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八話「癒しの天使」
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「よく来たね、青鷺渚くん」
渚の前に現れたのは、瘦せぎすの男。
「私の名前は桐崎霧矢。きみと同じ科学者だよ」
渚は拉致された。そして連れてこられたのが、ただの民家とも取れる自宅。特徴を挙げるなら、豪邸とも行っていい見た目をした民家であることだ。
その居間で。
桐崎霧矢は現れた。
「初めまして——いや、二回目だね桐崎さん」
霧矢は以前、喫茶店に現れた男だった。
「きみが彼らのボスかな」
渚は後ろにいる数名の男を見ながらいう。
「まあ、ボス。ボスね。子供っぽくないかな」
霧矢は首を傾げながら、自らがボスだと言う認識に疑問を持っていたようだった。それに渚が、
「君らの襲撃作戦が幼稚だからね、気にしなくていいよ」
挑発する渚に、若干の苛立ちを見せる霧矢。
「青鷺くん。きみは自分がどのような立場でここにいるかわかっていないようだね」
「多分ね。で? 僕はどう言う立場でここにいるんだろう?」
「私の組織に入りたまえ、青鷺くん。私はきみの技術力を求めている」
「じゃあ僕の方が上なわけだ。きみらが僕を求める側。僕はきみらを査定する側」
敢えて挑発する渚の行動に、霧矢は疑問を持つ。
「言うことを聞かなければいまここで殺してやってもいいんだぞ」
「へえ。なるほど。やれるものならどうぞ」
何を隠し持っている、この男。
「ホテルから出て、二時間から三時間たっているね」
渚は言う。それを聞いて、後ろにいた渚を拉致した男が答える。
「ええまあ。もう直ぐ四時間です」
「それがどうかしたのかな? 青鷺くん」
霧矢が問う。
「いいや、そろそろだと思ってね」
「貴様ッ! 一体何を隠しているッ!」
ついに霧矢の堪忍袋の緒が切れた。
「さあ決めろ! 我らに服従するか、ここで死ぬか」
「————」
ゆっくりと息を吸い込んだ渚の口から発せられたのは、
「決めたよ、お前らは全員殺す。おいで、『ゆかり』」
「な——」
何をした。
科学者である霧矢にしてみれば、いや、科学者でなくとも、疑い深い霧矢であれば、渚が何を言ったか、深々と考えたが、しかし。
普通に考えて、何かを呼んだとしか思えない。
そして、青鷺渚が最も得意とする分野としてあるのが、人造人間。
この男は人造人間を呼んだのではないか。そこまで考えたところで、もう遅かった。
爆音と瓦礫とともに、天井から降ってきた女の子——ゆかりによって、いつでも渚を殺して置けるように、渚の背後に配置した男たちが、潰されて死んだ。
総勢四人の男が死んだ事で、残りは桐崎霧矢一人。
そして少し遅れて、突き破られた天井から降りてきたのが、苺であった。
「大丈夫ですか? 渚さん」
「ああ。運が悪ければ瓦礫に潰されていたが、まあ、破片が一つ頭に飛んできただけで済んだよ」
頭部から出血する渚の幹部を抑えながら、苺は霧矢を睨む。
「あの男——」
「殺害しても、よろしいのですか?」
発言したのはゆかりだった。
「ああ、いいよ。やれ、ゆかり」
「うわああああああ!!」
一歩踏み出したゆかりに、霧矢が懐から出した拳銃を乱射する。
その弾丸はゆかりを貫くが、しかしゆかりにダメージはない。貫かれた傷が瞬時に再生、回復するからである。
「なんなんだ、その能力は! やはり青鷺くんッ! きみはうちに必要だ!」
言いながら発砲をやめない霧矢に、もうそこまで近づいたゆかりの拳が炸裂する。
拳は心臓部を貫き。
霧矢は即死した。
「ざまあみろ、とは言い難いね」
霧矢が死んだところで、渚は息を上がらせながら言う。
「渚さん!」
乱射された弾丸の流れ弾が、一発、渚の腹部を貫いていた。
「大丈夫ですか!? いま直ぐ救急車を……」
「ダメだ。ここで人を殺したのが公に晒される。まずは厚木さんに電話しないと……」
厚木とは、根の張ってある警察官のことである。
その男に電話しようと言うのだが、しかし、拉致された際に、荷物などは全て取り上げられていた。電話のしようがない。
苺もゆかりも、ケータイ電話を所持していなかった。
「ふふ、どうだ桐崎さん……」
そんな時に、呑気で自慢げに、渚は笑う。今回渚が開発したのは、『不死』の人造人間だ。その不死を人にも分け与える。それがゆかり本来の能力にしたかった。そんなとんでも能力を身につけさせたかったから開発に時間がかかっていた。だが、拉致された際に、苺に必要なステップを飛ばしてゆかりを起動させることによって、不死という能力をゆかりだけにとどめる結果となった。また、失敗作を生み出してしまったのだ。
『破壊』の苺。
『不死』のゆかり。
唯一成功した、『癒し』の神秘。
そうだ。
神秘。
彼女を呼べば、渚は助かるかもしれない。苺はそう結論を出した。出血によって冷静な思考ができていない渚に、苺は言う。
「渚さん。神秘を呼ぶんです。神秘を呼べば、助かります」
渚は荒い息を整え、
「神秘、来い」
と、一言、唱えたのであった。
十数秒。穴の空いた天井から、神秘が降りてきた。
