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四十七話
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明るかった空が、太陽が沈んだことによって闇を生み出し始めた。
何時間歩いただろうか。
何回も休憩して、何回も歩いて、それを繰り返しているうちに、僕は魔王都を出た。あと少しでヴィルランドールさんのところに着く。
「ヴィルランドールさん……」
大声を出して、ヴィルランドールさんが気づいてくれることを願ったが、思った他、僕の体力は消耗されていた。
声が全然出ない。
枯れているわけではない。
腹筋に力が入らない。
楽はできないな。
まあこの数時間も楽ではなかった。
この程度で落ち込んでいられない。
そうして歩いて、体感二時間。
馬車が見えた。そこに座っていたヴィルランドールさんも見えた。
「お、おぉ……」
首無し死体と気絶した妹を抱えている男が現れて、言葉が出ないようだ。
「シロとクロは死にました。死体は残らなかった。でも、シバリアの死体は残ったので、持ってきました」
「アカリさんは生きて……?」
「はい。こいつは生きてますが、能力が消えました。今は今まで使った筋力の筋肉痛で気絶しています」
「シバリアさんのご遺体はどうしたら……王都までは持っていけませんぞ……おそらく腐敗するかと……」
そうとう僕に気を使ってくれているらしい。
「何かしらの形で墓を作ってやりたいんです」
「どうしましょうか……?」
「とりあえず、地図で近くのアルハの村まで行ってくれますか?」
「いいのですか? 魔物の巣窟ですぞ」
「僕が聞いた話だと、多分アルハの村には誰もいません」
「そうですか……では走って数分のところに村がありますので、行きましょう」
僕から灯を受け取ったヴィルランドールさんは灯を馬車に乗せた。
「シバリアさんのご遺体も運びましょう」
「大丈夫です。状態が状態なので、触らないほうが精神衛生上いいですよ」
「……そうですな」
そうして僕はシバリアを馬車に乗せ、座らせようとしたが、死後硬直によって座らせることは難しかった。シバリアを抱くようにして僕が座った。
そして馬車は発車した。
本当にすぐだった。村が見えた。
「本当ですな。誰もいない」
「探せばシャベルなど、何かあるはずです。探してくれますか。僕も一緒に探すので」
「いや、アオシさんは休んでいてください。顔色も悪いし、そうとう疲れておられる」
「…………お願いします」
ヴィルランドールさんは馬車を降りて、シャベルを探しに行った。
「にい……」
灯が小さく呟いた。意識が戻ったようだ。
「にい……ちゃん」
「僕はここにいるよ」
「うん……兄ちゃん、みんなは……?」
「死んだよ」
「そ……う」
ただ静かに涙を流す灯を見て、僕の目からも自然と涙が出る。
嗚咽を漏らすこともなく。
ただ静かに、僕らは泣いていた。
そこに言葉などない。
仲間が死んだ悲しみとか、味方に裏切られた悲しみとか、自分だけ生き残った悲しみとか、多分それだけではない。
全ての思いを総ざらいして、僕たちは泣いている。
泣き言はいらない。
ただただ泣くだけ。
「それは、シバリア?」
「ああ。シバリアの死体だけが残ったから、雨晒しも可哀想だろ? だから連れてきた」
残った死体も、原型はとどめていないが。
「灯……」
「…………」
灯は再び眠ってしまったらしい。
起きているよりはマシだ。少しでも休んでいてほしい。
「シャベルがありましたぞ」
しばらくして、ヴィルランドールさんがシャベルを片手に二本持ってやってきた。
「手伝ってくれるんですか?」
「そうですとも。さ、シバリアさんもそのままでは不憫でしょう。どこかいいところに墓を建ててあげましょうぞ」
「ありがとうございます」
これでシバリアが救われるのは考えにくいが。
そこらへんに捨てておくよりはよっぽどマシだ。
