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第1章 異世界で暮らそう

14話 聞取調査

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 お医者さんからのオーケーも出て、いよいよ本格的に僕の人体実験が始まる。

 ユニさんは痛いことは――少ししか――しないと言っていたし、今となってはユニさんがそんなに酷いことをするとは思ってないけど……たまに暴走するからちょっと怖い。

 まあ、ユニさんにはお世話になりっぱなしだから、僕も出来る限り我慢して協力しよう。

「で、実験ってどこでやるの?
 ていうか、僕、この格好のままでいいの?
 着替えたほうがいいのかな?」

 僕もユニさんも朝から寝巻きのままだ。

 寝室から出ていない僕はともかく、ユニさんも同じ格好ということは部屋着と兼用みたいなものなのかもしれない。

 とはいえ、実験の時もこのままでいいんだろうか?

 なんか実験って言われると……なんていうんだろう?入院している人が来ているような服を着ているイメージがあるけど。

「そうですね、それじゃ、まずは全部脱いでください」

「坊ちゃま」

 脱げというユニさんと、すかさず声をかけるイヴァンさん。

 これは脱がなくていいやつだな。

「……今日は、聞き取り調査がメインのつもりなのでそのままの格好でいいですよ」

 ちょっとふてくされたように言うユニさん。

 可愛いけど、どこまで頭ピンクなんだろう、この子。

 出会った頃はこんな子だとは思わなかったけどなぁ……。

 ……原因に心当たりありまくりなので、これ以上深く考えるのはやめよう。

「えっと、脱がないのはいいとして、寝間着のままでいいの?」

「ええ、今日は2階から出るつもりはないのでこのままでいいですよ」

 2階?

「当屋敷の2階部分は全て坊ちゃまのプライベートエリアとなっております。
 あまり行儀がよろしいとはいえませんが、1階に降りないのでしたらサクラハラ様もお好きな格好でお過ごしになられて大丈夫です」
 
 いまいち飲み込めていないのが顔に出ていたのだろう、イヴァンさんが補足説明してくれる。

 へー、なるほどねー。

 イヴァンさんの言う通りお行儀が悪い気はするけど、いいって言うなら今日はこのまま過ごさせてもらおう。

 異世界マニアのユニさんが乗り気じゃないところからすると、これはきっと半ばお仕事なんだろう。

 それならお仕事を嫌々でも頑張るご褒美に、今日はお仕事以外のところではできるだけユニさんを甘やかそうと思う。


 
 ――――――



「ほ、本当にこの格好でやるの?」

「はいっ、もちろんですっ!」

 僕に膝枕されて寝っ転がっているユニさんが元気に返事する。

 ユニさんを甘やかそうという決意の元、ユニさんの好きな場所でやろうって言ってしまった結果こうなった。

 はじめはユニさんの向きが逆で、顔を股間に押し付けてる形だったけど、声が聞き取りづらかったのでさすがに反転してもらった。

 とても仕事をやる格好には見えないけど、本人は真面目にやると言っているのでとりあえず信じよう。

 もし少しでもふざけたら記録係件お目付け役のイヴァンさんからレフェリーストップが入ることになっている。

「本当に大丈夫?
 真面目にやらなかったら、ご褒美もなしだからね」

「もちろん心得ています。
 さっきも言った通り今日は聞き取り調査だけの予定なのでこれで大丈夫です」

 聞き取り調査かぁ。

 とりあえず痛いことはされなさそうだけど、なに聞かれるんだろう?

