3 / 6
3
しおりを挟む
浴びるほどに酒を飲んで帰る途中に意識を失い、気がついたら朝で、公園にいた。
つまるところ、男性の状況はそういうことらしい。
この時期にこんなところで夜を明かしただなんて、にわかには信じがたいけど、自家用車を廃車にしてしまうほどの自損事故を起こしても、べろべろに酔ったドライバーだと、意外と軽いケガで済んでしまう、という話がある。男性のケースも、そういうことなのかもしれない。
「面目ないですね」
わたしが無言で差し出したミネラルウォーターのペットボトルを、彼はそう言って受け取った。本当に悪いと思っているのか、はなはだ疑問に感じるくらいの軽々しさだ。
近くのコンビニで買い物して戻ってくる頃には、彼は体勢を立て直していた。それでも、大きく移動するまでの体力はないようで、凄惨な現場から数メートルほどしか離れていない、枯れた芝生の上にあぐらをかくに留まっていた。
彼はペットボトルにダイレクトに口をつけて、水を含む。軽くゆすいで、自分のすぐ横に吐き出した。一口飲んで息を吐き、ようやく落ち着いた、みたいな気の抜けた表情を浮かべる。
わたし、何をやっているんだろう。腕時計で時間を確認する気も起こらない。
しかめっ面のわたしに、勘違いしたらしい彼は言う。
「あ、大丈夫ですよ。お金なら払いますって」
そうして、ペットボトルを持ったまま、もう片方の手で財布をいじくり出した。
「いいです。大した金額じゃないし」
「いやいや。一円を笑う者は一円に泣くって言うでしょうよ」
「笑ってないし、一円で買ったわけじゃないし」
「そんなことはわかっているけども」
「本当にいりません。ポイントで買ったから、実質タダなんです」
彼は、片手で器用に硬貨を三枚取り出す。適当にはぐらかそうとしたわたしに、笑顔で向けた。
笑うと目尻が垂れ下がって、末端に細かなシワができた。頬には、えくぼの出来損ないのようなものが出現する。口元から八重歯が覗いた。
年齢は、二十代前半のわたしとそう変わらないんだろうと思う。でも、笑顔の雰囲気はやたらと幼い。そして、想像以上に甘い。
思わず目を奪われる。目を奪われたことが無性に悔しくて、わたしこそしっかりしろ、とかぶりを振った。
「多いです」
「迷惑料だよ」
人好きする笑顔だからって、彼がちゃんと良識を持った人間なのか、まだわからない。もしかしたら、自分の甘いマスクが女性の心を揺れさせる、と自覚しているのかもしれない。このたった数百円を、後々、あの時受け取っただろう、とさらなる要求をするための、足がかりにするつもりである可能性も否めないと思うのだ。
受け取らないほうが無難だ。そう頭では理解しているのに、わたしは手のひらを前に出していた。
彼は満足したように、柔らかく微笑む。
「わたし、もう行きます」
このままここにいたら、厄介なことになる予感がした。硬貨を握りしめたまま立ち上がる。
「はい。さいなら」
ひらひらと手を振る彼は、一貫してあっさりと軽い。それがまた悔しかった。
つまるところ、男性の状況はそういうことらしい。
この時期にこんなところで夜を明かしただなんて、にわかには信じがたいけど、自家用車を廃車にしてしまうほどの自損事故を起こしても、べろべろに酔ったドライバーだと、意外と軽いケガで済んでしまう、という話がある。男性のケースも、そういうことなのかもしれない。
「面目ないですね」
わたしが無言で差し出したミネラルウォーターのペットボトルを、彼はそう言って受け取った。本当に悪いと思っているのか、はなはだ疑問に感じるくらいの軽々しさだ。
近くのコンビニで買い物して戻ってくる頃には、彼は体勢を立て直していた。それでも、大きく移動するまでの体力はないようで、凄惨な現場から数メートルほどしか離れていない、枯れた芝生の上にあぐらをかくに留まっていた。
彼はペットボトルにダイレクトに口をつけて、水を含む。軽くゆすいで、自分のすぐ横に吐き出した。一口飲んで息を吐き、ようやく落ち着いた、みたいな気の抜けた表情を浮かべる。
わたし、何をやっているんだろう。腕時計で時間を確認する気も起こらない。
しかめっ面のわたしに、勘違いしたらしい彼は言う。
「あ、大丈夫ですよ。お金なら払いますって」
そうして、ペットボトルを持ったまま、もう片方の手で財布をいじくり出した。
「いいです。大した金額じゃないし」
「いやいや。一円を笑う者は一円に泣くって言うでしょうよ」
「笑ってないし、一円で買ったわけじゃないし」
「そんなことはわかっているけども」
「本当にいりません。ポイントで買ったから、実質タダなんです」
彼は、片手で器用に硬貨を三枚取り出す。適当にはぐらかそうとしたわたしに、笑顔で向けた。
笑うと目尻が垂れ下がって、末端に細かなシワができた。頬には、えくぼの出来損ないのようなものが出現する。口元から八重歯が覗いた。
年齢は、二十代前半のわたしとそう変わらないんだろうと思う。でも、笑顔の雰囲気はやたらと幼い。そして、想像以上に甘い。
思わず目を奪われる。目を奪われたことが無性に悔しくて、わたしこそしっかりしろ、とかぶりを振った。
「多いです」
「迷惑料だよ」
人好きする笑顔だからって、彼がちゃんと良識を持った人間なのか、まだわからない。もしかしたら、自分の甘いマスクが女性の心を揺れさせる、と自覚しているのかもしれない。このたった数百円を、後々、あの時受け取っただろう、とさらなる要求をするための、足がかりにするつもりである可能性も否めないと思うのだ。
受け取らないほうが無難だ。そう頭では理解しているのに、わたしは手のひらを前に出していた。
彼は満足したように、柔らかく微笑む。
「わたし、もう行きます」
このままここにいたら、厄介なことになる予感がした。硬貨を握りしめたまま立ち上がる。
「はい。さいなら」
ひらひらと手を振る彼は、一貫してあっさりと軽い。それがまた悔しかった。
0
あなたにおすすめの小説
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる