Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

文字の大きさ
54 / 63
白き其の者

54

しおりを挟む
アイツはエースが放つ閃光とはまた違った何かを放った。その瞬間にオレ達は身動きが取れなくなった。
それが影響しなかったのは、この中でおそらくダンナだけになる。
「俺は、俺達はマスターを護る為の存在。マスターが居なければ俺達も居ない」
「っ…だからって…!リヒトを――――」
ダンナの表情からは怒りが滲み出ていたが、その言葉は続かなかった。
どちらも主張したい事が理解出来るからこそ、オレは唇を強く噛んだ。
「だからこそ…備えませんか。我々はあまりにもアイツの事を知らなさ過ぎます」
更に表情が険しくなったダンナだったが、少し考え込んだ後に小さく息を吐いてから承諾された。
その間もエースは表情を変えることなく、誰とも目も合わせようとはしなかった。
(…アイツは自分が絶対的な存在である事は疑ってもいないし、そうであると確信している)
アイツから受けた屈辱的な行為を思い出し、嘔吐しそうになるが何とか堪えた。
何をするか全く検討もつかない、もしかしたらリヒトにも同じ事をするかもしれない
それに今はダンナの姿で、オレの時よりもずっとタチが悪い

「2人とも…ごめん、俺が冷静になるべきだったよな」
ダンナは俯きながらそう言った。決して明るくはないが、前向きな姿勢を取る主に胸が苦しくなった。
そう言ってから彼はエースの前に立った。それから、ふんっ!と気合の入る声と共に、ダンナに無理矢理イスへと座らされていた。
「うっ…!?…マスター……?」
「俺は、弱い。強かったらリヒトもエースも、レイルも守れたかもしれない。けど実際はそんなに甘くないし、俺は…誰よりも弱い
でも俺は…!諦めたくない!お前ら3人、作ったの俺だし、絶対に…絶対ッ……!誰も、犠牲になんか…」
涙を、堪らえようとしていた。オレは近くにあったタオルを掴み、慌てて近寄った。
エースと少し目が合ってから、ダンナにそれを渡せば顔を覆うようにして顔をタオルに伏せた。ごめん、と何度も言葉を繰り返していた。
その様子を見て、もしかしてオレは余計な事をダンナに言ってしまったかもしれないと思った。


ちょっと情けない顔になってるかも、と伝えてから顔を上げた。
軽く鼻水を啜りながら、俺はタオルをぐっと掴んだ。
「エースは…アイツ偽者が何の目的でここベストレルに来たのか知ってる?」
「俺は、その…残念ながら…… そもそも、マスター…ではなく、あの者の正体が何なのかも…」
どれも言い訳になってしまうのだと。表情には出ていないが、すっかり彼は気落ちしてしまっていた。
「俺がブループ湖で倒れただろ?その時に体…奪われちゃったんだ」
「…!?そ、それは……奪われた、とは…?」
簡単にオレが説明する、とレイルが腕を組みながら口を開いた。
体を奪われた後にとある犬に入れ代わってしまったことや、本当の体ではないために俺の魂が消滅する可能性
そしてレイルによればその偽者は“世界トラインの忌み子”であると。さらに再び例のエルフ達に襲われたことも告げた。
「入れ代わった事を知っていたエルフどもがずっと気になってる。アイツ偽者と無関係だとは思えない」
「俺も、それは疑問だった。リヒトの事は心配だけど…」

正直言えば、あのエルフ達が怖い
何においても容赦なかったし、る時は本当にやるのだろうという遠慮のなさがあった。
俺が特別な、少しだけ特異な存在だからあの場で殺されなかっただけだ
(ここまで来たのに、張本人アイツとは一度も話が出来てない…… 全く意図も分からないのに、攻撃されてるばかりだ…)
だからこそ目的が知りたい。しかし2人から軽く話を聞いていても、まともな会話にならないようだった。
(支離滅裂で自分勝手、理解不能な行動に未知数の現象を起こすよりは…)
かといってエルフ達が良いかと言えばそういう訳でもないのだか
うーん、と唸っているとエースが近寄って来た。そして膝を付いて俺を見上げた。
「そのエルフ達を探しましょう、マスターの事は俺が必ず護ります。命に代っ、んぐぅ」
「命は賭けなくていいからな」
口を閉じるように手で抑えた。リヒトもそうだったが、自分を大事にしてほしいところだ
「レイルもそうだぞ」
ビシッと指を差せば、軽く反応したが分かりやすく目を逸らされた。俺はムッとなり彼の頬をぶにっと引っ張った。
「ダ、メ、だ、か、ら、な?」
「ふぁい……」

ベストレルで情報収集という目的自体は変わっていなかったので、ここでそのままエルフ達の正体を探る事にした。
幸いにもレイルはエルフだし、同族ならば上手く口利きしてもらえるかもしれない
(とは言っても、情報の質を上げるなら依頼を引き受けた方が早いし可能性が高いんだよな)
はあ、と思わずため息をついた。結局1つ目の依頼は達成感がないまま終わってしまったし、どうしたものかと悩んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...