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#番外編 バニーボーイの受難
00-6 バニーボーイの受難
しおりを挟むようやく煩わしい喧噪から逃れ、直通エレベーターで地下の駐車場へと降り立った。
今夜のパーティーに関しては、会場を聞いた時から期待を抱いていなかったし、酒を飲むつもりもなかった。だが、これほど愛らしい『お土産』がついてきたのは想定外だ。
同伴者の二人はそれぞれの使命に奔走している。暗黙の紳士協定の下、解散の合図すら必要ない。
堂々たる英国車の扉を開け、直矢は助手席にその贈り物を横たえた。
童貞男子たちの手によって、すでにラッピングは解かれてしまったが、かろうじてリボンが巻かれている。直矢は今すぐ最後の一本を掠め取りたい気分に駆られた。
禁断の芳香が漂う官能的な衣装は、外道社長の唯一褒められる手柄かもしれなかった。柔肌に吸いつく艶めかしいパテントレザー。控えめな恥丘を浅く覆い隠すクロッチ。ドアを閉めると、密かな静寂の中で妖麗さが鮮やかに際立った。
「直矢さん……スーツが皺になっちゃいます……」
紫音は肩に掛けられていたジャケットを畳み、おずおずと差し出した。
申し訳無さそうな彼の表情に、直矢は我に返った。あちこち弄られた恐怖で怯えていたはずなのに、奴らと同じ獣に成り下がってどうする?
直矢は助手席の足元へと身を屈め、心許ない踝をそっと掴んだ。
「っ……」
ヒールを脱がせば、フロアを歩き回ったせいか、爪先は痛々しく赤らんでいる。
養う立場の主人として、直矢は同時に不甲斐なさに襲われた。
「どうしてあんなバイトにまで手を出した?」
セダンの広い車内に溜息が虚しく響く。
偶然会場に居合わせなければ、組織犯罪に巻き込まれ、東南アジアの僻地に売り飛ばされていただろう。完全な監督不行き届きだ。
「金が必要なら、相談してくれれば俺が――……」
「ち、違います……!そうじゃないんです!」
すぐさま否定した紫音は、付け耳が外れそうなほど頭を振った。今夜の満月のように丸い瞳は、懺悔で揺れていた。
「どうしても、自分で稼いだお金で買いたい物があったんです。でも……やっぱり無謀な行動でした」
そう語る表情はどこか悲しげだったが、やがて曇りのない微笑に変わった。
「今回は身の丈に合わないことをして、罰が当たったんです。本業でもっと稼げるようになったら、その時に買うことにしました」
まっさらな決意は、サンチョ湾のビーチのように澄み渡っている。
水面を煌めかせる太陽のように、夢と希望で満ち溢れていた。清らかな願いが、悪しき勢力に阻まれて良いわけがない。こんな所でつまずいている場合ではないのだ。紫音も、直矢自身も。
「……そうか、偉かったな。その決心を応援しよう」
直矢は手を伸ばすと、うさ耳のカチューシャごと頭を撫でた。
遠慮がちに甘える様子は何ともいじらしい。このままシートを倒して存分に可愛がりたくなってしまう。
「家に帰ろうか。その前に……風邪を引くといけないから」
咳払いを一つ落とし、直矢は乱れていた制服を直していく。
だが、背中のファスナーを上げた時に気付いてしまったのだ。ふさふさの尻尾の下で、悩ましい谷間に挟まる栄一の存在に。
――こんな所にまで栄一が!?
直矢は驚愕に慄き、そして厚顔無恥なしぶとさに嫉妬を覚えた。
折り畳まれてもなお存在感を誇示する資本主義の父、そして尊き保護区域に募金を挟み込んだ男の手に。
「あの、直矢さん……?アッ!?」
沈黙を不審に思った紫音が身を捩ると、小さな悲鳴が上がった。
一時は生命の危険が迫ったせいで、直矢の肉体に非常時の異変が起こっていた。ウサギの発情を鎮めるどころか、かぐわしい色香に当てられてしまったのだ。下半身はすでにアクセル全開だ。
「何でもない。運転していればすぐに収まるさ」
嫉妬を性衝動と取り違えてしまうとは。
今夜はつくづくハプニングに見舞われる星回りだ。直矢は平静を装って、ジャケットのポケットからキーを取り出した。
「いけません、直矢さん……!このまま運転すると危険です!」
血相を変えた紫音は身を乗り出し、タッチパネルを器用に操作していく。
そうこうするうちに運転手のシートが倒れ、直矢の視界は緩やかに沈んでいった。
「おい?紫音、一体何を――……!?」
「お札を挟めるぐらいですから……ここは僕に任せてくださいね」
バニーボーイは羞恥を見せながらも、大胆不敵に主人の体の上に跨った。
そして、目を伏せたままハイレグをずらすと、張りのある双丘が外気に晒される。眼福を誘う絶景を前に、直矢は息を呑んだ。
「う、嬉しかったです……危なかった所を、また助けて下さって……」
拙い手付きでベルトを引き抜き、ふしだらな柔肉で熱い肉棒を包み込む。
それは、脳内が一気に真っ白に塗り替えられる快感だった。じかに触れるのとはまた違う、魅惑の感覚。まるで、熱で溶けてしまうマシュマロだ。
「んっ……!どこで何をしていても……僕たちは巡り合う運命なんですね……っ」
紫音は奉仕を続けようと、少しずつ腰を揺さぶり始めた。
一段と硬さを増した巨塔に、恍惚としているようだ。そんな媚態を眺めるだけで、主人は昇天してしまいそうになる。
「ああ、本当に……そのようだな――ッ!」
健気な一言が堪らず、直矢は下から突き上げるようにグラインドさせた。
細い腰を掴み、徐々に主導権を取り戻していく。すると、ハイレグから零れ落ちたベビーキャロットも変化を見せ始めた。
「あっ……!今夜の直矢さん、すごく素敵で……興奮しちゃいますぅっ!」
「君の方こそ……っ!こんなにスケベなウサギだったとはな!」
零れ落ちたのは、人参だけではない。
淫らな上下運動で胸元が捲れ、尖りまでもが飛び出した。無意識のうちに直矢が吸いつくと、うさ耳が切なげに揺れた。
「はあっ!あっ、あ……ああ――ッ///」
「クッ……!紫音……っ……!」
やはり、こんな姿は自分の目の前だけでいい。
可憐な衣装で乱れる姿も、胸の中で縋りついてくる姿も。他の男たちの前で宣言したように、このウサギは自分だけの所有物だ。
これほど淫らな生き物は、世界中のどこを探しても生息を確認できないだろう。
直矢は欲望の塊を谷底へと深く穿つ。
退屈なパーティーを抜け出して肉体を貪り合う、背徳はさながら蜜の味がする。駐車場の一角で高級車が激しく軋む中、二人は絶頂へ導かれた。
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