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#4 何色にもなれなくて
4-2 何色にもなれなくて
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煌びやかなシャンデリアの下で、一瞬閃いたアメジスト。
視界に捉えたのは偶然だったが、持ち主の姿を見て紫音の目は釘付けになった。
長身に纏った気品溢れるスーツ。ワイングラスを扱う優雅な所作。白い歯を覗かせた知的な微笑。
そして、タイピンに嵌め込まれた紫水晶の輝きに、紫音は微かな眩暈すら覚えた。
会場の中で――否、この都会で出会った男達の誰よりも、紫の似合う男だった。
エレガントでありながら、成熟した色香を持ち合わせている。
シャンパンに濡れてさえ、妖艶さに磨きがかかったように感じられた。
その色に対して、大衆が抱くイメージを切り取ったような。
彼こそ、そうなりたいと紫音が願い続けていた偶像そのままだった。共に活動する才能豊かなメンバーの中で、個性を際立たせるために、あるべき姿と信じてやまなかった。
スマートで洗練され、仕事で結果を出す成功者。
そんな理想とかけ離れた現実に疲れ、未だに慣れない給仕に打ちのめされていた夜。彼との出会いは、まさに運命のように感じられた。どれほど使い古された言葉でも、それ以外に考えられなかった。
そして、厳格のように見えた彼は、予想以上に優しい人間だった。
弁償沙汰になりかねなかったミスを咎めることもなく、酒とデザートまでご馳走してくれたのだ。積年の悩みに耳を傾け、同情を示し、雄弁な助言さえ与えてくれた。そして、あろうことか実演まで時間を割く度量の大きさまで兼ね備えていた。
彼がベッドの中でも紳士だったのは言うまでもない。
純潔を貫いてきた青年にとって、何もかもが期待を上回る体験だった。
性の目覚めは5歳と早く、夜に忍び込んだ牛舎で牛たちの営みを目撃してからだった。血相を変えて駆けつけた姉が弟の両目を覆い、事なきを得たのだが。家族の手厚い保護により、そうしたものとは縁遠く過ごしながらも、好奇心だけは人一倍強く育まれた。自分もいつの日か、ああした情熱的な密事に溺れてみたいと。
口づけは何度も思い描いていたよりも柔らかく、蕩けるように甘美だった。
舌先や指での愛撫も火傷しそうに熱く、今でも体が覚えているよう。
彼の『象徴』は雄々しく猛り、自分の物とは比べられないほどの巨塔に息を呑んだ。これまで見たどれよりも、そして幼少期に牛舎で邂逅したモノよりも逞しかった。その剛直で何度も穿たれるうちに、腹の奥まで雄の分身で満たされ、一つになった錯覚に陥ったのだ。
濃厚で官能的な交わりは、淫らな夢想をはるかに凌駕するものだった。
まだ電車の中にもかかわらず、紫音は思わず身悶えしてしまう。
記憶の片鱗を思い出すだけでも、顔から火が出てそうだった。車内がガラガラなのだけが救いだ。到着間際のアナウンスでようやく現実に引き戻される。
乗り換え三度目で、ようやく目的の駅まで辿り着くことができた。
日曜にもかかわらず、駅前のロータリーにも人はまばらだ。海沿いの辺境の街で、脱色したピンクヘアはすぐに目についた。早足で向かうと、手を大きく振ってくれる。
「急がないでいいよ!早く着いちゃっただけなの」
視界に捉えたのは偶然だったが、持ち主の姿を見て紫音の目は釘付けになった。
長身に纏った気品溢れるスーツ。ワイングラスを扱う優雅な所作。白い歯を覗かせた知的な微笑。
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会場の中で――否、この都会で出会った男達の誰よりも、紫の似合う男だった。
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シャンパンに濡れてさえ、妖艶さに磨きがかかったように感じられた。
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彼こそ、そうなりたいと紫音が願い続けていた偶像そのままだった。共に活動する才能豊かなメンバーの中で、個性を際立たせるために、あるべき姿と信じてやまなかった。
スマートで洗練され、仕事で結果を出す成功者。
そんな理想とかけ離れた現実に疲れ、未だに慣れない給仕に打ちのめされていた夜。彼との出会いは、まさに運命のように感じられた。どれほど使い古された言葉でも、それ以外に考えられなかった。
そして、厳格のように見えた彼は、予想以上に優しい人間だった。
弁償沙汰になりかねなかったミスを咎めることもなく、酒とデザートまでご馳走してくれたのだ。積年の悩みに耳を傾け、同情を示し、雄弁な助言さえ与えてくれた。そして、あろうことか実演まで時間を割く度量の大きさまで兼ね備えていた。
彼がベッドの中でも紳士だったのは言うまでもない。
純潔を貫いてきた青年にとって、何もかもが期待を上回る体験だった。
性の目覚めは5歳と早く、夜に忍び込んだ牛舎で牛たちの営みを目撃してからだった。血相を変えて駆けつけた姉が弟の両目を覆い、事なきを得たのだが。家族の手厚い保護により、そうしたものとは縁遠く過ごしながらも、好奇心だけは人一倍強く育まれた。自分もいつの日か、ああした情熱的な密事に溺れてみたいと。
口づけは何度も思い描いていたよりも柔らかく、蕩けるように甘美だった。
舌先や指での愛撫も火傷しそうに熱く、今でも体が覚えているよう。
彼の『象徴』は雄々しく猛り、自分の物とは比べられないほどの巨塔に息を呑んだ。これまで見たどれよりも、そして幼少期に牛舎で邂逅したモノよりも逞しかった。その剛直で何度も穿たれるうちに、腹の奥まで雄の分身で満たされ、一つになった錯覚に陥ったのだ。
濃厚で官能的な交わりは、淫らな夢想をはるかに凌駕するものだった。
まだ電車の中にもかかわらず、紫音は思わず身悶えしてしまう。
記憶の片鱗を思い出すだけでも、顔から火が出てそうだった。車内がガラガラなのだけが救いだ。到着間際のアナウンスでようやく現実に引き戻される。
乗り換え三度目で、ようやく目的の駅まで辿り着くことができた。
日曜にもかかわらず、駅前のロータリーにも人はまばらだ。海沿いの辺境の街で、脱色したピンクヘアはすぐに目についた。早足で向かうと、手を大きく振ってくれる。
「急がないでいいよ!早く着いちゃっただけなの」
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