 嘘ついたりする気はないけど、緊張するな……。

「それじゃまず最初に……ハルが最初に射精したのはいつですか?」

 は?何いってんだ、この駄馬。

「坊ちゃま」

 すかさずレフェリーストップを入れ椅子から腰を上げるイヴァンさん。

「ま、待ってくださいっ!
 ニホン人と我々の身体的な違いを知ろうとしただけなんですっ!
 つい興味が勝って手順丸飛ばしにしてしまいましたが、決してふざけてるわけじゃありませんっ!」

 必死で弁解するユニさん。

 一応、靄は出ていないのでふざけていたわけじゃないっていうのは本当みたいだ。

 立ち上がって僕の顔を見ていたイヴァンさんに、手でセーフと示して頷く。

 イヴァンさんはセーフの意味はわからなかったみたいだけど、意図は通じたようで椅子に座り直した。

「坊ちゃま、手順通りにお願い致します」

「わ、わかりました。
 ちょっと先走りました。気をつけます」

 言い分が認められて安堵のため息をついているユニさん。

「ユニさん、次はないからね?」

「は、はい……」



「えーと、まずは翻訳の魔具の効果の再検証から始めようと思います」

 真面目な顔で仕切り直すユニさんだけど、やっぱり膝枕のままだ。

 この格好が真面目になりきれない原因だと思うけどなぁ……。

 まあ、ユニさんが真面目にやると言うんだからもう一度やらかすまでは信じよう。

 さて、ユニさんが真面目にやっている以上、僕も真剣にやらないと。

「えっと、翻訳の魔具ってこれのことだよね?」

 僕の首にかかっている銀色のネックレスを軽く持ち上げる。

「そうです、そうです。
 800年前から当家の宝物庫に眠っていたものなので、効果が曖昧なところもあるのではっきり検証しようと思いまして。
 聞き取り調査の際に意思の疎通に齟齬が出ていたりしたらどうしようもないですからね」

 なるほど、会話がまともに成り立ってなければ聞き取り調査もなにもあったもんじゃないな。

 ユニさんの言葉はもっともだと思うけど……それより今気になるのは……。

「あの……遮って悪いんだけど……。
 これ、宝物庫にあるような貴重品なのに、僕が借りっぱなしでいいの?」

 もともと貴重なものなんだろうなぁ、とは思っていたけど宝物庫で保管されていたと聞くと持っていることに気が引けてくる。

「ああ、どうせしまいっぱなしで殆ど忘れられていたようなものですからかまわないですよ」

 ユニさんは軽く言ってくれるけど……。

「でも、もし壊したりなくしたりしたら……」

 もしそんな事になったら絶対に弁償できない。

「ああ、それもそうですね。
 じゃ、正式に譲渡しちゃいましょう。
 イヴァン、今日のうちに届けを出しておいてください」

 なに言ってるのユニさんっ!?

「かしこまりました」
 
 かしこまらないでイヴァンさんっ!!

