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「ねぇ、優愛。福永さんだけはやめて」
「え?」
「うちの社員はだめとか言わない。ただ、もっと歳の近い社員がいるでしょ。人事部の森さんとか。彼、ハキハキしてて明るいし、同い年だし、優愛と話が合うんじゃないの?」
「な、何の話?」
姉が何を言いたいのかさっぱりだ。
ただ、森さんの名前が出てきたことに変に動揺した。
「優愛が一歩前進できたんなら、それはわたしだって嬉しい。一生結婚できなかったらって、内心心配だったし」
「結婚?」
「でも、優愛にはもっと他に合う人がいるでしょってこと。福永さんは年齢が離れてるし……相性的にもどうかと思う」
「ちょ、ちょっと待って。いったい何の話してるの?」
思考が置いてけぼりを食らっているみたいだ。
姉は眉間に深いシワを刻んだ。聞き分けの悪い子供を見るかのような目で、長いため息を吐き出す。顔を反らした。
「わからないなら、それでいい。とにかく、福永さんには近づかないで」
「な、何それ」
「それが優愛のためなんだから」
きちんとした説明もない上に、一方的過ぎる。混乱しつつも苛立ってきた。
「意味がわかんないよ。パパもお姉ちゃんも勝手なことばかり。わたしの気持ちなんて、まるでおかまいなしで!」
「パパ?」
「パパはわたしに福永さんとお見合いしろって言うし、お姉ちゃんは近づくなって言うし。どうしたらいいの? 勝手すぎるよ!」
姉は目を見開く。口もぽっかりと開けた。
「何それ! パパ、優愛にそんなこと言ったの?」
「言ったよ」
「もしかして、レストランでの……怪しいなとは思ったけど」
爪を噛み始めた姉は、口の中でぶつぶつとつぶやいた。
「何考えてるのよ。そんなの無理に決まってるじゃない」
「お姉ちゃん?」
「だめだよ、絶対だめ。バレちゃう」
「バレるって何が?」
姉ははっと我を取り戻したかと思うと、バツの悪さを浮かべた。
「……優愛には関係ない」
「嘘だ。お姉ちゃんの嘘つき。ずるいよ。わたしには嘘ついたって責めたくせに」
顔をしかめる姉は、自分の失態を悔いているように見えた。
「……とにかく、今後はもう二度と、福永さんと会社外で会ったりしないで」
「なんで?」
心配するまでもなく、そんなことはもうない。ただ、理由も教えてくれずに押しつけられることが、どうしても納得できない。
「パパのことは、わたしが何とかしておくから」
「そうじゃなくて、どうしてだめなのか教えて」
再び詰め寄る。ここまでくるともう意地だ。
すると、姉は目を苦しそうに歪ませたから、少しだけ心が揺れる。
「……優愛。福永さんのこと、本気で好きになったの?」
「え……?」
姉は視線を背後に投げた。
「……あのペットボトル。休憩室の自販機で見たことある。もしかしてだけど、福永さんに買ってもらった?」
思わず口をつぐむ。
それはもう、正解だと言っているようなものだなって、自分でも思った。同時に、胸に切り裂かれるような痛みが走る。
だけど、これが好きという気持ちなのかなんてわからない。本気なのかって訊かれても困る。
わたしには、それを判断するだけの経験がないのだから。
「そしたらもう、すべてを知ったほうが逆にいいのかもしれない」
「……どういうこと?」
「誰を好きになろうと、それは優愛の自由。でも、福永さんだけは絶対にだめなんだ」
「なんで?」
「十五年前」
前触れなく姉の口から飛び出したその単語に、反射的にぎくりとする。
「あの時、優愛を助けてくれたのが、福永さんだからだよ」
「え……?」
「それで」
姉は一旦言葉を区切る。少しだけ迷う表情を浮かべたあとで、覚悟を決めたように、もしくは運を天に任せるかのように目を伏せて、それを言った。
「……優愛を助けた代わりに、福永さんは妹さんを亡くしてしまったの」
