底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

文字の大きさ
65 / 139
#番外編 バニーボーイの受難

00-6 バニーボーイの受難

しおりを挟む

ようやく煩わしい喧噪から逃れ、直通エレベーターで地下の駐車場へと降り立った。
今夜のパーティーに関しては、会場を聞いた時から期待を抱いていなかったし、酒を飲むつもりもなかった。だが、これほど愛らしい『お土産』がついてきたのは想定外だ。

同伴者の二人はそれぞれの使命に奔走している。暗黙の紳士協定の下、解散の合図すら必要ない。
堂々たる英国車の扉を開け、直矢は助手席にその贈り物を横たえた。
童貞男子たちの手によって、すでにラッピングは解かれてしまったが、かろうじてリボンが巻かれている。直矢は今すぐ最後の一本を掠め取りたい気分に駆られた。
禁断の芳香が漂う官能的な衣装は、外道社長の唯一褒められる手柄かもしれなかった。柔肌に吸いつく艶めかしいパテントレザー。控えめな恥丘を浅く覆い隠すクロッチ。ドアを閉めると、密かな静寂の中で妖麗さが鮮やかに際立った。

「直矢さん……スーツが皺になっちゃいます……」

紫音は肩に掛けられていたジャケットを畳み、おずおずと差し出した。
申し訳無さそうな彼の表情に、直矢は我に返った。あちこち弄られた恐怖で怯えていたはずなのに、奴らと同じ獣に成り下がってどうする?
直矢は助手席の足元へと身を屈め、心許ない踝をそっと掴んだ。

「っ……」

ヒールを脱がせば、フロアを歩き回ったせいか、爪先は痛々しく赤らんでいる。
養う立場の主人として、直矢は同時に不甲斐なさに襲われた。

「どうしてあんなバイトにまで手を出した?」

セダンの広い車内に溜息が虚しく響く。
偶然会場に居合わせなければ、組織犯罪に巻き込まれ、東南アジアの僻地に売り飛ばされていただろう。完全な監督不行き届きだ。

「金が必要なら、相談してくれれば俺が――……」
「ち、違います……!そうじゃないんです!」

すぐさま否定した紫音は、付け耳が外れそうなほど頭を振った。今夜の満月のように丸い瞳は、懺悔で揺れていた。

「どうしても、自分で稼いだお金で買いたい物があったんです。でも……やっぱり無謀な行動でした」

そう語る表情はどこか悲しげだったが、やがて曇りのない微笑に変わった。

「今回は身の丈に合わないことをして、罰が当たったんです。本業でもっと稼げるようになったら、その時に買うことにしました」

まっさらな決意は、サンチョ湾のビーチのように澄み渡っている。
水面を煌めかせる太陽のように、夢と希望で満ち溢れていた。清らかな願いが、悪しき勢力に阻まれて良いわけがない。こんな所でつまずいている場合ではないのだ。紫音も、直矢自身も。

「……そうか、偉かったな。その決心を応援しよう」

直矢は手を伸ばすと、うさ耳のカチューシャごと頭を撫でた。
遠慮がちに甘える様子は何ともいじらしい。このままシートを倒して存分に可愛がりたくなってしまう。

「家に帰ろうか。その前に……風邪を引くといけないから」

咳払いを一つ落とし、直矢は乱れていた制服を直していく。
だが、背中のファスナーを上げた時に気付いてしまったのだ。ふさふさの尻尾の下で、悩ましい谷間に挟まる栄一一万円札の存在に。

――こんな所にまで栄一が!?
直矢は驚愕に慄き、そして厚顔無恥なしぶとさに嫉妬を覚えた。
折り畳まれてもなお存在感を誇示する資本主義の父、そして尊き保護区域に募金を挟み込んだ男の手に。

「あの、直矢さん……?アッ!?」

沈黙を不審に思った紫音が身を捩ると、小さな悲鳴が上がった。
一時は生命の危険が迫ったせいで、直矢の肉体に非常時の異変が起こっていた。ウサギの発情を鎮めるどころか、かぐわしい色香に当てられてしまったのだ。下半身はすでにアクセル全開だ。

「何でもない。運転していればすぐに収まるさ」

嫉妬を性衝動と取り違えてしまうとは。
今夜はつくづくハプニングに見舞われる星回りだ。直矢は平静を装って、ジャケットのポケットからキーを取り出した。

「いけません、直矢さん……!このまま運転すると危険です!」

血相を変えた紫音は身を乗り出し、タッチパネルを器用に操作していく。
そうこうするうちに運転手のシートが倒れ、直矢の視界は緩やかに沈んでいった。

「おい?紫音、一体何を――……!?」
「お札を挟めるぐらいですから……ここは僕に任せてくださいね」

バニーボーイは羞恥を見せながらも、大胆不敵に主人の体の上に跨った。
そして、目を伏せたままハイレグをずらすと、張りのある双丘が外気に晒される。眼福を誘う絶景を前に、直矢は息を呑んだ。

「う、嬉しかったです……危なかった所を、また助けて下さって……」

拙い手付きでベルトを引き抜き、ふしだらな柔肉で熱い肉棒を包み込む。
それは、脳内が一気に真っ白に塗り替えられる快感だった。じかに触れるのとはまた違う、魅惑の感覚。まるで、熱で溶けてしまうマシュマロだ。

「んっ……!どこで何をしていても……僕たちは巡り合う運命なんですね……っ」

紫音は奉仕を続けようと、少しずつ腰を揺さぶり始めた。
一段と硬さを増した巨塔に、恍惚としているようだ。そんな媚態を眺めるだけで、主人は昇天してしまいそうになる。

「ああ、本当に……そのようだな――ッ!」

健気な一言が堪らず、直矢は下から突き上げるようにグラインドさせた。
細い腰を掴み、徐々に主導権を取り戻していく。すると、ハイレグから零れ落ちたベビーキャロットも変化を見せ始めた。

「あっ……!今夜の直矢さん、すごく素敵で……興奮しちゃいますぅっ!」
「君の方こそ……っ!こんなにスケベなウサギだったとはな!」

零れ落ちたのは、人参だけではない。
淫らな上下運動で胸元が捲れ、尖りまでもが飛び出した。無意識のうちに直矢が吸いつくと、うさ耳が切なげに揺れた。

「はあっ!あっ、あ……ああ――ッ///」
「クッ……!紫音……っ……!」

やはり、こんな姿は自分の目の前だけでいい。
可憐な衣装で乱れる姿も、胸の中で縋りついてくる姿も。他の男たちの前で宣言したように、このウサギは自分だけの所有物だ。
これほど淫らな生き物は、世界中のどこを探しても生息を確認できないだろう。

直矢は欲望の塊を谷底へと深く穿つ。
退屈なパーティーを抜け出して肉体を貪り合う、背徳はさながら蜜の味がする。駐車場の一角で高級車が激しく軋む中、二人は絶頂へ導かれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...