「だ、ダメだよっ!こんなものもらえないよっ!!」

 なんか久しぶりに僕の意志を無視してとんでもないことが決まっていくので、慌てて抵抗する。

 いくらなんでもここまであからさまに貴重なものをもらう訳にはいかない。

「サクラハラ様」

 慌てている僕にイヴァンさんがいつもの無表情で声をかける。

「サクラハラ様、これは、そういうものでございます」

 『そういうもの』。

 この世界の常識を知らない僕が逆らうことの出来ない魔法の言葉。

「って、流石に騙されないよっ!?」

 いくら僕でも、『そういうもの』で納得するにはものが重すぎる。

 なんて言われようが、こんな貴重なものを受け取ることは出来ない。

「ハル」

「ユニさんがなにを言ったって絶対に受け取らないからねっ!
 借りてるだけでも心苦しいのに……」

 ユニさんは膝枕のまま手を伸ばして僕の両頬を抑えると、じっと僕の目を見つめる。

 ユニさんに見つめられて何でも言うことを聞いちゃいそうな気分になるけど、気を取り直して絶対に譲らないぞ、とユニさんの目を見つめ返す。

「ハルと話せなくなるなんて悲しすぎます。
 私からの愛の証として受け取っていただけませんか?」

「あ、はい……」

 ユニさんに真剣な顔でこんな事言われたら頷くしか無い……。

 惚れた弱みをついてくるのはずるいと思う。



 ――――――



 ひと悶着あった――と言うか、僕が起こしちゃったけど――あと、ユニさんといくつか会話のやり取りをして翻訳に齟齬が出ていないことを確認する。

 今のところ問題らしい問題はなく、母国語レベルで完璧に意思疎通できている。

 すごいなこのネックレス。

「次は……と、アリスター帝国4代皇帝フォー・スタビザーク・アリスターは5年という短い期間で大陸全土を制覇しました。
 はい、どう聞こえましたか?」

「えっと、アリスター帝国4代皇帝フォー・スタビザーク・アリスターは5年という短い期間で大陸全土を制覇した……って聞こえた」

 器用に膝枕のまま書類を読み上げるユニさんの言葉をそのままオウム返しする。

 なんか馬鹿っぽくも見えるけど、こうやって齟齬を見つけるんだそうだ。

 意味の分からない単語なんかはその都度言うように言われている。

 今のところ固有名詞のほかは各世界独自のものは訳しきれないことが分かった。

 逆にいえば、それ以外のものは各世界の概念に照らし合わせて翻訳してくれてるっぽい。

 本当にすごいな、このネックレス。

「では、もうひとつ。
 塩売帝ソルト・シュルバ・ネルフィ・コンジールは塩を専売制にしたことで各地方の反乱を招きました。
 はい、お願いします」

 なるほど、それで塩売帝か。
 
 こっちの世界にもいろんな歴史があるんだなぁ。

「塩売帝ソルト・シュルバ・ネルフィ・コンジールは塩を専売制にしたことで各地方の反乱を招いた、だよね」

「ありがとうございます。
 今の話ですが、フォー・アリスター帝のフォーは4番目の子供だったからそのまま4と言う意味のフォーと名付けられたそうです。
 塩売帝もその施政もそうですが、名前が塩を意味するソルトであったことも含めて名付けられています。
 しかしどちらの場合も、数字や物品と人名ははっきり区別されて伝わっているようです」

 なるほど、たしかに『4・なんちゃら』とか『塩・なんちゃら』じゃなくてちゃんと名前で聞こえてたや。

 細かいところまで気が利く翻訳してくれてるなぁ。

「こうなってくると、この翻訳の魔具の仕組みも解明したくなってきますね……」

「やっぱり返そうか?」

 興味津々という感じでネックレスを見ているユニさんに、ここぞとばかりに押し付けようとする。

「いえ、そのうち貸してくれればいいです」

「ぼ、僕のもののうちは貸してあげないぞぉ」

「それなら別にいりません」

 実にあっさりと引き下がるユニさん。

 ううぅ……。

「ごめん、必要なときは貸すから言ってね」

「はい」

 ニッコリ笑うユニさん。

 この件では言い負かせる気がしない……。

「さて、では、魔具の精度になんの問題もないことが分かりましたし、これから本格的な聞き取りに入りますよ」

 膝枕された格好で表情だけは真剣なユニさん。

 気が抜けるなぁ……。

 まあ、緊張しなくていいけどさ。



 ――――――



 本格的な聞き取りが始まって、はや数時間。

 大きくは地球を超えて宇宙のことから、小さくは一個人の身体データ――平均値とか一般論としてだ――まで、あらゆることに聞き取りは及んだ。

 プライベートなことまでは聞かれなかったのはレポートやらにするからかな?

