武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る

こまめ

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第1章 策士、俺 (1543年 4月〜)

番外編EX1 端午合戦、三番勝負

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 「晴幸様、今日が何の日か、お分かりですか?」
 突然、若殿の口から発された台詞。
 はて、何か約束でもしていただろうか?
 俺は茶を飲みながら考えるが、何も思いつかない。
 若殿はそんな俺の様子に耐えかねたのか、大きな溜息を吐く。

 「もう、今日は端午の節句にございますよ!」
 端午の節句?ああ、所謂いわゆる〈こどもの日〉というやつか。
 そう言えば、もうそんな時期なんだな。


 毎年五月五日は、端午の節句。
 各々の屋敷に、鎧や兜、刀などを飾り、男子の成長を祈願するための祭りである。
 しかし、それが如何したのだろうか。我々はもう大人で、端午の節句とは無関係な筈だが。

 「さ、そうと決まれば外に出ましょう!」
 「お、おい、若殿!?」
 俺は訳も分からぬまま若殿に引っ張られる。
 連れてこられたのは、普段着物を洗う為に赴く近所の河原。

 「若殿、何を企んでおる?」
 若殿は振り返り、にっと笑顔を見せる。
 「私は一度、男子おのこの遊びとやらを、してみとうございました」
 「男子の遊び、だと?何だそれは、儂はしたことが無いが」
 「……晴幸殿、まさか女子だったのですか?」
 「何故そうなる、そんな訳がなかろう……」
 
 仕方ないと、若殿は砂利石と草を拾い、俺の顔に突き出した。
 「〈菖蒲しょうぶ打ち〉と〈印地いんじ打ち〉、二つから選んでください」
 どちらも聞き慣れない単語だ。どちらでも良かった俺は、〈印地打ち〉を選ぶ。

 「印地打ちは、私と晴幸殿が互いに石を投げ合って」
 「菖蒲打ちだ」

 そこはかとない危険を感じた俺は、直ぐ様〈菖蒲打ち〉に切り替える。
 其れを聞いた若殿は石を捨て、草を持った。

 「菖蒲打ちは、菖蒲の葉を編んだものを地に打ち付け、音の大きさで勝ち負けを決めます」
 成程、それなら危険はなさそうだな。俺は承諾する。
 早速俺達は菖蒲の葉を集め、若殿の教え通りに編み始めた。



 〈三回勝負で、先に二勝した方が勝ち〉

 「では、私から」
 一回戦の先攻は若殿。
 彼女は腕を振り上げ、葉を地に打ち付けた。
 パァン
 俺は驚く。思いのほか、大きな音が出るものだ。
 
 後攻は俺だ。
 自ら編んだ草を握り、思い切り地に振り下ろした。

 パァァァン
 
 「此度は、儂の勝ちだな」
 俺の傍らで、若殿は頰を膨らませる。
 


 二回戦、先行は俺。
 先程の様に、俺は腕を思い切り振った。
 パァァァン
 よし、中々の音だ。

 後攻、若殿の番。
 此処で若殿が俺よりも大きな音を出さなければ、負けである。

 「ふっ、まだまだですね、晴幸殿」
 「……?」
 俺は目を細める。
 何だ、この余裕綽々よゆうしゃくしゃくな態度は

 若殿は俺を横目に、腕を思い切り振り下ろした。


 パアアアアアアアン


 「!?」
 俺は其の音に、思わず口を開く。

 「ふっふっふ、先程は晴幸様の力を見る為に、わざと音を減らしていたのです」
 誇らしげな表情を浮かべる若殿の傍らで、俺は顔をしかめる。

 絶対練習してたな。くっ、策士め。




 三回戦(最終戦)、先行は若殿。
 彼女は先程と同じ位の音を鳴らす。
 「さあ、晴幸様の番ですよ」

 何故だろう、若殿が恐ろしく見える。
 直ぐさま俺は考える。如何すれば音が出せるのか。
 恐らく男女の差は関係ない。ならば振り下ろす速度は殆ど意味を為さない。
 ならば、他の要因が……


 「おーいおまえ!おなごに負けるのかぁ!?」
 「うっ、うるさいわ!あっち行っておれ!!」
 気付けば、子供たちが輪を作り、俺達を囲んでいた。


 こんのガキ共……おっといけない、俺の冷静クール人柄キャラが崩壊してしまう。
 少しばかり気が散るが、俺はぐっと葉を握る。
 落ち着け、如何してこんなにも音が違う?何かこつがあるのか?
 俺は若殿の投げ方を脳裏で再生する。

 もしかしたら、地面に投げようとするだけじゃ、駄目なのではないか。
 俺は目を見開いた。
 
 俺は右腕をゆっくりと振り上げる。
 そうか、地に向けて思い切り投げるだけじゃ駄目なんだ。
 大事なのは、〈自然に、地に落とすように投げること〉。

 俺は右腕に全神経を集中させ、思い切り振り下ろした。



 パアアアアアアアン



 周囲に静寂が広がる。其処には、俺の鳴らした音だけが木霊していた。
 「どっちだ?」徐々に子供たちは言葉を交わし始める。
 しかし、判断できる者は誰一人として居なかった。

 子供たちによれば、両者の音は、ほぼ同じという判断。
 よって、三回戦は引き分け。
 つまり、一勝一敗一引分けとなり、両者引き分けに終わった。





 「はあ、誠に楽しゅうございました」
 宿への帰り道、若殿は背伸びをする。
 結局勝敗は決まらなかったが、楽しかったのなら何よりだ。
 「次の年は、負けませんよ」
 其れを聞いて、またやるつもりなのかと、俺は苦笑する。
 まあ良いか、たまにはこういうのも。
 

 夕陽が沈む。気づけば柄にもなく熱中してしまったな。
 其の時、ふと遠くから子供の声を聞いた。
 俺は不意に立ち止まり、其の方を向く。

 「印地打ち……か」

 俺は微笑む。



 全く、誰があんな危ない遊びを考えたのだろうか。
 



 完
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