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序章 最前線
8話 地下壕にて
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軍医少尉からの作戦説明の後、僕たちは早速配置についた。
魔法兵のいる各小隊が持ち場につき、空いている銃座を特攻兵に志願していた兵隊や衛生兵が埋める。
後輩を傷病兵扱いで後方に送れないか最後まで軍医少尉相手に粘ってみたけど、結局のところ許可は下りなかった。
その代わり、特攻兵に志願していた後輩だけど、銃座につくには体格が足りないということで結局『弾運び』として僕の指揮下に入っている。
「先輩♡ボク最後まで先輩と一緒にいれて嬉しい♡」
もう完全に精神のタガが外れてしまった後輩は、人前だというのにもかまわずに僕にベタベタくっついてきている。
小隊の中には苦々しい顔で見ている人もいるけど、もう気にしないことにした。
普段だったら士気だとか風紀だとか色々問題があるけど、もうあとは死ぬだけの僕らにはそんなもの大した問題じゃないだろう。
衛生兵の中にも贔屓の将兵が残っている子がいたので、その子達はその部隊付きとして送っている。
せめて死ぬまでの間は少しだけでも幸せに。
死を覚悟しても、逃げようという気にはならなかった。
逃げたところで逃亡兵として野垂れ死ぬか、命令違反で銃殺かの二択だ。
それなら命令通りに死ぬしか無い。
それが軍隊だって、将兵はもちろん僕たち衛生兵に至るまで『教育』で文字通り『叩き込まれて』いる。
だから、せめて最後だけは好きな人と。
そう思うんだけど、クロウくんが来てくれない。
最後くらいクロウくんと後輩……ミツバくんで両手に花をしたいのに来てくれない。
時々チラチラとこちらを見ているのに恥ずかしがって来てくれない。
もうこうなったらこっちから行くか、と思ったところで見張り台から敵接近の合図があった。
幸せな時間は、もう終わりだ。
ミツバくんに最後のキスをして、僕らの戦場へと送り出す。
…………クロウくんとも最後にキスしたかったなぁ。
この陣地最後の戦闘は思ったより地味な感じで始まった。
エルフが出たという話を中佐からは聞いていたので、いきなり爆発して終わったりするのかな?と思っていたんだけど普通にゴブリン隊が攻め寄せてきた。
いつもと同じ流れにかえって陣地に緊張感が走る。
エルフによる魔法攻撃ならともかく、ゴブリンごとき相手に黙って死んであげる訳にはいかない。
戦い慣れたとも言えるゴブリン相手にいつも通り銃座による弾幕を張り、突撃を粉砕していく。
こうなると僕たち『弾運び』が忙しくなってくる。
撤退する補給部隊だけでは運びきれないということで、大量に残された弾薬を湯水のように銃座に流し込んでいく。
「塹壕の部隊より伝令、ゴブリン隊による7度目の突撃を粉砕したということですっ!」
伝令の代わりも務めている『弾運び』からの報告に周囲が沸き立つ。
撤退する部隊が野営地から全員出て行ってからもう2時間近く経っている。
これなら敵がこの野営地を落としても撤退部隊を追撃することは不可能だろう。
実質的に僕たちは任務を完遂したわけだ。
あとは出来るだけ戦い続けて死ぬだけ。
そう思って少し気が抜けたところで、慌てた様子の伝令が走ってくる。
「敵ゴブリン部隊が撤退を開始していますっ!!」
伝令の言葉の後、一瞬の沈黙があって割れんばかり歓声が響き渡る。
勝った。
まさかの勝ってしまったのだっ!
