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「企業舎弟の遥かな野望」ー24 (禁断)

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第二十四話ー「禁断」

ーーースマン、寝てたよな?

 橙子は息を整えて静かに応えた

ーーー起きてた。

ーーーそか、そりゃよかった。あぁ、、、
ーーーん?
ーーーいや、今朝はスマンかった。アンタだけに言ってんじゃないんだ。
ーーーううん、仕事柄慣れてるし、それに、、、わたしも、、、

 極道の血が流れてるーーーと、小野田を煽ったのは事実だ。

ーーー一言謝りたかった、、、じゃ、遅くに悪かったな、、、
ーーーあっ、、、ねぇ!

 小野田は紳士的に電話を切ろうとしたのを、橙子が遮った。

ーーーどうして、そんなに官僚とか組織権力とか憎むの?
ーーーふふ、、、長くなるよ?話せば。
ーーー望むとこよっ、どうせ眠れない夜だったし。あ、ちょっと待ってて、ビール取ってくる。
 
 橙子は、軽やかにベッドから飛び起きた。

ーーーヤクザが悪事を働けば、刑事が動いてどうあっても逮捕してムショに放り込むまでやるくせに、権力持った人間とか、社会的に立場の高い人間がする悪事には抜け道もあるし、トカゲの尻尾切りだったり、身内贔屓だったり、、、一体誰が奴らの悪事を懲らしめるんだ?

ーーーそのために、警察や、特捜がある、、、けど

 橙子の声は尻つぼみに小さくなる。

ーーーその奴らが、身内を庇い、隠蔽し、組織と権益を守るためなら「法」を翳し「錦の御旗」をでっちあげることすらやる。
結局、弱いもの、社会のはみ出しもんだけが損をするようになってる。
 東大法学部出て官僚になったら、「勝ち」で、地方のFランクの大学出てやっとの思いで就職した会社がブラックで、後は病むのを待つだけ、みたいなのが普通でさ、いつまでたっても底辺から抜け出せないのが「負け」なんだよ。

ーーーけど、それをアナタ一人がシャカリキになって正そうなんて、所詮青臭い「正義感」振り回したお坊っちゃんじゃないの? 力には力、数には数、、、違う?

ーーーそうさ。だから、俺はその力と数を手に入れ、この国を操ってると勘違いしてる奴らに鉄槌を下してやりたいんだよ。

ーーーなんで、アナタなの? 大人しくしてりゃ、今の生活も立場も守れるじゃない? 喧嘩したいの?戦ってなんか、得るものあるの?

 橙子は鼻の奥にツンとするものがこみ上げて来るのを感じながら、なお続けた

ーーーアナタ一人に、何十万っていう鋼鉄の鎧着けた兵隊が襲いかかって来ようとしてるのよ?アナタの言う「」が、そんな奴らの「正義」に踏み潰されて、即死よ? 死んじゃうのよ!!

ーーー どうした、、、?
ーーー ごめん、、、

 自分はなぜこんな風に気色ばって、しかも「捜査対象」に心の声すら聞かせているんだろう。

 自分は、この男に何を伝えたいのだろう。
 頬を流れ落ちる涙が止まらない。

ーーー(消えないで、、、)

 自分の前から消えないでほしい、、、それが自分の心の声?

ーーー、、、橙子アキ

冷たい指先を包み、震える肩を抱くーーーそんな健斗の自分のを呼ぶ声が、恋しく、愛しく耳に残った。

 今すぐ、生身の健斗に抱かれたいと思った。

 

                (第二十四話ー了)

 
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