妹、異世界にて最強

海鷂魚

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三十四話

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 結婚。
 凡その意味では、愛し合う男女が、恋人から夫婦へ関係性を変える法律行為である。
 愛し合わずに結婚する者もいるだろうが。
 だから、凡その意味、と言っている。
 なので、結婚の意味は知っている。それは理解できている。
 だが、なぜシバリアさんが僕と?
「ご、ごめ、ごめんなさい……」
 そんなことを考えつつ、僕は一気に冷静さを取り戻し、仲間になんて酷いことを言ったのかと、強い罪悪感が押し寄せた。
 無様に泣きながら、ごめんなさい。と、僕は謝り続ける。
 それを、隣から抱きしめてくれるシバリアさんの暖かさを感じて、涙は量を増した。
「大丈夫、アオシ。大丈夫」
「ぅううっ、うううっ」
 冷静さを取り戻しつつ、涙が止まらない。それを冷静かと言えば違うかもしれなかったが、頭の中はシバリアさんのことを考えていた。
 こんな僕を愛してくれる人がいたんだ。
 あんなに酷いことを言ったのに、抱きしめてくれるんだ。
 結婚するまでしてくれるんだ。
 ただ。
「ごめんなさい」
 この謝罪は、僕がみんなに酷いことを言ったからと言う理由で放たれたのではない。
「結婚はできない」
 と、いう理由での謝罪だった。
 涙は止まった。頭もスッキリした。
 だから考えて、結論をだした。
 シバリアさんは悲しそうに、
「そうですか、あらら、公衆の面前で告白したのに、フラれちゃったな……」
 恥ずかしいです。と、シバリアさん。
 だけど、僕の言葉にはまだ続きがあった。
「いや、今は、結婚できないって、いう意味なんです。その、この戦いが終わったら、結婚してください……」
「あわわ……」
 灯とシロが顔を真っ赤にして僕とシバリアさんを交互に見ていた。こいつら以外と初心だな。
「……嬉しい。アオシ。約束ですよ」
「ええ、約束です、シバリアさん」
 もう、みんなの前で散々泣いたのだ。恥など一切なかった。ただ、己を愛してくれる人物への敬意。それだけが僕の胸中を占めた。
「兄ちゃん、おめでと……!」
 灯が涙を目に浮かべながら、ブンブンと、両手を握った状態で縦に振って、応援しているかのように。言葉に言い表せない感情を体で表現していた。
 そう言えば。
 思い出したことがある。
 僕がなぜ戦場へ赴こうとしているのか。
 僕は灯も愛してやると誓ったのだ。その灯が戦場へ行く。だから灯を守ってやるために、僕も戦場へ行くのだ。
 大事なことを、混乱に乗じて失念していた。
 忘れてはならないことを忘れてしまっていた。
「あと、アオシ。私のことは呼び捨てで呼んでください」
「ええ、と。シバリア?」
「はい。シバリアです」
 顔が熱くなる。
 これが愛か。人に愛されるということか。
 嬉しいような——嬉しくないような。
 どっちつかずという感じだ。
 僕だって、好きな人がいて、でもその人は死んでしまって、でもシバリアも好きで、これは浮気か?
『当然のことだぜ? それが人を愛するってことさ。私なんて気にすんな。一生親友でいようぜ』
 筒井の声が聞こえた。僕の妄想かもしれない筒井が、僕を励ますように言っている。
 それでいいのだろうか。
『いいんだよ。死人を愛してるよりか、生きてるその女性を愛せよ。その人の為に生きろ』
 ……ありがとう、筒井。
『どうも。親友に助言するのは当然だぜ』
 筒井の言葉に背中を押された。僕はもう、筒井に恋心を寄せることはない。だが、一生、筒井金切という僕の大好きな親友を、忘れることはないだろう。
「シバリア。ありがとう。みんな、ごめんなさい。僕は、あの死体の山を見て、戦うのが怖くなった。人生で殴り合いの喧嘩もしたことのない僕が、人を平気で惨殺するような奴と戦うなんて、怖くて怖くてたまらなかった。だから逃げ出したくなった。でも逃げるところもなくて、気づいたら暴走していた。本当にごめん」
「小僧の戯言だ。私は気にしていないよ」
 ザギが一番最初に僕に言った。
「私も若い頃は、そんな葛藤をしていた。年齢と経験を重ねるごとに、そんな葛藤もいつしか忘れたが、そういう時期に、シバリアさんのような人が私にも現れてくれたら、私は今よりもっと強くなっていただろう。羨ましいよ、君が。シバリアさんを大切にな」
「はい、ありがとうございます」
「兄ちゃん、私、妹として兄ちゃんが誇らしいよ! 私は馬鹿だからそんなこと一切考えてなかった!」
 こいつは性質がサイコパスに近い。敵であれば、殺すことも躊躇わないし、仲間でなければ、死んでいても気にすることはなかったのだろう。言葉の裏に隠された灯の心境を覗いてぞっとしつつ、
「お前はもっと考えて行動してくれ」
 と、忠告しておいたのだった。
「最も、お主は考えすぎの結果、暴走しておるがな」
「その通りだね、シロ。心配してくれてありがとう」
「なっ、なんも心配しておらんわ!」
「……はぁ、私も何か言わなきゃいけないかしら」
 恥ずかしがるシロの隣で、クロがだるそうにしていた。
「いや、これ以上は恥ずかしいから、助かる」
「そう、よかった」
 クロは何も考えていないわけではない。姉のように行動には出さないが、姉のように優しい心を持っていることを僕は知っている。ここ数日しか共に暮らしていないけれど、さっきだって、一番悲しそうな顔をしたのはクロだ。
 僕に死ねと言われて、クロは悲しそうにした。
 それが一番胸に痛んだ。
 クロ自身、顔や仕草には出さないようにしていたみたいだが。
「クロ、ありがとうな」
 こんな僕のために、悲しんでくれて。
「なんのお礼かしら?」
 クロはこのまま誤魔化すつもりらしい。僕もそれに合わせることにして、これ以上はクロに何も言わなかった。
 クロも何も言わない。
 それが僕とクロの関係だし、それ以上もそれ以下もない。
「アルハに、もうじき着きますぞ。覚悟はよろしいか?」
 運転席から、ヴィルランドールさんの警告が客室に届いた。
 僕はもう、覚悟できている。何回めの覚悟だという話だが、もうあんなに取り乱したりはしない。
 諦めもない。
 全員で生きて帰ると誓う。
「はい、覚悟、決めました」
「ほほほ、それはよかった」
 上品に笑うヴィルランドールさんの語気にも、ただならぬオーラを感じた。
 他の全員の顔にも、闘気が感じられる。
 いよいよ、戦いが始まる。
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