「しかし、どのくらい掘ればいいのでしょうな」
「あまり浅いと、野犬などに掘り返されます。できるだけ深く掘りましょう」
シバリアを抱えて僕は馬車を降り、村のはずれにある丘を目指した。そこにシバリアを土葬するとヴィルランドールさんと決めた。
そして深さにして二メートルほど掘った。二メートルほど掘ったところで、これ以上掘ると、掘ってる人間が上がれなくなるので、このくらいにした。
上に待機してもらったヴィルランドールさんの手を借りて穴を出て、シバリアの遺体をゆっくりと穴に下ろした。
そして掘り返した土を穴に埋め直す。
それまでで、また二、三時間は使った。
シバリアの遺体を穴に埋めている間、僕はずっと泣いていた。泣きながらシバリアを埋めた。
ヴィルランドールさんは泣かなかった。ただ、時折僕に声をかけて、励ましてくれた。励ましてくれたから、僕は最後まで埋葬作業を続けることができた。
そうでなければ、僕もシバリアの遺体とともに、土に身を捧げるところだった。
そして埋葬を終え、僕はシバリアに手を合わせるのだった。
「それは、アオシさんの世界での黙祷ですかな」
「あ、はい。こうして、掌を合わせて、黙祷するんです」
ヴィルランドールさんは見よう見まねでシバリアの墓に手を合わせてくれた。
その優しさでまた涙が溢れた。もう水分不足で頭痛が凄まじい。
「シャベル片して、馬車に戻りましょう」
「もういいのですか? そんなに急かなくてもよいのですぞ」
「……これ以上ここにいると、本当に死んでしまいたくなる」
「……わかりました。シャベルは私が元の場所に戻しておきますので、先に馬車へ戻っていてください」
「ありがとうございます」
そうして僕とヴィルランドールさんは一旦別れ、僕は足早に馬車へ戻りたかったが、途中で自分の足につまづいて転んだ。
「いって……」
シバリアを埋葬できて、気が抜けたのか。
起き上がり、馬車へ再び歩を向ける。
「灯?」
馬車へ戻って、灯の様子を確認したが、まだ眠ったままだ。
そのうちヴィルランドールさんも戻り、馬車は再び発進した。
シュバルハ、王都へ向けて。
何時間歩いただろうか。
何回も休憩して、何回も歩いて、それを繰り返しているうちに、僕は魔王都を出た。あと少しでヴィルランドールさんのところに着く。
「ヴィルランドールさん……」
大声を出して、ヴィルランドールさんが気づいてくれることを願ったが、思った他、僕の体力は消耗されていた。
声が全然出ない。
枯れているわけではない。
腹筋に力が入らない。
楽はできないな。
まあこの数時間も楽ではなかった。
この程度で落ち込んでいられない。
そうして歩いて、体感二時間。
馬車が見えた。そこに座っていたヴィルランドールさんも見えた。
「お、おぉ……」
首無し死体と気絶した妹を抱えている男が現れて、言葉が出ないようだ。
「シロとクロは死にました。死体は残らなかった。でも、シバリアの死体は残ったので、持ってきました」
「アカリさんは生きて……?」
「はい。こいつは生きてますが、能力が消えました。今は今まで使った筋力の筋肉痛で気絶しています」
「シバリアさんのご遺体はどうしたら……王都までは持っていけませんぞ……おそらく腐敗するかと……」
そうとう僕に気を使ってくれているらしい。
「何かしらの形で墓を作ってやりたいんです」
「どうしましょうか……?」
「とりあえず、地図で近くのアルハの村まで行ってくれますか?」
「いいのですか? 魔物の巣窟ですぞ」
「僕が聞いた話だと、多分アルハの村には誰もいません」
「そうですか……では走って数分のところに村がありますので、行きましょう」
僕から灯を受け取ったヴィルランドールさんは灯を馬車に乗せた。
「シバリアさんのご遺体も運びましょう」
「大丈夫です。状態が状態なので、触らないほうが精神衛生上いいですよ」
「……そうですな」
そうして僕はシバリアを馬車に乗せ、座らせようとしたが、死後硬直によって座らせることは難しかった。シバリアを抱くようにして僕が座った。