「え?」
「うちの社員はだめとか言わない。ただ、もっと歳の近い社員がいるでしょ。人事部の森さんとか。彼、ハキハキしてて明るいし、同い年だし、優愛と話が合うんじゃないの?」
「な、何の話?」
姉が何を言いたいのかさっぱりだ。
ただ、森さんの名前が出てきたことに変に動揺した。
「優愛が一歩前進できたんなら、それはわたしだって嬉しい。一生結婚できなかったらって、内心心配だったし」
「結婚?」
「でも、優愛にはもっと他に合う人がいるでしょってこと。福永さんは年齢が離れてるし……相性的にもどうかと思う」
「ちょ、ちょっと待って。いったい何の話してるの?」
思考が置いてけぼりを食らっているみたいだ。
姉は眉間に深いシワを刻んだ。聞き分けの悪い子供を見るかのような目で、長いため息を吐き出す。顔を反らした。
「わからないなら、それでいい。とにかく、福永さんには近づかないで」
「な、何それ」
「それが優愛のためなんだから」
きちんとした説明もない上に、一方的過ぎる。混乱しつつも苛立ってきた。
「意味がわかんないよ。パパもお姉ちゃんも勝手なことばかり。わたしの気持ちなんて、まるでおかまいなしで!」
「パパ?」
「パパはわたしに福永さんとお見合いしろって言うし、お姉ちゃんは近づくなって言うし。どうしたらいいの? 勝手すぎるよ!」
姉は目を見開く。口もぽっかりと開けた。
「何それ! パパ、優愛にそんなこと言ったの?」
「言ったよ」
「もしかして、レストランでの……怪しいなとは思ったけど」
爪を噛み始めた姉は、口の中でぶつぶつとつぶやいた。
「何考えてるのよ。そんなの無理に決まってるじゃない」
「お姉ちゃん?」
「だめだよ、絶対だめ。バレちゃう」
「バレるって何が?」
姉ははっと我を取り戻したかと思うと、バツの悪さを浮かべた。
「……優愛には関係ない」
「嘘だ。お姉ちゃんの嘘つき。ずるいよ。わたしには嘘ついたって責めたくせに」
顔をしかめる姉は、自分の失態を悔いているように見えた。
「……とにかく、今後はもう二度と、福永さんと会社外で会ったりしないで」
「なんで?」
心配するまでもなく、そんなことはもうない。ただ、理由も教えてくれずに押しつけられることが、どうしても納得できない。
「パパのことは、わたしが何とかしておくから」
「そうじゃなくて、どうしてだめなのか教えて」
再び詰め寄る。ここまでくるともう意地だ。
すると、姉は目を苦しそうに歪ませたから、少しだけ心が揺れる。
「……優愛。福永さんのこと、本気で好きになったの?」
「え……?」
姉は視線を背後に投げた。
「……あのペットボトル。休憩室の自販機で見たことある。もしかしてだけど、福永さんに買ってもらった?」
思わず口をつぐむ。
それはもう、正解だと言っているようなものだなって、自分でも思った。同時に、胸に切り裂かれるような痛みが走る。
だけど、これが好きという気持ちなのかなんてわからない。本気なのかって訊かれても困る。
わたしには、それを判断するだけの経験がないのだから。
「そしたらもう、すべてを知ったほうが逆にいいのかもしれない」
「……どういうこと?」
「誰を好きになろうと、それは優愛の自由。でも、福永さんだけは絶対にだめなんだ」
「なんで?」
「十五年前」
前触れなく姉の口から飛び出したその単語に、反射的にぎくりとする。
「あの時、優愛を助けてくれたのが、福永さんだからだよ」
「え……?」
「それで」
姉は一旦言葉を区切る。少しだけ迷う表情を浮かべたあとで、覚悟を決めたように、もしくは運を天に任せるかのように目を伏せて、それを言った。
「……優愛を助けた代わりに、福永さんは妹さんを亡くしてしまったの」
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