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第3章 学園に通おう

117話 主寝室

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 意外と普通だった僕の寝室のドアを閉めて一番奥にある謎の扉に向かう。

 不穏なことを言っていたアッキーだけど、何度聞いても『実際に見た方がいい』と言って細かくは教えてくれなかった。

「先程も言ったとおり、寝室の向かいは談話室になっている。
 そして、その隣、ここは風呂だな」

 向かい側はとりあえず説明だけ聞いて、中は後で見ることになった。

 アッキーいわく『ユニ坊の屋敷とたいして変わらん』らしいので後回しだ。

 問題は……アッキーが足を止めたドアの先、屋敷の2階反対側には賓客用の客間があった空間だ。

 近づくと分かる。

 ドアの彫刻からして違う。

 他の扉と同じく大樹――世界樹だってアッキーは言ってた――が彫られているんだけど……世界樹だけが彫られている他のドアと違って、なんか鳥は飛び交っているし、動物も遊び回っているし、後光すら差してる。

 もう見るからにゴージャスだ。

「さて、問題のこの部屋だが」

 なんか言う前にアッキー自ら『問題』って言われたっ!?

 アッキーが『問題』に思うってどんな部屋なんだ……。

 みんなもアッキーの後ろの扉を戦々恐々とした視線で眺めてる。

 泣き虫のメファートくんなんてすでに涙目だ。
 
「え、えっと……そもそもなんの部屋なの?」

 一通りユニさんちにある部屋は出てきてしまったので、この部屋がなんの部屋か見当もつかない。

「……主寝室だ」

「主寝室?」

 思わずオウム返しで聞いてしまった。

 それくらいちょっと意味がわからなかった。

 寝室はさっきあったよね?それじゃ、主寝室ってなんなんだろう?

 僕が『意味がわからない』っていうマヌケな顔をしているのを見て取ったミゲルくんが追加で説明してくれる。

「主寝室というと、主に屋敷の主人のための寝室という意味と……あの、その……ふ、夫婦の寝室という意味もあります」

 ちょっと恥ずかしそうなミゲルくんの様子を見るに、夫婦の寝室って要するにそういうことなんだろうな。

 僕用の寝室はそれこそすぐ隣りにあるし、そういう用の寝室ってことなんだろう。

「……なんでそんなの作っちゃったの?」

「まあ、我もそう思わんではないが……必要だろ?」

 苦笑しながらも無駄とは言わないアッキー。

 いや、まあ、たしかに必要だけどさぁ。

「なんというか、爺共の子孫繁栄にかける熱い情熱というか……そういうものが暴走したのではないかと思っている」

 うちでそんなもの暴走させられてもなぁ。

 おじいちゃんたち、ボケちゃってない?大丈夫?

 ……そういえば、前に『年取りすぎて人間とは考えがちょっと違ってる』的なこと言ってたな。

 まあ、好意とだけ受け取っておこう。

「見なきゃダメ?」

「ダメではないが、結局使うだろう?」

 あー……はい。

 多分、使い潰すぐらい使います。

 仕方ない、これからイヤってほどお世話になる部屋だありがたく確認させてもらおう。



 ――――――



 ドアノブに手をかけて1度深呼吸する。

「アッキー、爆発したりはしないよね?」

「…………」

 緊張をほぐすための冗談なんだから、深刻な顔で沈黙しないでくれるかな?

 え?なに?寝室なのに爆発するおそれがあるの?

「……ほ、本当に開けても大丈夫なの?ここ」

「大丈夫、もしもの時は我がなんとかする」

 頼もしいけど、かえって不安なんだけど。

 とはいえ、そこまで言われるような部屋じゃ見ない訳にはいかない。

 爆発するかもしれない部屋があるなんて怖すぎる。

 もう1度大きく深呼吸してからドアを開ける。

 目に入ってきたのは見慣れた間取りの談話室だった。

 ドアを開けてすぐに談話室。そして談話室の右に多分寝室に続いているドア。

 左側には多分使用人室と簡易調理場に続いているドアが2つある。

 間取り自体は見慣れているけど、なんかちょっと……いやかなり広くなっている。

 今まで10人がけくらいだったテーブルも倍くらいの大きさになっているし、それに合わせて部屋の広さ自体広くなっている。

 ……というか、広すぎない?この部屋。

 明らかにお屋敷の大きさからはみ出している広さある気がするんだけど。

「…………アッキー、説明を求めます」

「うむ、なにからだ?」

 なにからっ!?えっ!?見て分かる広さ以外にもなんかあるのっ!?

「と、とりあえず、広さの説明から」

 ドアを開けたまま一歩も中には入ろうとしない僕の様子を不審に思った子たちが、部屋の中を覗き込んでは呆然としている。

 やっぱり、異常だよね?これ。

「広さか。広さについては空間をちょっとイジっていると聞いた」

 そんな簡単にイジらないで空間とか。

 ユニさんなんか『空間魔法……実在したとは』とか呆然とした声で言ってるし。

「一体何でそんなことに……」

「いや……最近、お前の談話室手狭になってきたろ?
 だから、もうちょっと広げるように頼んだんだが、どうにも我々は建築とか設計とか意味分からんでな。
 上手くいかなくてキレた爺が面倒だからって魔法で広さ広げたらしい」

 おじいちゃん何やってんの。

 いや、まあ、魔法が得意なエルフさんたちからしたらそっちのほうが手っ取り早かったのかもしれないけどさぁ。

「一応事情はわかったけど……とりあえず、入って大丈夫なの?ここ」

 それこそ爆発したりしない?

「うむ、安全性については爺どもが揃って『この屋敷が燃え尽きてもここだけは残る』と言い切ったほどだから問題はない」

 それはそれでどうなんだ?

 本当に大丈夫なのか?それ。

 まあ、長老様たちがそこまで言うなら信じよう。

 恐る恐る部屋の中に一歩足を踏み入れようとしたら、袖をつかんでたツヴァイくんに止められた。

「どしたの?ツヴァイくん?」

 なんか危険察知した?

「ドライ」

 ツヴァイくんは不思議そうに見つめる僕を無視してドライくんに声をかける。

 声をかけられたドライくんは、軽くツヴァイくんにうなずき返すとスッと談話室の中に入る。

 あ、これ、身代わりっていうかそういうやつだ。

 気づいたらいつの間にか僕の前にフィーアくんとゼクスくんが出てきてるし。

 部屋の中に入ったドライくんは緊張した面持ちで部屋の中を見回していたけど、やがて緊張を解いて振り返る。

「兄サマ、危険はないト思いマス」

 ドライくんにうなずき返したツヴァイくんが僕の腕をつかんでいた手を離してくれたので、急いでドライくんに駆け寄って抱きしめる。

 そして、抱きしめたドライくんの背中を撫でながら――出来れば頭なでたいけど、ドライくん僕より少し背が高いから無理――ツヴァイくんを軽く睨みつける。

「ツヴァイ、やりたいことは分かるけど僕はそういうのイヤです」

「承知いたしマシタ、お館サマ」

 ツヴァイくんはすぐに深々と頭を下げてくれるけど、これ絶対に分かってないやつだ。

 他のみんなも苦笑いしているし、変なこと言ってるのは僕の方なんだろうけど、こればっかりはイヤだってはっきり言っておかないと。

「しかし、愛シイ方のためデスので」

 む、むぅ。

 さらに言い募ろうとしていた僕だけど、そう言われてしまってはなにも言えない。

「……心配するので程々にしてください」

「承知いたしマシタ」

 こればっかりは言ってどうなるものじゃないからなぁ。
 
 僕自身が危ないことしないように気をつけよう。
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