異世界転移したのにテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

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流される町

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どぉん――。

地面の奥から響くような低い音が、建物全体を揺らした。
リィナが息を呑み、エリナが窓の外を見やる。

「……今の、何の音ですの?」

窓の外では、もう人々がざわつき始めていた。
次の瞬間、誰かの叫びが聞こえた。

「川の堤が崩れたぞーっ!!」

ざわめきが一気に膨れ上がり、建物の外へ飛び出す人の足音が続く。
僕も反射的に外に出た。
町の北側――川の方角の空が、ぼんやりと白く煙っている。
まるで大地が息をしているように、そこから風と土の匂いが混じった空気が押し寄せてきた。

「ユージ!」

リィナとエリナ、そして僕は当たり前のように駆け出した。

広場まで出ると、すでにカイウス様の部下たちが集まり始めていた。
「被害の状況は!?」
「堤の東側が決壊! 下流の畑と民家が数十戸――!」

息を荒げた兵士が報告する。
カイウス様はすぐに馬を引き寄せ、
「水際の者たちを救助しろ! 家屋に取り残されている者がいないか確認しろ!」
と怒号のような声で指示を飛ばした。

その横顔に、いつもの穏やかさはなかった。
領主として、人々の命を預かる者の顔だった。

「ユージ君、君は下流の避難誘導を頼む!」

「わかりました!」

僕は頷き、リィナとエリナと共に現場へ走る。
途中で膝まで泥に沈むようなぬかるみに足を取られながらも、前へと進んだ。

川沿いに出ると、目の前に信じがたい光景が広がっていた。
濁流が堤防を突き破り、茶色い水が家々を呑み込んでいる。
浮かぶ木片、転がる桶。
そして、流されまいと必死に柱にしがみつく人々の姿。

「リィナ! あの子を!」

僕が指差す先で、小さな子どもが柵にしがみついて泣いていた。
リィナはすぐさま飛び込み、魔法で風をまとって身を軽くし、子どもを抱き上げる。

「大丈夫、大丈夫だから!」

エリナは地上で治癒魔法を使い、流されて怪我をした人々を介抱していた。
だが、魔法だけではすべての人を救いきれない。

「くそっ、これ以上広がったら……!」

僕は歯を食いしばった。
どうすれば、この流れを止められる?
魔法で堤防を作り直すにしても、水の勢いが強すぎる。

「火魔法で水を蒸発させろ!」
「無理だ、範囲が広すぎる!」

兵士たちの怒号が飛び交う。
リィナが息を切らせて戻ってきた。

「これじゃ魔法だけじゃ無理だよ!」

エリナも息を切らしている。
治癒魔法を連続で使いすぎたのだろう。
僕は二人を見て、胸の奥が締めつけられた。

魔法ではどうにもならない。
でも、何もしなければ、この町が——人々が——流されてしまう。

***

夜になり、ようやく水の勢いが弱まった。
被害は大きかった。
数十軒の家が倒壊し、けが人は百を超えた。行方の分からない者もいる。

カイウス様は救護所を設け、町の者たちに食料と毛布を配らせた。
僕も片付けを手伝っていたが、泥と疲労で体が重い。
それでも、止まれなかった。

火が落ち着き、ようやく一息ついた時――
僕は空を見上げた。

濁流の跡が街灯の光に反射して、まるで地上にもう一つの川ができたように見える。
この世界にも、自然災害がある。
魔法でさえ、自然の力には逆らえない。

***

その日の夜、疲れ切って家に帰った僕は田中と渡会にテレパスを送る。

『よお雄二、元気か?今日はどうだった?」

田中の声がすぐに聞こえた。
渡会ものんびりと入ってくる。

『変わりないか?と言ってもほとんど毎日話してるけどな』

そこに日常を感じてホッとしながら、日常が崩壊したこちらの状況を語る。

「川の堤防が壊れて、町が水浸しになった。魔法で防ぎきれるものじゃない。……治水について調べてくれないか」

『なるほど……やっぱり、地球の中世みたいなレベルか』
『こっちじゃ、信玄堤とかあったよな』
『それなら、機械がなくてもできそうだな。……何々?川が合流するところなど勢いが強いところに硬い物を置いて水をぶつけ、流れを変えて勢いを弱める。あと、堤防は一繋がりじゃなく分散させることで、決壊を防ぎながら水流を弱められる……と』
『堤防の外側に溢れた水を逃がす余地を作るといいみたい。一つ目の堤防で勢いを弱め、ふたつめの堤防でさらに……ってやって、決壊も氾濫も防ぐんだよ』

「具体的にはどうすればいい?」

田中と渡会はいろいろと調べてくれた。
画像を送ってもらえれば簡単だけど、そこまでの能力はないため、口頭で一生懸命伝えてくれた。

「今日は本当に怖かった。理論上は大丈夫だと思うけど、これで大丈夫か少し不安だな」

『俺たちもやってみたわけじゃないからなあ。まあ、武田信玄を信じろ』
『そうそう、戦国最強と言われた武将だぞ』
「え、戦国最強は上杉謙信だろ」
『何だと!信玄に決まって……』
『それはもういいから。地図を見て川の流れの強そうなところを見定めて、図を作って領主さまに進言した方がわかりやすいと思うぜ』
『信玄だけに?』
『やめろ!ダジャレ事故に突っ込むな!恥ずかしい!』

僕たちはひとしきり笑ってテレパスを終えた。
二人との会話は、昼間の疲れや陰鬱とした気分を晴らしてくれる。

それから僕は、地図を基に補強した方がいいと思える場所を記入していった。

カイウス様は優れた領主だと思うけど、魔法が使える分どうしてもそれに頼りがちになる。

疫病の時も、治癒魔法を使える者を集めようとしていた。
魔法が使えるからこそ、対症療法を考えてしまうのだろう。

でも、疫病や大規模災害はそれでは追い付かない。
そういったものを根本から防ぐことが出来たら……その役に立てたら、テレパスしか力がない僕もみんなの役に立てるだろうか。

僕は、夜遅くまで治水のための図面を作り続けた。
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