武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る

こまめ

文字の大きさ
23 / 33
第1章 策士、俺 (1543年 4月〜)

第二十二話 抗い、文

しおりを挟む
 「其方が、諏訪頼重殿にございますな」
 頼重は、隻眼の男を見上げる。
 背後には己に目を光らせている男達が、数十人。

 「皆の者っ、我が殿を御守りするのじゃ!!」
 「良い」
 頼重は家臣に命じ、前線を引かせる。
 目前に立つ《武田家家臣》の様子から、頼重かれは悟る。
 晴信暗殺は、失敗したのだと。


 「儂の首を取るか?」
 頼重は地に胡坐をかく。
 彼の眼差しは、〈異物〉を捉える。
 それは、強かな覚悟を持つ者の目である。
 
 「いえ、そのような事は致しませぬ。
  我が殿は、貴方様の死を御望みであらぬ故」
 「偽りを申すなっ!!
  晴信は我らを許してなどおらぬであろうが!!」

 不意に出た大声。
 頼重は直ぐに口を噤み、己を見つめ直す。
 柄にもなく、熱くなってしまった。

 頼重を殺してはならぬ、それは晴信の本心である。
 然し、頼重は中々認めようとはしない。
 己の中にある自尊心が、それを許さないのだろう。
 
 
 「……晴信に伝えよ。儂は儂の考えを曲げる気は無いと。
  其方が行きたければ、儂を殺してから行けばよい」

 「殿っ!!」

 家臣は叫ぶ。されど、頼重は振り返らない。
 彼の時折見せる微笑みは、死を覚悟している者にこそ見せられる、武士としての誉れ。

 「これが己の、己に恥じぬ生き方じゃ」

 頼重の覚悟、それは本物だ。
 この男が此処で死ぬ気ならば、如何にしてそれに応えるか。
 

 「承知致しました。
  そこまでの御覚悟ならば、
  私も腹を括るしかありませぬな」


 その時、彼の行動に、周囲は絶句する。
 〈異物〉は腰刀に手をかけ、抜く。
 銀の刃が朝日に照らされ、神々しい光を放っていた。

 諏訪家家臣は危険を感じ、頼重の守備に当たろうとするが、頼重による叱責に立ち止まった。
 

 「殿の命に背いても良いのか」

 頼重の問いに〈異物〉は嗤い、見せる。
 弱者を見下すかの如く、死んだような赤い目を。



 「殺せと命じたのは御前じゃ。
  儂は唯、御前の祈りを叶えようとしたまでよ」



 身も凍る程の、低い声。
 〈異物〉は静かに、刀を持つ右手を振りかざした。
 


  
 「晴幸っ!!」
 次の瞬間、背後から何者かに肩を掴まれる。
 途端に身体がびくんと痙攣し、心臓が大きく鼓動を打った。


 
 「……あ……?」
 


 ゆっくりと辺りを見回す。
 振り上げた右手には刀。
 目前には、男が覚悟を決めた表情で座っている。



 「っ!?」

 手から離れた刀は、音を立て地へ落下した。


 「わしは……なにを……」

 隙を見た諏訪の家臣は、頼重を取り囲む。
 頼重の身体は汗ばみ、震えている。
 彼は遂に食い縛った。それは覚悟を決め、死に切れなかった男の、決死の形相。


 「急ぎ駆けつけてみれば、何じゃこの有様は……っ!」

 俺の肩を掴んだのは、上原城へ向かった筈の板垣信方。
 振り向き様に見えた板垣の表情は、《怒り》という言葉が相応しい、典型的な表情であった。俺に矛先の向いた怒りだと、直ぐに理解出来た。
 板垣は俺を強く押しのけ、頼重の側に片膝をつく。

 「頼重様、我が殿より文を預かって参りました」
 「……文?」

 板垣が差し出した封筒には、頼重の名が掛かれている。
 頼重は受け取り、静かに封を開け、一語一句丁寧に読み始める。


 頼重殿
 此度の戦、儂は終始苦しい思いをしていた。
 何故ならば、其方を信用していたからだ。
 諏訪家とは、我が父の代から代々世話になってきた。
 故に、其方と戦いたくは無かった。
 儂は其方の行いを、赦すつもりは無い。
 しかし、儂は其方に命を捨てて欲しくは無いと思っている。
 其方は強い、此の兵力の差で、儂を一度出し抜いた。
 其方は武士の誉れだと此処で死ぬ気なのであろうが、
 そう易々と死ぬでない。其方には、心強き家臣が居るではないか。
 儂と其方ならば、天下を見るのも夢ではない、
 争い、易々と人が死ぬ此の乱世を、変えられるやもしれぬ。
 それでも死ぬ気ならば、儂の元へ来い。
 儂がその間抜け面、叩き斬ってやろうぞ。
 

 「天下……」
 「我が殿は貴方様を信じておられます。
  どうか我が殿の下へ、参られませ」

 長年の仲である故に、分かる。
 それは紛れも無い、武田晴信の筆跡。

 (晴信には、何もかも御見通しだな)
 板垣の言葉に、頼重は微笑む。

 「何処までも、優しい男だ」

 俯いて放ったその声は、少しだけ震えていた。



 俺は呆然と、その光景を見ていた。
 何が起こっているのか、俺には分からない。
 ただ、〈異物〉の行為が、頼重かれの心情に
 小さな変化を与えていたことは、何と無しに理解出来た。


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...