 僕も日本から持ち込んだ教科書をフル活用して返事をしていたけど、僕の知識不足もあって詳細は後日に回された事柄も多々ある。

 教科書類については参考資料としてユニさんに貸すこととなった。

 はじめはあげるって言ったんだけど、やっぱり受け取ってくれなかった。

 教科書は今、隣で翻訳のネックレスを付けたユニさんが読んでいる。

「うーん……やっぱり分かりませんね」

 しかめっつらで教科書をペラペラめくっていたユニさんが、パタンと教科書を閉じて言う。

 そのまま教科書と一緒にネックレスを渡してくれたので、とりあえず着け直す。

「やっぱりユニさんの方もダメかぁ。
 僕もこっちの本全く読めなかったしなぁ」

 このネックレスの欠点――と言うには、ネックレスに申し訳ないくらい高性能だけど――として、会話は完璧に翻訳してくれるけど、文字は一切訳してくれなかった。

 こっちの文字も数字もネックレス着けても外しても変わらず模様にしか見えない。

 念のためと思って、今ユニさんにも試してもらったけど、やっぱり駄目だった。

「文字はイチから覚えないとだめかぁ……」

「そうですね。
 こちらもハルには暫くの間、教科書の翻訳に付き合ってもらわないとですね」

 落ち込んでいる僕と比べてユニさんはそれほどでもなさそうな様子で、また僕の膝を枕に寝転がる。

「まあ、古文書の解読に役に立たない時点で予想はできてたんですけどね」

 あー、なるほどなぁ。

 そこまで言ったユニさんがなにかピンときたような顔をする。

「あっ、そうだ。
 教会に収められているニホン人が残した書物の解読とかハルにできませんかねっ!?
 今思うとこの文字に似ているような気もします」

 なるほど、日本人の残した書物ならこちらの言葉じゃなくて日本語のものもあるかもしれない。

「うん、出来るかどうかわからないけど、手伝えそうなら手伝うよ。
 ただ、800年前の文字だと僕にも読めるかわからないから、そこはごめんね」

 なんか教科書に載っている当時の書物は落書きにしか見えないものとかあるし、古文書の解読の研究をしている人とかがテレビに出ていた気がする。

 素人の僕にどこまで出来るかは不安だけど、ユニさんの役に立つならできるだけ協力しよう。



「坊ちゃま、サクラハラ様、そろそろご夕食のお時間になりますが本日はここまでといたしますか?」

 そのまま雑談に近い雰囲気になってしまった僕らにイヴァンさんが声をかける。

「そうですね、今日はここまでにしましょう」

「大丈夫?予定までは進んだ?」

 僕が答えに詰まって考え込んでしまったり、うまく説明できなかったりで時間を食ってしまったところがあるので、予定通り進んだのか不安になる。

「ええ、予定していたところだけでなく明日以降の分まで今日ですべて終わりました」

 あれ?そんなに進んだんだ?
 
「まあ終わったというより、情報があまりに膨大でもっと時間をかけて気長にやっていくしか無いとはっきりしたというだけですが」

 苦笑い気味の表情で言うユニさん。

 僕がもっと頭良ければそんなに時間かからなかったかもしれないと思うと申し訳ない気分になってくる。

「ああ、ハル、そんな顔しないでください。
 ハルは十分に役に立ってくれましたし、ハルのお陰で自信を持って研究期間の延長を申請できるのですから」

 慌てて慰めてくれるユニさん。

 その口からは靄の欠片も出ていない。

 一応ユニさんの役に立てたと思うと嬉しくなる。

「ということで……私今日頑張りましたし、明日からの時間的な余裕もできましたので……」

 顔を上に向けた膝枕から反転して股間に顔を埋めてグリグリしだすユニさん。

「ユ、ユニさん?」

「ごふおーびふぉひぃれす」

 顔を埋めているせいで声はくぐもってしまっているけど、言ってることは分かる。

 いや……まあ、約束したしなぁ……。

 そう思ってユニさんの頭をなでていると、顔をグリグリと股の間に押し込んで来ようとするので少し足を開いて隙間を作る。

 ユニさんはそのままちょっと大きくなってきちゃっている僕のチンチンを寝巻きの上から口で……。

「坊ちゃま、サクラハラ様」

 びっくううううっっ!!

 突然聞こえてきたイヴァンさんの声に2人して飛び上がるほど驚いた。

 さ、さっき声かけられたばっかなのに、いることを完全に忘れてた……。

「ご夕食の後になさいませ」

 ご、ごめんなさい……。
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