25 / 52
第七章
『熱』#2
しおりを挟む
二人の会話が聞こえたロイスは、マズいと思い、咳払いをして気を引き締める。
「アマンシア、次の会議の議題はどうなっている?」
「あ、はいっ。次の会議では、新入生のクラブ活動の勧誘発表会についてが主な議題になります。これには生徒会委員の勧誘も入っていますので、発表内容について話し合います」
ロイスはティーポットの紅茶をティーカップに注ぎ入れる。
「判った」
フーフーと息を吹きかけると、一口口に含む。
「──あっつ」
まだ飲める温度にまで冷めていなかった。
「ぎゃはははー! 坊ちゃん、ソレ何回繰り返せば気が済むんだよ⁉︎」
レイモンドは机を叩きながら、腹を抱えて笑う。
「あーー、うるさい‼︎ 部外者は出て行け‼︎」
ロイスはレイモンドに向けて、シッシッと手を振る。
「別に良いじゃんよ。それより坊ちゃん、あの地理教師とどーゆー関係?」
ロイスの手がピタリと止まる。
レイモンドがデスクに片肘を付いて乗り出し、ニヤニヤと意味ありげに笑っていた。
「地理教師って、新任のシエン先生?」
アマンシアがまたディスプレイの向こうから顔を出す。
「──私、担任が地理だったんですよ~。シエン先生の授業受けたかったのにぃ」
ロイスは眉間を寄せて、紅茶を一口飲む。丁度良い温度まで冷めていた。
「──シエン先生って、いつも爽やかなシトラス系の香水の香りがして、良い匂いなのよね~」
(シトラス系の香水?)
紅茶を飲みながら、ロイスの眉がピクリと反応した。
自分は、この紅茶に似た香りと、家に送って貰った時のバニラに似た香りしか知らない。
(──もしかして…あの香りは俺にだけ、か?)
と、ロイスは恥ずかしくなって、デスクに両肘を付いて顔を覆う。
いやいや、考え過ぎだとも思う。
「じゃあ、俺は? 俺も香水付けてるぜ」
レイモンドが自分を指差して、アマンシアに感想を聞く。
「レイ先輩、いつも香水変えてるでしょ。はっきり言って臭いです」
片肘を付いてディスプレイの横から覗かせたアマンシアの顔は、呆れて半目になっていた。
「うっそ‼︎ マジかよ! 流行りのモテ香水だよ? 小遣い叩《はた》いて買ったんだぞ⁉︎」
レイモンドはムキになって、アマンシアに訴える。
「臭いものは臭いんです! レイ先輩、ホンっト流行り物、好きですよね。少しはシエン先生を見習ったらどうです?」
アマンシアは言いたい事を全て言って、作業に戻る。
「かーー‼︎ 大人の道は遠いか~」
レイモンドは椅子の背もたれに体重を掛けると、両手で髪の毛を掻きむしった。
「その点、シエン先生はカッコ良いし、爽やかだし、笑顔は優しいし、話し方も穏やかで、もう大人の男の見本よね~。世の中の男がみんなシエン先生みたいだったら良かったのに」
アマンシアは、ふふっと恋する乙女の顔で笑う。
ロイスはシエンを褒められて、嬉しいのか恥ずかしいのか分からなくなる。が、嫉妬心や対抗意識が湧かないのは、お互いの気持ちが繋がっていることが判った余裕からか。
「シエン先生って言ったらよ。坊ちゃん、あのセンセの前だと、ド緊張してるんだぜ~」
ロイスは突然、自分に話を振られてバッと頭を上げる。
そしてレイモンドの奴、余計なことを、と思い睨みつける。
「うるさい。あいつはうちの執事の息子だ。まぁ…幼馴染みみたいなものだ」
「…へー」
それを聞いたアマンシアが、驚いた顔をしている。
「久し振りに会ったから、驚いただけだ」
本当は恋人未満の関係になったのだが。
「本当にそれだけ?」
レイモンドの目尻が下がっている。
「それだけだ! それ以上も以下も無い‼︎」
ロイスはチラリと右手の小指に目をやる。
もう何処にも行かないと、約束した小指には感触と蜂蜜の香りが残っている。
再来年、自分は大学部に進学し、シエンはここに留まるのだろう。
その二年で、会えなかった時間を埋めて、卒業する頃には、本当の恋人のような関係になっていたい。
シエンは高校卒業まで待つ、と言ってくれた。しかし自分はそんなに待てる性分ではないし、もう嫌と言う程待ったじゃないか。
十八歳の誕生日までに、こちらから交際を持ち込んでやる。
(──シエンと付き合ったら……ん?)