そして馬車は発車した。
本当にすぐだった。村が見えた。
「本当ですな。誰もいない」
「探せばシャベルなど、何かあるはずです。探してくれますか。僕も一緒に探すので」
「いや、アオシさんは休んでいてください。顔色も悪いし、そうとう疲れておられる」
「…………お願いします」
ヴィルランドールさんは馬車を降りて、シャベルを探しに行った。
「にい……」
灯が小さく呟いた。意識が戻ったようだ。
「にい……ちゃん」
「僕はここにいるよ」
「うん……兄ちゃん、みんなは……?」
「死んだよ」
「そ……う」
ただ静かに涙を流す灯を見て、僕の目からも自然と涙が出る。
嗚咽を漏らすこともなく。
ただ静かに、僕らは泣いていた。
そこに言葉などない。
仲間が死んだ悲しみとか、味方に裏切られた悲しみとか、自分だけ生き残った悲しみとか、多分それだけではない。
全ての思いを総ざらいして、僕たちは泣いている。
泣き言はいらない。
ただただ泣くだけ。
「それは、シバリア?」
「ああ。シバリアの死体だけが残ったから、雨晒しも可哀想だろ? だから連れてきた」
残った死体も、原型はとどめていないが。
「灯……」
「…………」
灯は再び眠ってしまったらしい。
起きているよりはマシだ。少しでも休んでいてほしい。
「シャベルがありましたぞ」
しばらくして、ヴィルランドールさんがシャベルを片手に二本持ってやってきた。
「手伝ってくれるんですか?」
「そうですとも。さ、シバリアさんもそのままでは不憫でしょう。どこかいいところに墓を建ててあげましょうぞ」
「ありがとうございます」
これでシバリアが救われるのは考えにくいが。
そこらへんに捨てておくよりはよっぽどマシだ。
「しかし、どのくらい掘ればいいのでしょうな」
「あまり浅いと、野犬などに掘り返されます。できるだけ深く掘りましょう」
シバリアを抱えて僕は馬車を降り、村のはずれにある丘を目指した。そこにシバリアを土葬するとヴィルランドールさんと決めた。
そして深さにして二メートルほど掘った。二メートルほど掘ったところで、これ以上掘ると、掘ってる人間が上がれなくなるので、このくらいにした。
上に待機してもらったヴィルランドールさんの手を借りて穴を出て、シバリアの遺体をゆっくりと穴に下ろした。
そして掘り返した土を穴に埋め直す。
それまでで、また二、三時間は使った。
シバリアの遺体を穴に埋めている間、僕はずっと泣いていた。泣きながらシバリアを埋めた。
ヴィルランドールさんは泣かなかった。ただ、時折僕に声をかけて、励ましてくれた。励ましてくれたから、僕は最後まで埋葬作業を続けることができた。
そうでなければ、僕もシバリアの遺体とともに、土に身を捧げるところだった。
そして埋葬を終え、僕はシバリアに手を合わせるのだった。
「それは、アオシさんの世界での黙祷ですかな」
「あ、はい。こうして、掌を合わせて、黙祷するんです」
ヴィルランドールさんは見よう見まねでシバリアの墓に手を合わせてくれた。
その優しさでまた涙が溢れた。もう水分不足で頭痛が凄まじい。
「シャベル片して、馬車に戻りましょう」
「もういいのですか? そんなに急かなくてもよいのですぞ」
「……これ以上ここにいると、本当に死んでしまいたくなる」
「……わかりました。シャベルは私が元の場所に戻しておきますので、先に馬車へ戻っていてください」
「ありがとうございます」
そうして僕とヴィルランドールさんは一旦別れ、僕は足早に馬車へ戻りたかったが、途中で自分の足につまづいて転んだ。
「いって……」
シバリアを埋葬できて、気が抜けたのか。
起き上がり、馬車へ再び歩を向ける。
「灯?」
馬車へ戻って、灯の様子を確認したが、まだ眠ったままだ。
そのうちヴィルランドールさんも戻り、馬車は再び発進した。
シュバルハ、王都へ向けて。
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