旅路の果てに

街名嘉倭国

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第2話 魔法の先生

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 特にやることは変わらず日々を楽しく過ごしていると兄さんに家庭教師が付いた。子供は大体7歳になると教育が始まるとのことだった。幼過ぎると理解できず、丁度よいのが7歳前後らしい。そんな慣習のせいで遊び相手が奪われてこっちはいい気分はしなかった。何だかんだと言って小言を言われないと毎日がとても静かで退屈だった。それらか母様に直談判をすると頭を悩ましながら魔法の授業だったらきっと文字が書けなくても算術ができなくても受けられるだろうと魔法の授業だけ兄さんと一緒に受けることになった。魔法の授業は先生が少ないらしくてやっと目途が立ったとかで何日か後に丁度先生が家までやって来る予定があったらしい。それを聞いて兄さんばっかりなんか大人のみんなと楽しそうにやっていたからうらやましくてうざかったから僕も授業を受けられると楽しみに待っているとその人はやって来た。その人は満月の次の日、週に一回訪れる人で、集落では見ないほどの老人だ。その老人はサム=アルトン・リーン・ヴィルマとかいう大層な名前の人でどこか偉そうなところはあまり好きになれない爺だった。父様が奉公してる貴族のバール様にお願いして家まで通いで来てもらうことになっている凄い人らしい(父様よりは多分凄くはない)。その人は始めて家にやって来たときから気だるい態度を隠しもしない嫌な奴だった。僕らが待っている部屋の扉を乱暴に開けるとすぐに嫌みを言ってきた。

「なんだこんな辺鄙な田舎に来て私が教えるのがこんな貧相な子供なのか……エルドから半日もかかるのに……こんな時間をかけて片田舎まで来させるのだからお前らはさぞかし才能のある子供らなのであろうな。」

 第一印象は最悪だ。なんだこの爺。凄い偉そうで僕の住んでいる場所を辺鄙だの田舎だのむかつく言い方をするやつだ。そう思って兄さんの方向を見ると特に何とも思っていないような無表情で愚痴を挟めずに授業は進んでいった。
 
「まずは……カイルと言ったか。手を出せ。」
「はっはい……」

 爺はカイル兄さんの手を取ると眼を瞑り、暫く黙った。それから溜め息混じりに首を振った。

「はぁ……平凡だな。実に平凡だ。英雄と他国の高貴な娘の息子だというから期待をしていたのに……はぁぁぁ……まあ良い。そこの坊主……歳はいくつだ。随分と若く見えるが、まだ字も読めぬのではないか……まぁ良い。ついでだお前も手を出せ。」
「えぇっと……」
「はよせんか小僧。はよせんとこんな寂れた村で一泊しなくちゃならん。まったく未熟な者はわしの話をうんうんと聞いていればいいんだ。わしのときもそうやって~」
 
 そういって強引に僕の手を握った。それから早く帰りたいと言いながら長話を始めてひとしきり話し終えると目を瞑り、しばらく沈黙をしていた。僕は爺さんの手は年寄りなのに集落の人たちみたいにごつごつで硬くい手と違って柔らかくて驚いた。この人はきっと畑を耕すために鍬を持ったことがないのかな……そんなどうでもいいことを考えていると目の前の爺が大声で驚いていた。

「光が……光が二つ見える……お主、どういうことだ……そ、それに今まで見たことのないほどに強い光が見える。」

 しばらく驚いた後に、爺は僕の脇の下を持ち、抱き上げるとさっきまでの傲慢な態度から一変して「この子は天才だ。稀に見るほどの魔力量を持った天才だ。ここに来るだけの価値があった。」そういうとしばらく地面に降ろしてくれなかった。あれから人が変わったように活き活きとして教えてくれるようになった。
 
「魔法は誰にでも使えるわけではない。大昔は奴隷から魔法を用いて国を建国した話もあったが、今では魔力持ちは専ら貴族や出自の良い者からしか産まれてこない。だから術士への言葉遣いは気を付けたまえよ。特にそこの小さな小僧。」
「うるさいなぁ……ちゃんとしてるもん。」
「言ったそばからお前はそうやって……本当は分かっちゃおらんのだろ。お前そんなんじゃこの先、苦労するぞ。それこそ~」

 サム爺の授業は話が長い上にマナーとか話し方とか関係ない話ばっかりで脱線しがちだ。主に僕のせいで……それはそれとして魔法の授業といってもとても地味で退屈なものだった。最初は魔法の歴史を教えてくれた。それからはひたすら実践、実践、実践だと目を瞑らせて体の内側に意識を向けろといって同じことをずっとさせる。

「いいか。魔力を感じるんだ。魔力はな、本来は誰の中にも流れているんだがそれを意識して使える人はごく限られている。体系化されたものでもない。だから私のような術士に教えを乞う形、徒弟制が蔓延しているのだ。伝えようにも感覚的だから継承が難しい。だがお前らは親から治癒魔法を受けていると聞いているから後は意識できれば使えるはずだ。親がお前らにしてくれた光の……魔力の波動を感じるんだ~」

