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五話「それから」
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あれから一ヶ月。毎日エナジードリンクを飲んでは家の周りを見張る苺だった。毎日毎時間毎秒。ずっと家事もほったらかしにして。しかし何事も起こることはなかった。
「当たり前じゃん。苺が見張ってんだから、誰も襲撃出来ないでしょ」
誰もこなかったことを言うと、渚はそう返した。
「それより一ヶ月の間で部屋がずいぶん散らかったよ。頼むぜ、苺」
「はい、すみませんでした」
そう言って家事に取り掛かる苺。渚はまた研究室に戻っていった。
(僕がいった通り、苺が見張っているから誰も襲撃にこないのだとしたら、苺が見張りをやめた今日あたりとか、嫌な予感がするな)
渚はそう考える。
考えすぎか。
苺が殺し屋としてどのような技術を持って、どのような体術を持っているのかを調査するためだけに嵌められた気がする。
気がするだけだが。
気がかりなのは、一ヶ月前、喫茶店で出会ったあの男。
渚が苺を使った殺しの依頼を受ける際、仲介人を通して依頼を受けている。その仲介人が使う合言葉が山に川であったのだが、それを直接渚に使ってくるあたりどこか挑発されている気がする。
挑発じゃなくとも。
仲介人を通さずして殺しの依頼を直接直談判しにくる奴、初めて見た。
渚はまずそこに驚愕する。
そして次。
気まぐれでやってきた喫茶店の、気まぐれで選んだ席にちょうど良く座っていたことだ。
未来予知能力者か?
少なくとも、そんな人間は見たことがない。
ならば——いや、やめておこう。
考えるのはやめだ。
どのような敵であろうと、苺に勝てる人類や兵器が存在するはずがない。人命救助を目的とした開発を失敗させ、とても恐ろしい殺人兵器を作ってしまったのだから——そう言う自覚がある以上、渚に負ける余地はない。
渚が死ぬ心配はいらない。
それにも確たる自信があったからそう思えることだが、今はいい。
今はそれどころじゃないのだ。だからそのことについての考えをやめ、今は違うことに没頭せねばなるまい。
渚は、『ゆかり』の製作に、ひどく手こずっていた。まあ当たり前だ。なにせ『ゆかり』には——爆発音。けたたましい爆発音が研究室に届いた。
「なんだ!?」
研究室を出ると、煙が上がっており、それは居間の方から流れてきていた。
居間に向かうと、部屋は半壊、その中で、何かが素早く動いていた。動いていたのは二つの陰で、それをよく見ると、苺とあとひとり、刀を持った男だった。
二人の攻防戦は激しく、渚には目で追うこともままならない。そのうち、男の刀が男の手から外れた——のではなく、男の腕ごと、苺が引きちぎったのだった。男がそれに絶叫を上げ、その隙に苺のストレートパンチ。男の頭部を吹き飛ばして、戦闘は終了した。
「大丈夫ですか!? 渚さん!」
「僕は無傷だ」
「家が倒壊してもおかしくありません。一旦脱出しましょう」
「いや、それはできない」
渚は言う。確たる意思を持って。
「ゆかりを研究室に置いてきたままだ。し、研究室だけは頑丈に作ってある。たとえ家が崩壊しても耐えられる仕組みになっているよ」
それほど大切なのだ、『ゆかり』が。
「では研究室の方に……」
「そうだね。急ごう」
酷い煙の中、研究室にたどり着いた二人。
「一体、何があったんだい?」
渚は自分がいつも使うイスに腰掛けると、苺に向かって問うた。
「襲撃にあいました。おそらく、上空から爆弾を落とされて、その衝撃とともに男が突入。私の首を狙って刀をふってきました」
「そしてその刀は」
だいたい予想がついている。
「灰となって消えました」
「なるほどね」
とりあえず知り合いの警察に電話するか。と、渚。
「一ヶ月前も、僕らが残した微細な証拠を葬り去ってくれた男だ。そいつがまた死体を片付けてくれる」
そう言ってケータイ電話を取り出して、ある電話番号にかけた。
「もしもし? 渚です」
「おう、久しぶりだな。どうした」
男の声は渋く、重厚な声をしていた。
「襲撃にあいました。家が半壊してるので、また証拠隠滅をお願いします」
「と、言うことは、襲撃者は殺害したということか?」
「はい」
「わかった。俺の部隊が向かうから安心しろ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「おう」
電話は切れた。ツーツーツーという音を聞かずにケータイ電話をポケットにしまった渚は、
「まず、ざっと苺の体についた血を流してくれ。そしたらここに鍵をかけて家の前で警察を待ってよう」