死ぬ気で戦っていたのに、死ぬどころか一兵の損害も出さずに勝ってしまった。
そんなあり得ないはずのことを喜んでいる僕の背筋に悪寒が走った。
なにかが来てる。
なにかものすごい強大で恐ろしいものがここに向かってきている。
恐ろしいほどのマナを持ったなにかが……。
そこまで考えて悪寒の正体に気づいた。
「クロウくんっ!エルフが来たっ!!」
初めて感じたけど、この桁外れのマナ、これがエルフに違いない。
そして同時に悟る。
これどうしようもないや、と。
僕なんかはもちろん、前線にいる魔法兵たちも一瞬で消し飛ばされる。
それくらい僕たちとエルフのマナには差があった。
僕の言葉を聞いたクロウくんが一瞬『なに言ってるんだ?』というような顔をしたあと、青ざめる。
「誰でもいいっ!退却ラッパをっ!!」
クロウくんの言葉を聞いた衛生兵の一人が思いっきり退却ラッパを吹き鳴らす。
それと同時に前線からもラッパの音が聞こえてきた。
「まだ時間はあるはずだ、落ち着いて壕の中に」
努めて落ち着いた声でクロウくんが出す指示に従って、衛生兵たちが物資倉庫に併設された地下壕に避難していく。
朝のうちに見た大爆発のことを考えると地下に避難したくらいで助かるとは思えないけど、なにもやらないよりはマシだ。
避難指示を終えたクロウくんがこちらによってくる。
こんな状況だというのに、なんか凄いモジモジ恥ずかしそうにしてる。
「あのな……こんな状況だから言っちゃうけどな……」
そこまで言うと、なにかを言おうとしては口を閉じてとパクパク何度も繰り返している。
死ぬ前に言い遺したいことってことなんだろうけど、なにをそんなに言いづらそうにしているんだろう?
「あのな…………あの……イロハは気づいてなかっただろうけど……俺、お前のことが好きだ」
驚いた。
この期に及んで隠せていると思っていたことに驚いた。
あれだけ好き好きオーラ出しておいて、隠せている気でいたクロウくんが可愛い。
可愛かったのでキスをした。
思いっきり濃厚なやつを長々と。
びっくりした顔をしていたクロウくんだけど、そのまま嬉しそうにベロを絡めてくる。
クロウくんとはこれが初めての深いキスだ。
「後でもっといろんなことしようね」
あり得ない約束をしようとする僕を驚いた顔で見たクロウくんが、嬉しそうに笑う。
「ああ、後でゆっくりな」
そしてもう一度今度は軽くチュッと唇を合わせてから、僕の手を引いて地下壕の中に入ろうとする。
このまま着いていきたいところたけど、そういう訳にはいかない。
「クロウくん、僕はまだ入れないから」
まだ僕の同僚たちが戻り切っていない。
なによりミツバくんがまだ戻ってきていない。
僕の言葉を聞いたクロウくんが厳しい顔になって少し黙った後……また深くキスをしてきた。
「…………また後でな」
「うん、また後で」
約束を交わしてクロウくんが地下壕に降りていく。
クロウくんはクロウくんで小隊長として、ここの責任者として地下壕の指揮をしないといけない。
何度か振り返りながら降りていくクロウくんに、笑いながら手を振って見送ると野営地の方に向き直る。
野営地からは慌てた様子の衛生兵たちが走ってきているけど、ミツバくんの姿はまだない。
エルフの気配がだいぶ近づいて、そしてマナが膨らんできている。
おそらく大規模な魔法の準備をしているのだろう。
もうほとんど時間がない。
地下壕に入れば助かるかと言えば難しいと思うけど、外にいては確実に死ぬ。
ミツバくん以外の全員が帰ってきてもまだミツバくんは戻ってこない。
タイミング的に一番遠い銃座に補給に行っていたから、もしかしたら、ここではなくて他の小隊の地下壕に入ることにしたのかもしれない。
そう思うんだけど、どうしても中に入る気になれなくてギリギリまでミツバくんが来るはずの方向を見つめ続ける。
エルフに集まったマナはもう弾けそうになっている。
