Rain man

朋藤チルヲ

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sweet smell

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 朝食の後片づけを済ませると、私は一旦自分の家へ戻った。シャワーは浴びたけれど、下着を替えていないから気持ちが悪いし、ついでに洗濯もしたかった。

 朝日の分の汚れ物と、自分が使ったバスタオルを抱えて、朝日の部屋を出る。

 あの殺し屋は本当に腰が低いと言うか、遠慮ばかりする。洗濯物だって、自分の分はコインランドリーを使うから置いていけって、困ったような顔で言ってきた。子供の私に雑用をやらせることは、気が引けるのかもしれないけれど、約束は約束だ。

 玄関のドアをそっと開けて、顔だけを出して辺りを窺う。通路に人の気配はない。隠れるような場所はないから、あの男たちが突然目の前に現れることもないだろう。

 それでも足早に我が家の前まで行き、息を殺しながら、ゆっくりとドアノブを回してみる。
 鍵がかかっていない。
 室内を覗き込んでみる。パパの汚い運動靴がない。パパが履くあれはスニーカーなんておしゃれな響きのものなんかじゃない。運動靴だ。

 昨夜、パパが戻ってきた様子はなかった。つまり、あの男たちに連れ去られたきり、ここには戻ってきていないってことだ。

 何も関係がないことがわかれば、パパはすぐに解放されるって朝日は言った。
 そうなっていないということは、パパが反抗的な態度を取って、あの男たちを無駄に怒らせたのかもしれない。パパが朝日の情報を持っているわけがないのだから。

 朝日以外の殺し屋がどんな人間で、どんな考え方をして、どんな行動をするのか。もちろん私は知らない。激高して、大して意味もなく人の命を奪う、なんてこともあり得るのだろうか。
 でも、パパに関して言えば、それでも構わないと思った。

 戻ってこなくていい。

 パパが戻ってくるってことは、解放されるってことは、同時に、私が嘘をついたことがバレるってこと。私が朝日をかくまいたくてそう言ったってことが、彼らにバレてしまう可能性があるってこと。

 だから、もう二度と帰ってこなくていい。
 パパがいなくなって、朝日もいなくなって、そのあとの私がどうやって生きていったらいいかなんてことは、今はまだ考えたくない。

 少しでも長く、このイミテーションの時間が終わりませんように。それだけ。

 一日ぶりの我が家に入り、持っていた衣類を洗濯機に放り込む。それから、その場で服を脱いで裸になった。パーカーも、キャミソールも、コットンのパンツも、みんな洗濯槽の中に投げ入れて、柔軟剤入りの安い洗剤を投入し、スイッチを押した。

 ジーンズだけは洗うのをやめておいた。
 どうせこれも安物だから、ビンテージみたいに洗いすぎて風合いが悪くなることなんて気にしない。
 ただ、一つくらい、朝日の匂いが移った物があってもいいと思った。

 ごわついた生地を鼻の近くに寄せながら、そろそろと脱衣所の床にしゃがみ込む。むき出しのお尻に板張りが冷たい。
 ぶるぶる震える洗濯機の影に、埃が丸まっている。プラスチック製のカゴには、シャンプーの空き容器が寝転がっている。その先端から白い粘度のある液体が垂れ下がり、蝋みたいに固まっていた。

 冬の脱衣所に素っ裸でいたら、当然寒い。
 私はジーンズに鼻を寄せたまま、腕と足を生地に絡ませるようにして小さくなった。
 少し酸っぱくて、少しだけ甘い香り。それはゴワゴワなのに、私を内側から温めた。

 物音がした。
 機械の音に紛れて、聞き逃しそうなほどの小さな音。
 私はとっさに立ち上がり、急いで電源を切った。無理やり活動を止められた洗濯機が、怒ったみたいに身体を揺すった。

 朝日……じゃない。
 知らない人の部屋じゃないとは言ったって、勝手に入ってくるような人じゃない。

「おい、いるのか? クソガキ!」

 玄関から地鳴りを思わせるがなり声がした。
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