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【天界0】
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「だけどね。幼くして生涯を終えた魂は、何よりも優先して、転生させられる権利がある。今は、そう考えるようになった」
「何よりも優先して、転生する権利」
「だって、そうだろう? 子供は、この世界の宝だよ」
彼は、そう痛々しく微笑む。そんな彼こそ、この世界で最も価値のある存在に思えた。
「それが、今の僕の正義。言い換えれば、僕の、正しさだ」
「正しさ……?」
「76番」
ウリエルは、再び視線を花壇に向けた。
「正しさとはきっと、自分の中にあるのではないかな」
「自分の中、ですか?」
「ごらん。あの美しい花たちは、我々が手を加えた。それを、正しい在り方ではない、と否定する者もいることだろう」
花を見る。この場所で咲くために、品種改良された彼ら。それが、彼ら自身が望んだことなのかと誰かに責め寄られたら、確かに答えられない。
「でも、彼らにとっての正しさは、咲いて枯れることのみなのかもしれない」
「咲いて、枯れること、のみ」
第三者には知りえない、ということだろうか。
「僕のしていることも、同じだ」
「ウリエル様」
「他の誰かから見れば、正しいと褒められることではない。でも、僕はそれでいい」
心配するまでもなく、清々しい声でそう言ったウリエルは、こちらを向いた。
「76番。それが正しいことなのか、間違っているのか。それはきっと、自分が決めることなんだと、僕は思う」
そうして、細くしとやかな指の先で、この心臓を差し示してきた。
「君にとっての正しさは、君自身が決めればいい」
「わたくしが? 自分で?」
彼はうなずく。
「76番、君は、とても後悔しているんだろう?」
また胸がうずく。
「君が辛いと感じていることは、冥界の使者に魂を奪われたことではない。自分の力がおよばなかったことだ。老女を、どうしても救ってあげたかったんだね?」
鼻っぱしらがつん、として、唇を引き結ぶ。
カロンに負けたことは、悔しい。
ただ。
老女の魂は、もう決してこの世界に舞い戻ってくることがない。永遠に果てしない闇の中をさまようことになる。
辛くても、寂しくても。声を上げても、誰にも届かない。自ら命を絶ってもなお、そんな思いをするだなんて。
それを思うと、何よりも辛い。
自分こそが消えてしまえばよかったと、自分なんかがここにいる権利があるのかと思ってしまうほど、打ちのめされるのだ。
「後悔した者は、強い。僕はね、君がもう間違うことはないと確信している」
「そんな……」
「大丈夫。君は必ず正しさを見つけられる。僕を信じてほしい」
「ウリエル様」
「僕も、君を信じている」
そうきっぱりと笑う、優しく、強く、美しいひと。
大天使様の次に敬われている、彼にそう言われたら、恥ずかしながら涙ぐんでしまっても、しかたがないことではないだろうかと思う。
「はい……!」
「ところで、76番は今日、ランチに何をいただいたんだい?」
「鰹のたたき定食です。日替わり定食にめったに登場しないメニューですので、出勤でラッキーでした」
「何よりも優先して、転生する権利」
「だって、そうだろう? 子供は、この世界の宝だよ」
彼は、そう痛々しく微笑む。そんな彼こそ、この世界で最も価値のある存在に思えた。
「それが、今の僕の正義。言い換えれば、僕の、正しさだ」
「正しさ……?」
「76番」
ウリエルは、再び視線を花壇に向けた。
「正しさとはきっと、自分の中にあるのではないかな」
「自分の中、ですか?」
「ごらん。あの美しい花たちは、我々が手を加えた。それを、正しい在り方ではない、と否定する者もいることだろう」
花を見る。この場所で咲くために、品種改良された彼ら。それが、彼ら自身が望んだことなのかと誰かに責め寄られたら、確かに答えられない。
「でも、彼らにとっての正しさは、咲いて枯れることのみなのかもしれない」
「咲いて、枯れること、のみ」
第三者には知りえない、ということだろうか。
「僕のしていることも、同じだ」
「ウリエル様」
「他の誰かから見れば、正しいと褒められることではない。でも、僕はそれでいい」
心配するまでもなく、清々しい声でそう言ったウリエルは、こちらを向いた。
「76番。それが正しいことなのか、間違っているのか。それはきっと、自分が決めることなんだと、僕は思う」
そうして、細くしとやかな指の先で、この心臓を差し示してきた。
「君にとっての正しさは、君自身が決めればいい」
「わたくしが? 自分で?」
彼はうなずく。
「76番、君は、とても後悔しているんだろう?」
また胸がうずく。
「君が辛いと感じていることは、冥界の使者に魂を奪われたことではない。自分の力がおよばなかったことだ。老女を、どうしても救ってあげたかったんだね?」
鼻っぱしらがつん、として、唇を引き結ぶ。
カロンに負けたことは、悔しい。
ただ。
老女の魂は、もう決してこの世界に舞い戻ってくることがない。永遠に果てしない闇の中をさまようことになる。
辛くても、寂しくても。声を上げても、誰にも届かない。自ら命を絶ってもなお、そんな思いをするだなんて。
それを思うと、何よりも辛い。
自分こそが消えてしまえばよかったと、自分なんかがここにいる権利があるのかと思ってしまうほど、打ちのめされるのだ。
「後悔した者は、強い。僕はね、君がもう間違うことはないと確信している」
「そんな……」
「大丈夫。君は必ず正しさを見つけられる。僕を信じてほしい」
「ウリエル様」
「僕も、君を信じている」
そうきっぱりと笑う、優しく、強く、美しいひと。
大天使様の次に敬われている、彼にそう言われたら、恥ずかしながら涙ぐんでしまっても、しかたがないことではないだろうかと思う。
「はい……!」
「ところで、76番は今日、ランチに何をいただいたんだい?」
「鰹のたたき定食です。日替わり定食にめったに登場しないメニューですので、出勤でラッキーでした」
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