 週で一回しか来ないのに貴重な授業時間の間、同じことをずっとさせる。こんなんで母様のやっていたような魔法が使えるようになるわけないじゃんと思っているとその内、兄さんは魔法を使えるようになった。その度にずるいずるいと騒ぎ立てて、「集中しんか」とサム爺に頭を叩かれた。けど、僕は目を瞑るとどこからか眠気がやってきていつしか眠ってしまう。その度に頭を思いきり叩いてくるこの爺には怒りが湧いてくる。魔法の練習?だって難しいんだもん。わけわかんないものを感じろってどうやってやんの意味わからん。そうこうしている間にも授業は進んでいった。飽くまで授業は兄さんのためのだから兄さんのペースで進んでいって今では魔力を飛ばして遠く離れたモノに当てる練習をしている。

「いいかカイルよ。魔力というものはとても不安定で体から離れればすぐに扱えなくなる。だから剣士は身に纏うのだが、戦場では長距離で攻撃できるというのはとても大きな意味を持つ。だから現代の術士は遠距離攻撃をするために効率の良い~」

 カイル兄さんはとても優秀らしい。才能は平凡でも要領がいいとかいって、あの嫌味なサム爺でも褒めるくらいには凄いらしい。最近では僕らへの入れ込みがすごくて領主様、貴族様のバール様の直轄地の都市エルドにも弟子が居るらしいのにほったらかしでこの家に居座るようになった。今まで以上に長話をするようになったし、授業を何回も繰り返すうちに帰りが遅くなると家に泊まり込むようになった。居座りすぎてたまに次の日の授業の支障になることもあった。それに当然のように寝床と御飯を要求するうえに愚痴をいうところにはなんて図々しいやつなんだ腹が立つ。でもそうやって家に居座ろうとするのは僕に魔術を教えたい一心らしい。「もったない、せっかく才能があるのに」と繰り返し耳にタコができる程に同じことを言ってくる。本当に大っっっっっ嫌いだ。
 兄さんはどんどんと先に行くのに僕は未だ魔力を感じられていないからあの瞑想をしている。兄さんと比べて僕の魔力の制御が苦手なのは人の魂が2つあることが原因らしい。魂は魔力の源らしくてだから潜在的な才能はこれまで見た人の中で一番だと、それだけにもったいないと爺は永遠と言ってきて、兄さんも魔力の扱いが下手なんだから練習しろと言ってくる。苦手……というか出来ないことをやれと言われるのはとてもイライラする。それに魔法の練習は地味だ。眼を瞑り、精神を統一し、意識を身体の内部向けると次第に体の中の魔力の流れが見えるようになるらしい。そんな練習してられるかと不貞腐れて家の近くの森に入っていった。最近、墾田しようと木を切り倒していて段々と小さくなっている。森って一人だと怖いけど今この森にはどこかに人が居る。そう思うとあんまり恐怖は湧かなかった。
 ここは僕の秘密基地だ。よく虫を捕えては千切って投げを繰り返していた。いつものように森を散策していると木の上に鳥の巣を見つけた。どんな鳥が居るのかなと意気揚々に木を登り始めた。上まで辿り着くと、その巣の中に卵が6つあった。4つは白い卵だったが、黒い斑点の入った卵が2つ入っていた。
 
「なんだこの卵。変なの大きさも違うや。持って帰ろう。」
 
 色の違う卵に手を伸ばした。そのとき、足を滑らせて腰から勢いよく地面に着地した。

「いっっっっっっっでええええええええええ」

 頭も思いきりぶつけて頭と腰を中心として体の中に鈍痛が広がっていく。やがて息がしづらくなった。落ち着くために眼を瞑り、痛みのある腰に意識を向けた。体にジンジンと痛みが腰から広がっていく。痛いな痛いなと感じていたとき、体の中を赤い光が走っている……ような気がした。口にするのが難しいけど、何の確証もないけどこの光が魔力なんだと思った。

「こっ……れがま……りょ……く……」

 嬉しさを動きで表現したかったが、あまり体が動かない。けれど腕は上がった。今なら……今なら魔力弾を出せるかも。そう思って体に走るこの光を指に集め、放った。それは3センチ程飛んでいき、霧散した。体の中では赤色のイメージだったけど実際に飛んでいったのは無色透明な何かだった。不思議だなと思うよりも先に喜びが勝った。

「出来た出来た出来た出来た出来た出来た。」

 これで文句は言わせないぞと思い、調子に乗って限界まで打ち続けると意識を失った。眼を醒ますとカイル兄さんが僕をおんぶしながら嫌味を言ってきた。

「お前どこに行ってくるぐらい言ってから行けよな。探すの大変だったんだからな。特に今日はサム=アルトンさんが居るんだから~」

 あーまた始まったと思ったけど、声色が真剣だったから言い返すことも魔法が使えたことも言えなかった。これからは少し自重しよう。
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