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走り出す。
ダイニングバーを出て、交差点を渡り、通りを北上する。
途中で息が上がる。足がもつれそうになる。胸がパンクしそう。それでも止まらずに、ひたすらに走る。気持ちばかりが先に走っていって、わたしが置いていかれる気がするから。
夜の公園は、光で溢れた朝とはまるで様相が違う。ずっしりと重い闇に覆われている。等間隔で設置された街路灯。その一つの下に、死体が転がっていた。
どれだけ整えても、呼吸は永遠に落ち着かない気がした。
「ねえ」
声をかけるも、無反応。
「ねえ、起きてるんでしょ? わかってるんだから」
近くにまで歩み寄り、しゃがんで、すっかり見慣れたそのコートの背中に手を添えた。
「……え?」
冷たい。いや、冬の夜に外にいたわけだから、コートの生地が冷えているのは当たり前なのだけど。それにしたって冷たすぎる。そして、硬い。
待って。考えが追いつかない。まとまらない。
「……ぶっは! さっぶ!」
死体が飛び起きた。
素早く反転して、あぐらをかいたかと思うと、コートの内側、背中からぼとぼとと落ちるものがあった。保冷剤だ。
「いっや、ちょっと驚かせてやろうかと思ったけど、だめだ! 俺がマジで死ぬ!」
彼は青い顔をして、両腕を激しくこする。
「バカなの!?」
夜の公園に反響する、わたしの怒鳴り声。怒鳴らないでいられるか。
怒られた彼はしょんぼりするどころか、満面の笑み。
「あはは。俺が死んだかと思った?」
「やっちゃだめな冗談ってあるでしょ!」
「悲しかった?」
「悲しくない!」
「嘘だ。泣いてるじゃんか」
はっとして頬を触る。
「泣くほど会いたかった?」
「うるさい! 死ねえ、もおう!」
「俺は会いたかった。死ぬほど」
いいいいい! と、歯を食いしばるわたしの口元から奇声が漏れた。心臓が飛び出しそう。
「酔っていないとさむう。ちょい、温めて」
彼がそう笑って両腕を広げるから、わたしはそこに飛び込むしかない。
(fin)
ダイニングバーを出て、交差点を渡り、通りを北上する。
途中で息が上がる。足がもつれそうになる。胸がパンクしそう。それでも止まらずに、ひたすらに走る。気持ちばかりが先に走っていって、わたしが置いていかれる気がするから。
夜の公園は、光で溢れた朝とはまるで様相が違う。ずっしりと重い闇に覆われている。等間隔で設置された街路灯。その一つの下に、死体が転がっていた。
どれだけ整えても、呼吸は永遠に落ち着かない気がした。
「ねえ」
声をかけるも、無反応。
「ねえ、起きてるんでしょ? わかってるんだから」
近くにまで歩み寄り、しゃがんで、すっかり見慣れたそのコートの背中に手を添えた。
「……え?」
冷たい。いや、冬の夜に外にいたわけだから、コートの生地が冷えているのは当たり前なのだけど。それにしたって冷たすぎる。そして、硬い。
待って。考えが追いつかない。まとまらない。
「……ぶっは! さっぶ!」
死体が飛び起きた。
素早く反転して、あぐらをかいたかと思うと、コートの内側、背中からぼとぼとと落ちるものがあった。保冷剤だ。
「いっや、ちょっと驚かせてやろうかと思ったけど、だめだ! 俺がマジで死ぬ!」
彼は青い顔をして、両腕を激しくこする。
「バカなの!?」
夜の公園に反響する、わたしの怒鳴り声。怒鳴らないでいられるか。
怒られた彼はしょんぼりするどころか、満面の笑み。
「あはは。俺が死んだかと思った?」
「やっちゃだめな冗談ってあるでしょ!」
「悲しかった?」
「悲しくない!」
「嘘だ。泣いてるじゃんか」
はっとして頬を触る。
「泣くほど会いたかった?」
「うるさい! 死ねえ、もおう!」
「俺は会いたかった。死ぬほど」
いいいいい! と、歯を食いしばるわたしの口元から奇声が漏れた。心臓が飛び出しそう。
「酔っていないとさむう。ちょい、温めて」
彼がそう笑って両腕を広げるから、わたしはそこに飛び込むしかない。
(fin)
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