もう一刻の猶予もない。
それでも諦めきれずに、このまま外から壕の扉を閉めようかと思った時、よたよたと転びそうになりながら走ってくるミツバくんの姿が目に入った。
慌てて駆け寄って、息を切らせて倒れそうになっているミツバくんを抱きしめる。
「先輩っ!ごめんなさいっ!最後は先輩と一緒が良くってっ!遠かったけど先輩に会いたくってっ!!」
「うん、待ってたよ。
とにかく早く地下壕へ」
泣きながらしがみついているミツバくんを抱きしめながら地下壕に入って、扉を閉めた。
地下壕の中ではみんなが頭を抱えてうずくまっていた。
僕もクロウくんを見つけて、その隣にうずくまる。
その僕の隣にはまだ息を切らせたままのミツバくんがいる。
これで夢の両手に花の完成だ。
謎の満足感に満たされた瞬間、エルフから膨大なマナが解き放たれた。
地下壕の中が激しい振動に包まれてあちこちから悲鳴があがる。
絶望的な状況だけど、左右からクロウくんとミツバくんに抱きつかれた僕は少し幸せな気分だった。
「…………ダメっぽいねぇ」
「……そうだな、外壁にヒビが入ってきても攻撃が終わる気配がないし無理っぽいな」
「ボク、先輩と一緒なら怖くないよ」
そう言ってこんな時だというのに幸せそうな顔で笑うミツバくん。
そんなミツバくんに笑顔を返そうとして……眼の前が真っ赤になる。
天井から瓦礫……というには大きすぎる塊が落ちてきてミツバくんの首のあたりから血が吹き出している。
「ミツバくんっ!?」
悲鳴を上げる僕の腕がクロウくんに引かれた。
慌ててそちらを見ると、クロウくんの上にも瓦礫が落ちてきていて体中が血に染まっている。
見回せば地下壕中に瓦礫が降ってきていて運良く直撃を免れたボクのような一部の人間以外は酷い有様だった。
絶望感が頭を支配する中、その片隅にちょっとしたわがままが浮かぶ。
どうせ死ぬならクロウくんとミツバくんと一緒がいい。
僕が死ぬまでクロウくんとミツバくんには生きてて欲しい。
そんな思いに突き動かされるまま、試してもいなかった回復魔法を解き放つ。
基本的に一人用の魔法みたいだけどなんとか無理して二人にかかるように効果範囲を広げる。
精力?をマナに変換して回復魔法にするとかいう変な魔法だけど、とにかく最大威力最大範囲で発動し続ける。
変換する精力?は自分のだけじゃなくていいらしいので、申し訳ないけど周りのみんなから別けてもらうことにする。
なんていうか、衛生兵の子たちはみんなヤりたい盛りの子たちだから精力はどんどん湧いてくる。
みんなから流れ込んでくる精力は不思議とみんなそれぞれ『味』が違う気がする。
クロウくんとミツバくんのは特に美味しい。
ちょっとみんなを味見するのが楽しくなってきた頃、地下壕を襲っていた振動が収まった。
エルフの攻撃魔法が終わったのかもしれない。
そのことにホッとして気を抜いたら……一気に視界が暗転した。
魔法兵のいる各小隊が持ち場につき、空いている銃座を特攻兵に志願していた兵隊や衛生兵が埋める。
後輩を傷病兵扱いで後方に送れないか最後まで軍医少尉相手に粘ってみたけど、結局のところ許可は下りなかった。
その代わり、特攻兵に志願していた後輩だけど、銃座につくには体格が足りないということで結局『弾運び』として僕の指揮下に入っている。
「先輩♡ボク最後まで先輩と一緒にいれて嬉しい♡」
もう完全に精神のタガが外れてしまった後輩は、人前だというのにもかまわずに僕にベタベタくっついてきている。
小隊の中には苦々しい顔で見ている人もいるけど、もう気にしないことにした。
普段だったら士気だとか風紀だとか色々問題があるけど、もうあとは死ぬだけの僕らにはそんなもの大した問題じゃないだろう。
衛生兵の中にも贔屓の将兵が残っている子がいたので、その子達はその部隊付きとして送っている。
せめて死ぬまでの間は少しだけでも幸せに。
死を覚悟しても、逃げようという気にはならなかった。
