あめおくん

朋藤チルヲ

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 結果を言うならば一言、惨敗だ。清々しいほどの負けである。

 あの日から三週間あまり。彼にかけられた呪いは、いまだ継続している。
 あめおくんはあめおくんのまま、というわけだ。わたしの認識が甘かった。

「もう一生このままかも」

 彼がうなだれて言った。
 バイトを終えたわたしと、並んで歩き始めたところだ。
 雨は、青い傘に当たる音も立てないささやかさで、今夜も世界を濡らしている。

 彼は週に二日、カフェでバイトしているのだそう。コンビニに寄るのはその帰りで、最近は、どちらかが買ったおやつを食べながら、呪いを解く方法を試すことが恒例になっていた。

「悲観的だなぁ」

 わたしは窘めるけど、彼の気持ちもわからないではない。
 これまで、ネットから噂話から、効果が期待できそうなありとあらゆる方法を拾い集めて試した。会っている時も、会っていない時も。しかし、呪いのパワーは強力だった。

「あ、これ。新発売の」

 マイバッグから、揚げ立てのホットスナックを取り出す。先週からテレビやSNSでCMをガンガンに流している、社運を賭けていると言っていいくらい気合いが入った新商品だ。
 彼は目を輝かせる。

「気になっていたんだこれ……!」
「うん。そうかなぁと思って。めちゃくちゃレジ横のポスター見ていたし」
「でも、売り切れていた」
「こっそり先輩に揚げてもらったの」
「え、まさか僕のために?」
「違うよ。わたしが食べたかったから」

 それは、半分は嘘だ。
 彼はじっとわたしを見たあと、泣き笑いみたいな表情になった。
 傘の下でスナックに二人で齧りつきながら、雨の中を歩く。

「夜中の揚げ物って、背徳的でたまらないよね」
「わかる」

 彼の呪いの話を、わたしはすっかり信じるようになっていた。そういう意味では、惨敗と言えども、収穫があったと言える。
 信じざるを得ない。
 彼と会う日は、つまり週に二日、百パーセント雨が降った。
 特に今夜なんて、ついさっきまで月が出ていたのだ。それなのに、彼が姿を現す頃合いを見計らったように雨が降り出した。こうなると驚きを通り越して、笑えてしまう。

「まだ希望を捨てたらだめだよ。諦めたらそこで終わりって、聞いたことない?」
「ねぇ、もういいよ」

 ホットスナックをたいらげて、脂が少し光る口元で、彼は言った。

「諦めたら終わりって、今言ったばかりなのに」
「これまでも、僕に同情して、力になってくれる人がいたんだ」
「あ、そうなんだ」

 なんとなく、根拠もなしに、そういう人は一人も現れなかったのかと思っていた。

「さすがに、君みたいに恐ろしく前向きな人はいなかったけど」
「褒め言葉でいいんだよね」
「嬉しかった。でも、うまく行かなくて失望したり、イライラしたりするのを見るのが、段々と耐えられなくなって」
「もしわたしが、失望したりイライラしたりして見えたことがあるなら、謝るけど」
「そうじゃないよ! そんなの、ぜんぜんなかった」
「よかった」
「むしろ、いつも楽しそうで、それを見ていると、僕も楽しくて」
「恐ろしく前向きなことが役に立った」

 彼はゆるく微笑む。

「でも……無理しているんだったらって思うと」

 そして、長いまつ毛をふせた。

「そこまでしてもらう価値は、僕にはない」
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