の横で」
「寝る場所も肝心だよ! この村で汚れてないところないかなぁ」
「お前なぁ……」
「なに?」
「あ?」
「皆さん! 落ち着いてください!」
 皆が皆、自由に口を開いている中で、シバリアさんの一声が、シバリアさんに全員を振り向かせた。
「あの、戦えない私が言うのもなんです。でも、落ち着いて行動しましょう。敵はとっくに近くにいる可能性の方が高いんです。寝る場所だってわがまま言えません。臨戦態勢は解かない方がいいです。皆さんちゃんと内容のある会話をしましょう。チームワークをとりましょう。仲良くしなくていいから、守り合いましょう? そうじゃなきゃ、ここで亡くなった方々のように、私たちがなります!」
「…………」
 返す言葉がない。
 それは全員そうだった。
 歴戦の冒険者であるザギでさえ、この惨状に平常心を奪われていた。全員、混乱していた。シバリアさん以外は。
 戦えないシバリアさんだからこそ、一番冷静にことを分析し、俯瞰視していた。
 僕らは想像してしまったのだ。人間の体をこうもバラバラにする悪魔のような敵と、どう戦えばいいのか。想像して、恐怖した。
 しかし戦う必要のない、戦わないことで味方に貢献できる立場の人間であるシバリアさんだからこそ、恐怖せずに——いや、多少は怖いだろうが、混乱もせず、冷静にいられたのだ。
 そんなシバリアさんに、助けられた。
 僕たち全員、強弱関係なく。
 冷静でいられるものが勝つのだ。生き残るのだ。
「とりあえず、ザギさんの寝床は大丈夫。馬車は三人がけの席だから、座って寝ればいい。そしてすこし前進しよう。この村の惨状の犯人が、ザギさんに殺された魔物の仕業であったらラッキーだけど、そうじゃなかった場合、僕たちは魔物とすれ違ってるか、魔物がこの村の付近にいるかだ。ならすれ違いを考慮して、すこし前進しよう。魔物と出会う確率を半分に出来る」
 死体を前に冷静になれたわけではない。ないが、シバリアさんの姿を見て、僕は指示を出せた。そしてその指示に反抗する者はおらず、馬車に乗って、村を過ぎることにした。
 村の中は最悪だった。夕日に照らされる死体が、血液を反射させ、煌めいていた。
 腐りかけて肥大した死体や。
 蛆の湧いている死体。
 子供の死体が一番怖かった。
 ああ、こんな子供まで。
 子供くらい、許してやったっていいじゃないか。
 そんな風に思って、口には出さないでいた。
 裏腹に、こんな猟奇的な性質を持つ魔物を、この世界に残しては駄目だ。と、思ってしまったからである。
 それが魔物の子供でさえも、根絶しなければならない。
 そう思えるほどに、死体は惨劇を物語っており。
 悲劇を招いていた。
 結局は、魔物も人間も変わらない。
 それが戦争であり。
 殺し合いなのだった。
 今回、この村がこの戦争において、敗北したと、そう言うことである。
 同情こそするが、感情的にはなるな。そう自分に言い聞かせ、村を過ぎるのを待つ。馬車が、崩れた家屋の破片や、死体のどの部分かもわからない部位を踏み潰しながら進んでいく振動を体で感じつつ、ただ待つ。だが、警戒は怠れない。外を見てなくてはならない。敵がいるかもしれないから。
 だが、目に入るのは敵ではなく、死体。
 死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。
 死体。
「これを」
 シバリアさんに差し出されたのは、一枚の白いハンカチ。
「涙を拭いてください。敵の姿が見えなくなります」
 シバリアさんの表情にあったのは、優しさの裏に隠れた無情だった。
 シバリアさんはただ美しいだけの人ではなかった。
 一人の、冒険者なのだ。
 僕は涙を見せてしまった恥を、ハンカチで涙とともに拭い、索敵を再開させた。
 だが。
 涙を拭って見えやすくなったのは、やはり死体だった。
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