ロイスの思考が一旦止まる。
『あの“オトナのおツキアイ”かっ!』
レイモンドの言葉が蘇る。
(──“おツキアイ”って…こいつ、俺を嵌《は》めやがったな‼︎)
アマンシアとふざけ合っているレイモンドに怒りが込み上がって来たが、シエンとの関係は誰にも言えない秘密なのだ。
車の中で、キスをされるのかと思ったことを思い出す。
(──でも…いつかは…いや、ない‼︎ 絶対、まだ早い‼︎)
頭を振って、思考を振り払う。
(──今はまだ早いけど…恋人になるっていうことは…そういう《・・・・》ことなんだよな…)
一杯目を飲み干した空のティーカップに、二杯目の紅茶を注ぎ入れて、口を付ける。
「──熱っ!」
完全に油断していた。
レイモンドが背を向けて、肩を揺らしている。
アマンシアは笑いを堪えるように、明後日の方を見て、拳を縦にして口元を押さえている。
二人の姿を苦々しく思いながら、ロイスは椅子に深く座り直す。
(──まずは猫舌の克服からだな…)
背もたれに体重を預けると、足を組み、腹の前で腕を組む。
折を見て、シエンのあの紅茶の香りがする香水の名前でも聞いておくか。
そして、来たるシエンとの初デートに思い巡らせて、微笑んだ。
「アマンシア、次の会議の議題はどうなっている?」
「あ、はいっ。次の会議では、新入生のクラブ活動の勧誘発表会についてが主な議題になります。これには生徒会委員の勧誘も入っていますので、発表内容について話し合います」
ロイスはティーポットの紅茶をティーカップに注ぎ入れる。
「判った」
フーフーと息を吹きかけると、一口口に含む。
「──あっつ」
まだ飲める温度にまで冷めていなかった。
「ぎゃはははー! 坊ちゃん、ソレ何回繰り返せば気が済むんだよ⁉︎」
レイモンドは机を叩きながら、腹を抱えて笑う。
「あーー、うるさい‼︎ 部外者は出て行け‼︎」
ロイスはレイモンドに向けて、シッシッと手を振る。
「別に良いじゃんよ。それより坊ちゃん、あの地理教師とどーゆー関係?」
ロイスの手がピタリと止まる。
レイモンドがデスクに片肘を付いて乗り出し、ニヤニヤと意味ありげに笑っていた。
「地理教師って、新任のシエン先生?」
アマンシアがまたディスプレイの向こうから顔を出す。
「──私、担任が地理だったんですよ~。シエン先生の授業受けたかったのにぃ」
ロイスは眉間を寄せて、紅茶を一口飲む。丁度良い温度まで冷めていた。
「──シエン先生って、いつも爽やかなシトラス系の香水の香りがして、良い匂いなのよね~」
(シトラス系の香水?)
紅茶を飲みながら、ロイスの眉がピクリと反応した。
自分は、この紅茶に似た香りと、家に送って貰った時のバニラに似た香りしか知らない。
(──もしかして…あの香りは俺にだけ、か?)
