小指は契約の香り-秘密の二人編-

弥都 史誠(ヤツ フミタカ)

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第七章

『熱』#1

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「何かよ~、最近の坊ちゃん、やたらと機嫌が良いんだよな~」
 生徒会長の席に座り、レイモンドはデスクに足を乗せて、生徒会委員のアマンシアに話しかける。
 アマンシア・ミレフォーリア。
 中等部二年生の時に生徒会役員になり、ロイスとはその時からの付き合いである。
 高等部に進学して早々に役員となった実力派だ。
 中等部の頃から「坊ちゃんの警護だ」と言って、生徒会室に入り浸るレイモンドを内心、鬱陶しく思っている。が、周りからは「まるで夫婦漫才《めおとまんざい》」と揶揄されるほど、息が合ったやり取りをしている。
 本人にそれを言うと不機嫌な顔をするが、この迷惑者が生徒会室に現れても、追い出さないところをみると、満更でもないのかもしれない。
 とは言え、初対面の頃からレイモンドに接する態度は冷たいままだ。
「あー、そうですか」
 パソコンで次の生徒会会議のアジェンダを作っている茶髪碧眼の女性後輩は、今日もレイモンドの話に気の無い返事をする。
 しかし彼の方も慣れたもので、今ではその塩対応などお構い無しに勝手に話を続けている。
「特に水曜日と金曜日だな。何かあるな、こりゃ」
 この日は地理の授業がある日だ。
「ここでは普段通りですよ。…って! レイ先輩、生徒会関係無いじゃないですか‼︎ 今年も入り浸るつもりですかっ⁉︎」
 アマンシアはパソコンを打つ手を止めて、レイモンドを睨み付ける。
「別に良いじゃんよ。減るもんじゃないし。ここは菓子も茶も美味《うま》いんだよ」
「ここはレイ先輩のカフェじゃないですし、そこは会長の席ですよ。足も降ろして‼︎ せめてこちらの席に座って貰えます?」
「へいへい」
 レイモンドは仕方なくアマンシアの向かいの席に移動する。
 アマンシアはフンッと鼻を鳴らす。
「──そー言えばよ~、ベイサイド高の喧嘩バカ二号。あいつにこの前、タイマンはったんだよ~」
「へー、そうですか。…って、え⁉︎ またですか?」
 パソコンのディスプレイの上から、アマンシアが立ち上がり顔を覗かせる。
「そしたら、留年してる真の喧嘩バカ一号が割り込んで来やがってさ、またやられたわ」
「議題に『ベイサイド高をやっつける方法』って項目、付け加えようかしら」
 アマンシアは一人ブツブツと呟く。
「ロドルフが気になってる柔道部のおねーちゃん、あのバカのどこが良いのかね~」
「プププッ。ロドルフ先輩、ベイサイド高に編入したりして」
 指先を口元に当てて、アマンシアは目尻を下げて笑った。
「それは無いな。あいつ、柔道の優待生でウチに編入してるからな。坊ちゃんから護衛を頼まれてるし、おまけに見かけによらず奥手だからな~」
 レイモンドは携帯電話を取り出すと、時間を確認する。
「へー意外! まぁ、あんまり喋らないですもんね~」
 アマンシアは椅子に腰掛け、作業を再開する。
「あんな目立つピアスしてんのにな。それに知ってるか? あのメガネ、外に出るとサングラスになるんだぜ」
「あ~、調光レンズってのですよね~」
「あいつ、目が弱くて太陽が眩しいんだとさ」
「それ。何回も聞きましたぁー」
 アマンシアの気の入ってない返答に、レイモンドはむくれた顔で口をつぐむ。
 すると、生徒会室の扉が開く。
「レイモンド、お前は今年も入り浸るつもりか‼︎」
 レイモンドとアマンシアが声のする方へ向くと、金髪が輝く見目麗しい少年が立っている。
「お、坊ちゃんじゃねえの」
「会長、お疲れ様です」
 アマンシアは立ち上がり、頭を下げ挨拶すると椅子に腰掛ける。
 ロイスはレイモンドの後ろを通り、会長の席へと向かう。
「ここはお前のカフェじゃないぞ」
 それを聞いたアマンシアが、ディスプレイの横から覗いて来て、レイモンドを指差しながら「ほら~」と、口を形作った。
 デスクにスクールバッグを置き、椅子に座ると座面が生暖かい。
「──レイモンド、お前…またここに座ったな?」
 ロイスは我が物顔の部外者を睨みつける。
 アマンシアがまたレイモンドに指差しをして、目尻を下げて指先で口元を隠して笑っている。
「てへっ」
 レイモンドは悪びれもせずに、舌を出して笑う。
 ロイスはすぐに席を立つと、さながらドリンクバーのようにドリンク類が揃っている、お茶菓子置き場へ行く。
 生徒会委員がそれぞれ好みのドリンクやお菓子を持ち寄って来たら、そのうちにこうなってしまった。
 ロイスはガラス製のティーポットを取ると、中に紅茶の茶葉を入れウォーターサーバーから湯を注ぎ入れる。
 それと自分のティーカップを持って席へ戻る。
 椅子にレイモンドが座っていた生温かさは無くなっており、安心して座る。
 ティーポットの中で茶葉が踊り、色が抽出され水色《すいしょく》が茶褐色に変わって行く。ふわりとアールグレイの柑橘系の香りがして来る。
(やっぱり、あの時のシエンの香りに似ているな)
 初めての授業の時の、シエンの香りを思い出す。
 そして、その茶褐色への水色《すいしょく》の変化を見つめていると、シエンが出してくれた異国のお茶を思い出す。
 あのお茶をこのドリンク類に加えるのも良いな、と思い表情を和らげた。
 それを見たアマンシアが、レイモンドに向かって手招きをし、ロイスに聞こえないように、こっそりと囁く。
「レイ先輩。本当に会長、機嫌が良いみたいですね」
「だろ? 明日、休みだからかな」
「それは無いですね。いつでも会長は会長です」
「……。そだな」
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