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四十八話
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「どうも。勇者様……の、お兄様かな」
その男はとても古い、暗く埃臭い部屋にいた。ボロボロの木の椅子に腰掛けていた。宮殿の中で、唯一、ここだけは宮殿の様相をしていない。
件の事件から一週間以上が経ち、僕は難しくもなく、その男——ミミッチュアと相対することができた。
「そろそろくる頃かと思っていたよ。私の先見は外れないな」
「じゃあ、今灯がどうなっているか、わかりますか?」
「ああ。ここに勇者様がいなくとも、勇者様から発せられる呪いが感じられるよ」
「そう。呪い。あいつは呪われている。今まで使ってきた力の代償として、筋肉痛に襲われていると僕は教えられたが、あれはただの筋肉痛じゃない」
「ただの筋肉痛なのだとしたら、とっくに死んでいる」
ミミッチュアの言う通り。
これは僕がシュバルハ王都に着いてすぐ、病院に駆け込んだときのことだ。
「これは、怪我ではありません。呪いです」
そう、主治医に伝えられた。
「魔法において、人を殺傷できる能力には一つの欠点がある。それは、能力に何かしらの欠点が必要だと言うことだ」
ミミッチュアは僕が回想していた主治医のセリフを見事言い当てた。
「勇者様の場合、その欠点が全身を襲う痛みとなったわけか。そして、私ならその呪いを解ける、と、その主治医に教わったのだな?」
と、立ち上がった。
背の高い男だ。身長の割に細身。
髪の毛は白く縮れているし、その割に長髪である。魔女のような姿をした男。
その彼は僕の元へ近づき、
「感謝を、申し上げる」
「……どういう……」
「西田光を殺したということが、どれだけ素晴らしい事実か。きみも知ってるだろう。私は彼の正体を見破っていたが、彼に対抗するだけの力がなかった。だが、今となっては私の力を有効活用できる条件が揃っている。勇者様の呪いを解いてみせよう」
「ミミッチュアさん。それだけが僕の求めていることではないのは、わかってますよね」
「……ほう。私が、君たちを召喚した魔術師だと知っていたのか」
全てを話していないのに、恐ろしく察しのいい男だが、敵対している人間ではない。僕は素直に、
「三寂に聞きました」
と、魔王、西田を殺した彼女の名を口にした。
「それも、彼女の役目だ。魔王を倒したあと、私のところに案内しろと伝えてある」
だからか。
三寂がやけに僕の要求を簡単に受け入れたのは。
僕がミミッチュア——僕らをここに召喚した魔術師を探すという提案を簡単に飲んだのは、そのためだ。
「時間も戻そう。君たちがここにくる直前の時間軸に、君たちを飛ばす。それでいいね。私からの要求はない」
西田光を殺してくれただけでも、お釣りがくる。と、ミミッチュア。
そしてミミッチュアは、部屋の出入り口に立っていた僕を退けると、フラフラとした足つきで、歩き出した。
「どうした? 付いて来い。勇者様の呪いを解きに行くぞ」
「は、はい」
僕とミミッチュアは無事合流し、現在死にかけの灯が入院している病院に向かった。
「旅はどうだった?」
道中、ミミッチュアからの質問に、僕は今まで溜め込んでいた全ての悪感情を吐き出す。
「行きも帰りも、つらかったですよ。特に帰りは、仲間も、ここで出会った婚約者すら失って、みんな死んでしまって、僕も死んでしまおうかと思いました。何度も何度も自殺を図りたくなって。すんでのところでやめました」
「賢明なことだ」
歩いて数分、馬車(タクシー)に乗り込み、数分。
そうしてたどり着いた、灯の入院先。病院を見上げ、ミミッチュアは、
「凄まじいオーラだ。呪いから発せられる禍々しい怨念が、病院全体を覆い尽くしている。これでは周りの患者にも被害が行くかもしれん。急ごう」
と、僕が灯のいる部屋まで案内もしていないのに、すぐさま、灯のいる部屋にたどり着いた。それも呪いのオーラをたどってのことだろうか。
灯は様々な医療器具が取り付けられた状態で、ベッドに横たわっている。未だに意識はない。
「では、呪いを解除し、同時に、君たちを元の世界へ戻す。勇者様の手を握っていてくれ」
ミミッチュアの指示により、僕は灯の細くなった手を、包むように握った。
一週間は食事もろくにとれず、それは入院してからも変わらない。
ずいぶんやせ細った妹を痛ましく思いながら、僕はミミッチュアを見た。それが合図になった。