と、ロイスは恥ずかしくなって、デスクに両肘を付いて顔を覆う。
いやいや、考え過ぎだとも思う。
「じゃあ、俺は? 俺も香水付けてるぜ」
レイモンドが自分を指差して、アマンシアに感想を聞く。
「レイ先輩、いつも香水変えてるでしょ。はっきり言って臭いです」
片肘を付いてディスプレイの横から覗かせたアマンシアの顔は、呆れて半目になっていた。
「うっそ‼︎ マジかよ! 流行りのモテ香水だよ? 小遣い叩《はた》いて買ったんだぞ⁉︎」
レイモンドはムキになって、アマンシアに訴える。
「臭いものは臭いんです! レイ先輩、ホンっト流行り物、好きですよね。少しはシエン先生を見習ったらどうです?」
アマンシアは言いたい事を全て言って、作業に戻る。
「かーー‼︎ 大人の道は遠いか~」
レイモンドは椅子の背もたれに体重を掛けると、両手で髪の毛を掻きむしった。
「その点、シエン先生はカッコ良いし、爽やかだし、笑顔は優しいし、話し方も穏やかで、もう大人の男の見本よね~。世の中の男がみんなシエン先生みたいだったら良かったのに」
アマンシアは、ふふっと恋する乙女の顔で笑う。
ロイスはシエンを褒められて、嬉しいのか恥ずかしいのか分からなくなる。が、嫉妬心や対抗意識が湧かないのは、お互いの気持ちが繋がっていることが判った余裕からか。
「シエン先生って言ったらよ。坊ちゃん、あのセンセの前だと、ド緊張してるんだぜ~」
ロイスは突然、自分に話を振られてバッと頭を上げる。
そしてレイモンドの奴、余計なことを、と思い睨みつける。
「うるさい。あいつはうちの執事の息子だ。まぁ…幼馴染みみたいなものだ」
「…へー」
それを聞いたアマンシアが、驚いた顔をしている。
「久し振りに会ったから、驚いただけだ」
本当は恋人未満の関係になったのだが。
「本当にそれだけ?」
レイモンドの目尻が下がっている。
「それだけだ! それ以上も以下も無い‼︎」
ロイスはチラリと右手の小指に目をやる。
もう何処にも行かないと、約束した小指には感触と蜂蜜の香りが残っている。
再来年、自分は大学部に進学し、シエンはここに留まるのだろう。
その二年で、会えなかった時間を埋めて、卒業する頃には、本当の恋人のような関係になっていたい。
シエンは高校卒業まで待つ、と言ってくれた。しかし自分はそんなに待てる性分ではないし、もう嫌と言う程待ったじゃないか。
十八歳の誕生日までに、こちらから交際を持ち込んでやる。
(──シエンと付き合ったら……ん?)
ロイスの思考が一旦止まる。
『あの“オトナのおツキアイ”かっ!』
レイモンドの言葉が蘇る。
(──“おツキアイ”って…こいつ、俺を嵌《は》めやがったな‼︎)
アマンシアとふざけ合っているレイモンドに怒りが込み上がって来たが、シエンとの関係は誰にも言えない秘密なのだ。
車の中で、キスをされるのかと思ったことを思い出す。
(──でも…いつかは…いや、ない‼︎ 絶対、まだ早い‼︎)
頭を振って、思考を振り払う。
(──今はまだ早いけど…恋人になるっていうことは…そういう《・・・・》ことなんだよな…)
一杯目を飲み干した空のティーカップに、二杯目の紅茶を注ぎ入れて、口を付ける。
「──熱っ!」
完全に油断していた。
レイモンドが背を向けて、肩を揺らしている。
アマンシアは笑いを堪えるように、明後日の方を見て、拳を縦にして口元を押さえている。
二人の姿を苦々しく思いながら、ロイスは椅子に深く座り直す。
(──まずは猫舌の克服からだな…)
背もたれに体重を預けると、足を組み、腹の前で腕を組む。
折を見て、シエンのあの紅茶の香りがする香水の名前でも聞いておくか。
そして、来たるシエンとの初デートに思い巡らせて、微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。
さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩
部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。
「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」
いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
あなたの王子様になりたい_1
しお
BL
歌舞伎町の外れにある小さなバーで働く元ホスト・ゆみと。
平穏な夜になるはずだった店に、場違いなほど美しく、自信に満ちた大学生・直央が女性と共に現れる。
女性の好意を巧みにかわしながら、なぜかゆみとにだけ興味を示す直央。軽口と挑発を織り交ぜた距離の詰め方に、経験豊富なはずのゆみとは次第にペースを崩されていく。
甘くて危うい「王子様」との出会いが、ゆみとの退屈な夜を静かに狂わせ始めた――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる