運命のひとーSADAME NO HITOー

朋藤チルヲ

文字の大きさ
34 / 60
【8】

4

しおりを挟む
「ねぇ、優愛。福永さんだけはやめて」
「え?」
「うちの社員はだめとか言わない。ただ、もっと歳の近い社員がいるでしょ。人事部の森さんとか。彼、ハキハキしてて明るいし、同い年だし、優愛と話が合うんじゃないの?」
「な、何の話?」

 姉が何を言いたいのかさっぱりだ。
 ただ、森さんの名前が出てきたことに変に動揺した。

「優愛が一歩前進できたんなら、それはわたしだって嬉しい。一生結婚できなかったらって、内心心配だったし」
「結婚?」
「でも、優愛にはもっと他に合う人がいるでしょってこと。福永さんは年齢が離れてるし……相性的にもどうかと思う」
「ちょ、ちょっと待って。いったい何の話してるの?」

 思考が置いてけぼりを食らっているみたいだ。
 姉は眉間に深いシワを刻んだ。聞き分けの悪い子供を見るかのような目で、長いため息を吐き出す。顔を反らした。

「わからないなら、それでいい。とにかく、福永さんには近づかないで」
「な、何それ」
「それが優愛のためなんだから」

 きちんとした説明もない上に、一方的過ぎる。混乱しつつも苛立ってきた。

「意味がわかんないよ。パパもお姉ちゃんも勝手なことばかり。わたしの気持ちなんて、まるでおかまいなしで!」
「パパ?」
「パパはわたしに福永さんとお見合いしろって言うし、お姉ちゃんは近づくなって言うし。どうしたらいいの? 勝手すぎるよ!」

 姉は目を見開く。口もぽっかりと開けた。

「何それ! パパ、優愛にそんなこと言ったの?」
「言ったよ」
「もしかして、レストランでの……怪しいなとは思ったけど」

 爪を噛み始めた姉は、口の中でぶつぶつとつぶやいた。

「何考えてるのよ。そんなの無理に決まってるじゃない」
「お姉ちゃん?」
「だめだよ、絶対だめ。バレちゃう」
「バレるって何が?」

 姉ははっと我を取り戻したかと思うと、バツの悪さを浮かべた。

「……優愛には関係ない」
「嘘だ。お姉ちゃんの嘘つき。ずるいよ。わたしには嘘ついたって責めたくせに」

 顔をしかめる姉は、自分の失態を悔いているように見えた。

「……とにかく、今後はもう二度と、福永さんと会社外で会ったりしないで」
「なんで?」

 心配するまでもなく、そんなことはもうない。ただ、理由も教えてくれずに押しつけられることが、どうしても納得できない。

「パパのことは、わたしが何とかしておくから」
「そうじゃなくて、どうしてだめなのか教えて」

 再び詰め寄る。ここまでくるともう意地だ。
 すると、姉は目を苦しそうに歪ませたから、少しだけ心が揺れる。

「……優愛。福永さんのこと、本気で好きになったの?」
「え……?」

 姉は視線を背後に投げた。

「……あのペットボトル。休憩室の自販機で見たことある。もしかしてだけど、福永さんに買ってもらった?」

 思わず口をつぐむ。
 それはもう、正解だと言っているようなものだなって、自分でも思った。同時に、胸に切り裂かれるような痛みが走る。
 だけど、これが好きという気持ちなのかなんてわからない。本気なのかって訊かれても困る。
 わたしには、それを判断するだけの経験がないのだから。

「そしたらもう、すべてを知ったほうが逆にいいのかもしれない」
「……どういうこと?」
「誰を好きになろうと、それは優愛の自由。でも、福永さんだけは絶対にだめなんだ」
「なんで?」
「十五年前」

 前触れなく姉の口から飛び出したその単語に、反射的にぎくりとする。

「あの時、優愛を助けてくれたのが、福永さんだからだよ」
「え……?」
「それで」

 姉は一旦言葉を区切る。少しだけ迷う表情を浮かべたあとで、覚悟を決めたように、もしくは運を天に任せるかのように目を伏せて、それを言った。

「……優愛を助けた代わりに、福永さんは妹さんを亡くしてしまったの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて  

設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。 ◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。   ご了承ください。 斉藤准一 税理士事務所勤務35才 斎藤紀子    娘 7才  毒妻:  斉藤淳子  専業主婦   33才 金遣いが荒い 高橋砂央里  会社員    27才    山本隆行  オートバックス社員 25才    西野秀行   薬剤師   22才  岡田とま子  主婦    54才   深田睦子  見合い相手  22才 ――――――――――――――――――――――― ❧イラストはAI生成画像自作 2025.3.3 再☑済み😇

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...