逃げたところで逃亡兵として野垂れ死ぬか、命令違反で銃殺かの二択だ。
それなら命令通りに死ぬしか無い。
それが軍隊だって、将兵はもちろん僕たち衛生兵に至るまで『教育』で文字通り『叩き込まれて』いる。
だから、せめて最後だけは好きな人と。
そう思うんだけど、クロウくんが来てくれない。
最後くらいクロウくんと後輩……ミツバくんで両手に花をしたいのに来てくれない。
時々チラチラとこちらを見ているのに恥ずかしがって来てくれない。
もうこうなったらこっちから行くか、と思ったところで見張り台から敵接近の合図があった。
幸せな時間は、もう終わりだ。
ミツバくんに最後のキスをして、僕らの戦場へと送り出す。
…………クロウくんとも最後にキスしたかったなぁ。
この陣地最後の戦闘は思ったより地味な感じで始まった。
エルフが出たという話を中佐からは聞いていたので、いきなり爆発して終わったりするのかな?と思っていたんだけど普通にゴブリン隊が攻め寄せてきた。
いつもと同じ流れにかえって陣地に緊張感が走る。
エルフによる魔法攻撃ならともかく、ゴブリンごとき相手に黙って死んであげる訳にはいかない。
戦い慣れたとも言えるゴブリン相手にいつも通り銃座による弾幕を張り、突撃を粉砕していく。
こうなると僕たち『弾運び』が忙しくなってくる。
撤退する補給部隊だけでは運びきれないということで、大量に残された弾薬を湯水のように銃座に流し込んでいく。
「塹壕の部隊より伝令、ゴブリン隊による7度目の突撃を粉砕したということですっ!」
伝令の代わりも務めている『弾運び』からの報告に周囲が沸き立つ。
撤退する部隊が野営地から全員出て行ってからもう2時間近く経っている。
これなら敵がこの野営地を落としても撤退部隊を追撃することは不可能だろう。
実質的に僕たちは任務を完遂したわけだ。
あとは出来るだけ戦い続けて死ぬだけ。
そう思って少し気が抜けたところで、慌てた様子の伝令が走ってくる。
「敵ゴブリン部隊が撤退を開始していますっ!!」
伝令の言葉の後、一瞬の沈黙があって割れんばかり歓声が響き渡る。
勝った。
まさかの勝ってしまったのだっ!
死ぬ気で戦っていたのに、死ぬどころか一兵の損害も出さずに勝ってしまった。
そんなあり得ないはずのことを喜んでいる僕の背筋に悪寒が走った。
なにかが来てる。
なにかものすごい強大で恐ろしいものがここに向かってきている。
恐ろしいほどのマナを持ったなにかが……。
そこまで考えて悪寒の正体に気づいた。
「クロウくんっ!エルフが来たっ!!」
初めて感じたけど、この桁外れのマナ、これがエルフに違いない。
そして同時に悟る。
これどうしようもないや、と。
僕なんかはもちろん、前線にいる魔法兵たちも一瞬で消し飛ばされる。
それくらい僕たちとエルフのマナには差があった。
僕の言葉を聞いたクロウくんが一瞬『なに言ってるんだ?』というような顔をしたあと、青ざめる。
「誰でもいいっ!退却ラッパをっ!!」
クロウくんの言葉を聞いた衛生兵の一人が思いっきり退却ラッパを吹き鳴らす。
それと同時に前線からもラッパの音が聞こえてきた。
「まだ時間はあるはずだ、落ち着いて壕の中に」
努めて落ち着いた声でクロウくんが出す指示に従って、衛生兵たちが物資倉庫に併設された地下壕に避難していく。
朝のうちに見た大爆発のことを考えると地下に避難したくらいで助かるとは思えないけど、なにもやらないよりはマシだ。
避難指示を終えたクロウくんがこちらによってくる。
こんな状況だというのに、なんか凄いモジモジ恥ずかしそうにしてる。
「あのな……こんな状況だから言っちゃうけどな……」
そこまで言うと、なにかを言おうとしては口を閉じてとパクパク何度も繰り返している。
死ぬ前に言い遺したいことってことなんだろうけど、なにをそんなに言いづらそうにしているんだろう?