「お呼びでしょうか、渚様」
癒しの天使が、やってきた。
渚の前に現れたのは、瘦せぎすの男。
「私の名前は桐崎霧矢。きみと同じ科学者だよ」
渚は拉致された。そして連れてこられたのが、ただの民家とも取れる自宅。特徴を挙げるなら、豪邸とも行っていい見た目をした民家であることだ。
その居間で。
桐崎霧矢は現れた。
「初めまして——いや、二回目だね桐崎さん」
霧矢は以前、喫茶店に現れた男だった。
「きみが彼らのボスかな」
渚は後ろにいる数名の男を見ながらいう。
「まあ、ボス。ボスね。子供っぽくないかな」
霧矢は首を傾げながら、自らがボスだと言う認識に疑問を持っていたようだった。それに渚が、
「君らの襲撃作戦が幼稚だからね、気にしなくていいよ」
挑発する渚に、若干の苛立ちを見せる霧矢。
「青鷺くん。きみは自分がどのような立場でここにいるかわかっていないようだね」
「多分ね。で? 僕はどう言う立場でここにいるんだろう?」
「私の組織に入りたまえ、青鷺くん。私はきみの技術力を求めている」
「じゃあ僕の方が上なわけだ。きみらが僕を求める側。僕はきみらを査定する側」
敢えて挑発する渚の行動に、霧矢は疑問を持つ。
「言うことを聞かなければいまここで殺してやってもいいんだぞ」
「へえ。なるほど。やれるものならどうぞ」
何を隠し持っている、この男。
「ホテルから出て、二時間から三時間たっているね」
渚は言う。それを聞いて、後ろにいた渚を拉致した男が答える。
「ええまあ。もう直ぐ四時間です」
「それがどうかしたのかな? 青鷺くん」
霧矢が問う。
「いいや、そろそろだと思ってね」
「貴様ッ! 一体何を隠しているッ!」
ついに霧矢の堪忍袋の緒が切れた。
「さあ決めろ! 我らに服従するか、ここで死ぬか」
「————」
ゆっくりと息を吸い込んだ渚の口から発せられたのは、
「決めたよ、お前らは全員殺す。おいで、『ゆかり』」
「な——」
何をした。
科学者である霧矢にしてみれば、いや、科学者でなくとも、疑い深い霧矢であれば、渚が何を言ったか、深々と考えたが、しかし。
普通に考えて、何かを呼んだとしか思えない。
そして、青鷺渚が最も得意とする分野としてあるのが、人造人間。
この男は人造人間を呼んだのではないか。そこまで考えたところで、もう遅かった。
爆音と瓦礫とともに、天井から降ってきた女の子——ゆかりによって、いつでも渚を殺して置けるように、渚の背後に配置した男たちが、潰されて死んだ。
総勢四人の男が死んだ事で、残りは桐崎霧矢一人。
そして少し遅れて、突き破られた天井から降りてきたのが、苺であった。
「大丈夫ですか? 渚さん」
「ああ。運が悪ければ瓦礫に潰されていたが、まあ、破片が一つ頭に飛んできただけで済んだよ」
頭部から出血する渚の幹部を抑えながら、苺は霧矢を睨む。
「あの男——」
「殺害しても、よろしいのですか?」
発言したのはゆかりだった。
「ああ、いいよ。やれ、ゆかり」
「うわああああああ!!」
一歩踏み出したゆかりに、霧矢が懐から出した拳銃を乱射する。
その弾丸はゆかりを貫くが、しかしゆかりにダメージはない。貫かれた傷が瞬時に再生、回復するからである。
「なんなんだ、その能力は! やはり青鷺くんッ! きみはうちに必要だ!」
言いながら発砲をやめない霧矢に、もうそこまで近づいたゆかりの拳が炸裂する。
拳は心臓部を貫き。
霧矢は即死した。
「ざまあみろ、とは言い難いね」
霧矢が死んだところで、渚は息を上がらせながら言う。
「渚さん!」
乱射された弾丸の流れ弾が、一発、渚の腹部を貫いていた。
「大丈夫ですか!? いま直ぐ救急車を……」
「ダメだ。ここで人を殺したのが公に晒される。まずは厚木さんに電話しないと……」
厚木とは、根の張ってある警察官のことである。
その男に電話しようと言うのだが、しかし、拉致された際に、荷物などは全て取り上げられていた。電話のしようがない。
苺もゆかりも、ケータイ電話を所持していなかった。
「ふふ、どうだ桐崎さん……」
そんな時に、呑気で自慢げに、渚は笑う。今回渚が開発したのは、『不死』の人造人間だ。その不死を人にも分け与える。それがゆかり本来の能力にしたかった。そんなとんでも能力を身につけさせたかったから開発に時間がかかっていた。だが、拉致された際に、苺に必要なステップを飛ばしてゆかりを起動させることによって、不死という能力をゆかりだけにとどめる結果となった。また、失敗作を生み出してしまったのだ。
『破壊』の苺。
『不死』のゆかり。
唯一成功した、『癒し』の神秘。
そうだ。
神秘。
彼女を呼べば、渚は助かるかもしれない。苺はそう結論を出した。出血によって冷静な思考ができていない渚に、苺は言う。
「渚さん。神秘を呼ぶんです。神秘を呼べば、助かります」
渚は荒い息を整え、
「神秘、来い」
と、一言、唱えたのであった。
十数秒。穴の空いた天井から、神秘が降りてきた。
「お呼びでしょうか、渚様」
癒しの天使が、やってきた。
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