始まりの猫

朋藤チルヲ

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きみのねだん

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「こんなんじゃだめだ……ぜんぜん足らない」

 ため息が出ちゃう。落ちていった綿菓子みたいな白い息が、手のひらの上の赤い紙袋に当たって弾けた。

 凪沙なぎさおばさんの家からの帰り道。

 ママから頼まれたお使いは、すぐに済むとばかり思い込んでいたから、おやつを食べてから出かけた。

 お裾分けのみかんを渡したら、凪沙おばさんはすごく機嫌がよくなって、お年玉をあげるからってわたしを家に上げて、ケーキまで出してきた。

 凪沙おばさんはママの妹で、おしゃれで明るくて、わたしは大好きだけど、おやつはハッキリ言って勘弁して欲しかった。

 もうお腹いっぱいだったし、帰りも遅くなる。

 正直に白状しちゃうと、お年玉だけが目当てで引き受けた。

 ママが、凪沙おばさんの家に行ったら、この時期だし、きっとお年玉を出すわって嬉しそうに言うから。わたしが一人でお使いに行ったら、きっと奮発してくれるわよって言うから。

 開いた袋の頭から、ペラペラのお札がのぞいている。

 印刷されているこのヒゲのおじさんの名前は、誰だったっけ。社会の授業で習ったはずだけど、忘れちゃった。

 悪いけど、あなたが五人並んだところで、わたしの欲しいものには到底手が届かない。

 少し前まで、道路を埋め尽くす勢いだった色とりどりの落ち葉は、どこかに行っちゃって、がらんとなった寂しい道に、またため息が落ちる。

 今日はお店に行けるかもと思ったけど、これでは無理。

 あとお年玉をもらえる人は誰だろう、と頭の中に思い浮かべてみる。

 パパとママからはもらった。ママのおじいちゃんとおばあちゃん。塾のかおり先生からも、少しだけどもらえた。

 よくママと行くパン屋のさくらおばさん。パパが車を点検に出す、新垣モータースの社長のおじさん。

 他の親戚の人たちは、お正月に遊びにくる時もあるけど、毎年って決まっているわけじゃないから、もらえるかどうかわからない。

 パパのおじいちゃんちに行ってみるしかないのかな。

 パパの実家は、遠くはないけど、神社の前を通っていくしかないから、少しためらってしまう。

 神社は、大きくて真っ赤な鳥居の前に、おきつねさまが二匹座っている。

 空に向かってつんと鼻を澄ました様子は、ちょっと不気味だけど、夕暮れとかに見なければ、そんなに怖くない。

 近寄るのが嫌な理由は、もっと他にあるのだ。

 だけど、このままじゃ目標の金額には届かない。

 おじいちゃんが、小学生のわたしに、そんなにどばっと大金をくれるとも思えないけど、何が起こるかわからないし、行ってみる価値はある。

 今日はもう無理だから、明日勇気を出して行ってみよう。


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