「あのな…………あの……イロハは気づいてなかっただろうけど……俺、お前のことが好きだ」
驚いた。
この期に及んで隠せていると思っていたことに驚いた。
あれだけ好き好きオーラ出しておいて、隠せている気でいたクロウくんが可愛い。
可愛かったのでキスをした。
思いっきり濃厚なやつを長々と。
びっくりした顔をしていたクロウくんだけど、そのまま嬉しそうにベロを絡めてくる。
クロウくんとはこれが初めての深いキスだ。
「後でもっといろんなことしようね」
あり得ない約束をしようとする僕を驚いた顔で見たクロウくんが、嬉しそうに笑う。
「ああ、後でゆっくりな」
そしてもう一度今度は軽くチュッと唇を合わせてから、僕の手を引いて地下壕の中に入ろうとする。
このまま着いていきたいところたけど、そういう訳にはいかない。
「クロウくん、僕はまだ入れないから」
まだ僕の同僚たちが戻り切っていない。
なによりミツバくんがまだ戻ってきていない。
僕の言葉を聞いたクロウくんが厳しい顔になって少し黙った後……また深くキスをしてきた。
「…………また後でな」
「うん、また後で」
約束を交わしてクロウくんが地下壕に降りていく。
クロウくんはクロウくんで小隊長として、ここの責任者として地下壕の指揮をしないといけない。
何度か振り返りながら降りていくクロウくんに、笑いながら手を振って見送ると野営地の方に向き直る。
野営地からは慌てた様子の衛生兵たちが走ってきているけど、ミツバくんの姿はまだない。
エルフの気配がだいぶ近づいて、そしてマナが膨らんできている。
おそらく大規模な魔法の準備をしているのだろう。
もうほとんど時間がない。
地下壕に入れば助かるかと言えば難しいと思うけど、外にいては確実に死ぬ。
ミツバくん以外の全員が帰ってきてもまだミツバくんは戻ってこない。
タイミング的に一番遠い銃座に補給に行っていたから、もしかしたら、ここではなくて他の小隊の地下壕に入ることにしたのかもしれない。
そう思うんだけど、どうしても中に入る気になれなくてギリギリまでミツバくんが来るはずの方向を見つめ続ける。
エルフに集まったマナはもう弾けそうになっている。
もう一刻の猶予もない。
それでも諦めきれずに、このまま外から壕の扉を閉めようかと思った時、よたよたと転びそうになりながら走ってくるミツバくんの姿が目に入った。
慌てて駆け寄って、息を切らせて倒れそうになっているミツバくんを抱きしめる。
「先輩っ!ごめんなさいっ!最後は先輩と一緒が良くってっ!遠かったけど先輩に会いたくってっ!!」
「うん、待ってたよ。
とにかく早く地下壕へ」
泣きながらしがみついているミツバくんを抱きしめながら地下壕に入って、扉を閉めた。
地下壕の中ではみんなが頭を抱えてうずくまっていた。
僕もクロウくんを見つけて、その隣にうずくまる。
その僕の隣にはまだ息を切らせたままのミツバくんがいる。
これで夢の両手に花の完成だ。
謎の満足感に満たされた瞬間、エルフから膨大なマナが解き放たれた。
地下壕の中が激しい振動に包まれてあちこちから悲鳴があがる。
絶望的な状況だけど、左右からクロウくんとミツバくんに抱きつかれた僕は少し幸せな気分だった。
「…………ダメっぽいねぇ」
「……そうだな、外壁にヒビが入ってきても攻撃が終わる気配がないし無理っぽいな」
「ボク、先輩と一緒なら怖くないよ」
そう言ってこんな時だというのに幸せそうな顔で笑うミツバくん。
そんなミツバくんに笑顔を返そうとして……眼の前が真っ赤になる。
天井から瓦礫……というには大きすぎる塊が落ちてきてミツバくんの首のあたりから血が吹き出している。
「ミツバくんっ!?」
悲鳴を上げる僕の腕がクロウくんに引かれた。
慌ててそちらを見ると、クロウくんの上にも瓦礫が落ちてきていて体中が血に染まっている。
見回せば地下壕中に瓦礫が降ってきていて運良く直撃を免れたボクのような一部の人間以外は酷い有様だった。
絶望感が頭を支配する中、その片隅にちょっとしたわがままが浮かぶ。
どうせ死ぬならクロウくんとミツバくんと一緒がいい。
僕が死ぬまでクロウくんとミツバくんには生きてて欲しい。
そんな思いに突き動かされるまま、試してもいなかった回復魔法を解き放つ。
基本的に一人用の魔法みたいだけどなんとか無理して二人にかかるように効果範囲を広げる。
精力?をマナに変換して回復魔法にするとかいう変な魔法だけど、とにかく最大威力最大範囲で発動し続ける。
変換する精力?は自分のだけじゃなくていいらしいので、申し訳ないけど周りのみんなから別けてもらうことにする。
なんていうか、衛生兵の子たちはみんなヤりたい盛りの子たちだから精力はどんどん湧いてくる。
みんなから流れ込んでくる精力は不思議とみんなそれぞれ『味』が違う気がする。
クロウくんとミツバくんのは特に美味しい。
ちょっとみんなを味見するのが楽しくなってきた頃、地下壕を襲っていた振動が収まった。
エルフの攻撃魔法が終わったのかもしれない。
そのことにホッとして気を抜いたら……一気に視界が暗転した。
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