「神よ——」
そしてミミッチュアの呪文の詠唱が始まり。
「異世界へ、送りたまえ」
その瞬間、僕の意識は、ノロジーに来た時のような歪みを生じさせ、やがて暗転する。
その先にいたのは、緑色の髪の毛をした、女性だった。
彼女の名は、シバリア。
死んだはずの、最愛の人だった。
その男はとても古い、暗く埃臭い部屋にいた。ボロボロの木の椅子に腰掛けていた。宮殿の中で、唯一、ここだけは宮殿の様相をしていない。
件の事件から一週間以上が経ち、僕は難しくもなく、その男——ミミッチュアと相対することができた。
「そろそろくる頃かと思っていたよ。私の先見は外れないな」
「じゃあ、今灯がどうなっているか、わかりますか?」
「ああ。ここに勇者様がいなくとも、勇者様から発せられる呪いが感じられるよ」
「そう。呪い。あいつは呪われている。今まで使ってきた力の代償として、筋肉痛に襲われていると僕は教えられたが、あれはただの筋肉痛じゃない」
「ただの筋肉痛なのだとしたら、とっくに死んでいる」
ミミッチュアの言う通り。
これは僕がシュバルハ王都に着いてすぐ、病院に駆け込んだときのことだ。
「これは、怪我ではありません。呪いです」
そう、主治医に伝えられた。
「魔法において、人を殺傷できる能力には一つの欠点がある。それは、能力に何かしらの欠点が必要だと言うことだ」
ミミッチュアは僕が回想していた主治医のセリフを見事言い当てた。
「勇者様の場合、その欠点が全身を襲う痛みとなったわけか。そして、私ならその呪いを解ける、と、その主治医に教わったのだな?」
と、立ち上がった。
背の高い男だ。身長の割に細身。
髪の毛は白く縮れているし、その割に長髪である。魔女のような姿をした男。
その彼は僕の元へ近づき、
「感謝を、申し上げる」
「……どういう……」
「西田光を殺したということが、どれだけ素晴らしい事実か。きみも知ってるだろう。私は彼の正体を見破っていたが、彼に対抗するだけの力がなかった。だが、今となっては私の力を有効活用できる条件が揃っている。勇者様の呪いを解いてみせよう」
「ミミッチュアさん。それだけが僕の求めていることではないのは、わかってますよね」
「……ほう。私が、君たちを召喚した魔術師だと知っていたのか」
全てを話していないのに、恐ろしく察しのいい男だが、敵対している人間ではない。僕は素直に、
「三寂に聞きました」
と、魔王、西田を殺した彼女の名を口にした。
「それも、彼女の役目だ。魔王を倒したあと、私のところに案内しろと伝えてある」
だからか。
三寂がやけに僕の要求を簡単に受け入れたのは。
僕がミミッチュア——僕らをここに召喚した魔術師を探すという提案を簡単に飲んだのは、そのためだ。
「時間も戻そう。君たちがここにくる直前の時間軸に、君たちを飛ばす。それでいいね。私からの要求はない」
西田光を殺してくれただけでも、お釣りがくる。と、ミミッチュア。
そしてミミッチュアは、部屋の出入り口に立っていた僕を退けると、フラフラとした足つきで、歩き出した。
「どうした? 付いて来い。勇者様の呪いを解きに行くぞ」
「は、はい」
僕とミミッチュアは無事合流し、現在死にかけの灯が入院している病院に向かった。
「旅はどうだった?」
道中、ミミッチュアからの質問に、僕は今まで溜め込んでいた全ての悪感情を吐き出す。
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歩いて数分、馬車(タクシー)に乗り込み、数分。
そうしてたどり着いた、灯の入院先。病院を見上げ、ミミッチュアは、
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と、僕が灯のいる部屋まで案内もしていないのに、すぐさま、灯のいる部屋にたどり着いた。それも呪いのオーラをたどってのことだろうか。
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一週間は食事もろくにとれず、それは入院してからも変わらない。
ずいぶんやせ細った妹を痛ましく思いながら、僕はミミッチュアを見た。それが合図になった。
「神よ——」
そしてミミッチュアの呪文の詠唱が始まり。
「異世界へ、送りたまえ」
その瞬間、僕の意識は、ノロジーに来た時のような歪みを生じさせ、やがて暗転する。
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