「はい。わかりました」
急いで部屋を出ようとする苺に、渚が声をかける。
「賄賂の準備も、シャワーが終わったらしてくれ」
「当たり前じゃん。苺が見張ってんだから、誰も襲撃出来ないでしょ」
誰もこなかったことを言うと、渚はそう返した。
「それより一ヶ月の間で部屋がずいぶん散らかったよ。頼むぜ、苺」
「はい、すみませんでした」
そう言って家事に取り掛かる苺。渚はまた研究室に戻っていった。
(僕がいった通り、苺が見張っているから誰も襲撃にこないのだとしたら、苺が見張りをやめた今日あたりとか、嫌な予感がするな)
渚はそう考える。
考えすぎか。
苺が殺し屋としてどのような技術を持って、どのような体術を持っているのかを調査するためだけに嵌められた気がする。
気がするだけだが。
気がかりなのは、一ヶ月前、喫茶店で出会ったあの男。
渚が苺を使った殺しの依頼を受ける際、仲介人を通して依頼を受けている。その仲介人が使う合言葉が山に川であったのだが、それを直接渚に使ってくるあたりどこか挑発されている気がする。
挑発じゃなくとも。
仲介人を通さずして殺しの依頼を直接直談判しにくる奴、初めて見た。
渚はまずそこに驚愕する。
そして次。
気まぐれでやってきた喫茶店の、気まぐれで選んだ席にちょうど良く座っていたことだ。
未来予知能力者か?
少なくとも、そんな人間は見たことがない。
ならば——いや、やめておこう。
考えるのはやめだ。
どのような敵であろうと、苺に勝てる人類や兵器が存在するはずがない。人命救助を目的とした開発を失敗させ、とても恐ろしい殺人兵器を作ってしまったのだから——そう言う自覚がある以上、渚に負ける余地はない。
渚が死ぬ心配はいらない。
それにも確たる自信があったからそう思えることだが、今はいい。
今はそれどころじゃないのだ。だからそのことについての考えをやめ、今は違うことに没頭せねばなるまい。
渚は、『ゆかり』の製作に、ひどく手こずっていた。まあ当たり前だ。なにせ『ゆかり』には——爆発音。けたたましい爆発音が研究室に届いた。
「なんだ!?」
研究室を出ると、煙が上がっており、それは居間の方から流れてきていた。
居間に向かうと、部屋は半壊、その中で、何かが素早く動いていた。動いていたのは二つの陰で、それをよく見ると、苺とあとひとり、刀を持った男だった。
二人の攻防戦は激しく、渚には目で追うこともままならない。そのうち、男の刀が男の手から外れた——のではなく、男の腕ごと、苺が引きちぎったのだった。男がそれに絶叫を上げ、その隙に苺のストレートパンチ。男の頭部を吹き飛ばして、戦闘は終了した。
「大丈夫ですか!? 渚さん!」
「僕は無傷だ」
「家が倒壊してもおかしくありません。一旦脱出しましょう」
「いや、それはできない」
渚は言う。確たる意思を持って。
「ゆかりを研究室に置いてきたままだ。し、研究室だけは頑丈に作ってある。たとえ家が崩壊しても耐えられる仕組みになっているよ」
それほど大切なのだ、『ゆかり』が。
「では研究室の方に……」
「そうだね。急ごう」
酷い煙の中、研究室にたどり着いた二人。
「一体、何があったんだい?」
渚は自分がいつも使うイスに腰掛けると、苺に向かって問うた。
「襲撃にあいました。おそらく、上空から爆弾を落とされて、その衝撃とともに男が突入。私の首を狙って刀をふってきました」
「そしてその刀は」
だいたい予想がついている。
「灰となって消えました」
「なるほどね」
とりあえず知り合いの警察に電話するか。と、渚。
「一ヶ月前も、僕らが残した微細な証拠を葬り去ってくれた男だ。そいつがまた死体を片付けてくれる」
そう言ってケータイ電話を取り出して、ある電話番号にかけた。
「もしもし? 渚です」
「おう、久しぶりだな。どうした」
男の声は渋く、重厚な声をしていた。
「襲撃にあいました。家が半壊してるので、また証拠隠滅をお願いします」
「と、言うことは、襲撃者は殺害したということか?」
「はい」
「わかった。俺の部隊が向かうから安心しろ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「おう」
電話は切れた。ツーツーツーという音を聞かずにケータイ電話をポケットにしまった渚は、
「まず、ざっと苺の体についた血を流してくれ。そしたらここに鍵をかけて家の前で警察を待ってよう」
「はい。わかりました」
急いで部屋を出ようとする苺に、渚が声をかける。
「賄賂の準備も、シャワーが終わったらしてくれ」
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