cranberry soda

朋藤チルヲ

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 浴びるほどに酒を飲んで帰る途中に意識を失い、気がついたら朝で、公園にいた。
 つまるところ、男性の状況はそういうことらしい。
 この時期にこんなところで夜を明かしただなんて、にわかには信じがたいけど、自家用車を廃車にしてしまうほどの自損事故を起こしても、べろべろに酔ったドライバーだと、意外と軽いケガで済んでしまう、という話がある。男性のケースも、そういうことなのかもしれない。

「面目ないですね」

 わたしが無言で差し出したミネラルウォーターのペットボトルを、彼はそう言って受け取った。本当に悪いと思っているのか、はなはだ疑問に感じるくらいの軽々しさだ。
 近くのコンビニで買い物して戻ってくる頃には、彼は体勢を立て直していた。それでも、大きく移動するまでの体力はないようで、凄惨な現場から数メートルほどしか離れていない、枯れた芝生の上にあぐらをかくに留まっていた。
 彼はペットボトルにダイレクトに口をつけて、水を含む。軽くゆすいで、自分のすぐ横に吐き出した。一口飲んで息を吐き、ようやく落ち着いた、みたいな気の抜けた表情を浮かべる。

 わたし、何をやっているんだろう。腕時計で時間を確認する気も起こらない。
 しかめっ面のわたしに、勘違いしたらしい彼は言う。

「あ、大丈夫ですよ。お金なら払いますって」

 そうして、ペットボトルを持ったまま、もう片方の手で財布をいじくり出した。

「いいです。大した金額じゃないし」
「いやいや。一円を笑う者は一円に泣くって言うでしょうよ」
「笑ってないし、一円で買ったわけじゃないし」
「そんなことはわかっているけども」
「本当にいりません。ポイントで買ったから、実質タダなんです」

 彼は、片手で器用に硬貨を三枚取り出す。適当にはぐらかそうとしたわたしに、笑顔で向けた。
 笑うと目尻が垂れ下がって、末端に細かなシワができた。頬には、えくぼの出来損ないのようなものが出現する。口元から八重歯が覗いた。
 年齢は、二十代前半のわたしとそう変わらないんだろうと思う。でも、笑顔の雰囲気はやたらと幼い。そして、想像以上に甘い。
 思わず目を奪われる。目を奪われたことが無性に悔しくて、わたしこそしっかりしろ、とかぶりを振った。

「多いです」
「迷惑料だよ」

 人好きする笑顔だからって、彼がちゃんと良識を持った人間なのか、まだわからない。もしかしたら、自分の甘いマスクが女性の心を揺れさせる、と自覚しているのかもしれない。このたった数百円を、後々、あの時受け取っただろう、とさらなる要求をするための、足がかりにするつもりである可能性も否めないと思うのだ。
 受け取らないほうが無難だ。そう頭では理解しているのに、わたしは手のひらを前に出していた。
 彼は満足したように、柔らかく微笑む。

「わたし、もう行きます」

 このままここにいたら、厄介なことになる予感がした。硬貨を握りしめたまま立ち上がる。

「はい。さいなら」

 ひらひらと手を振る彼は、一貫してあっさりと軽い。それがまた悔しかった。


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