異世界転移したのにテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

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希望と……

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夜通しで描いた図面を抱え、僕は早朝の空気の中を歩いていた。
町の北側――川沿いに近づくにつれて、焦げたような泥と湿った草の匂いが鼻をつく。
家々の屋根にはまだ水の跡が残り、流された木材や壺の破片が道端に積まれている。

「ユージ君、もう来ていたのか」

振り向くと、カイウス様が馬を引いて歩いてきた。
昨日よりも少し疲れた表情をしているが、その目はまだ強い光を宿している。

「はい。昨夜、少し考えてみたんです。……堤の構造について」

僕は地図を広げ、図面を見せた。
手書きの線と印が入り混じって、我ながら見づらいけれど、必死で描いた成果だ。

「ここと、ここと、あとこの辺り――川が曲がる部分に石を積んで流れを分けます。
勢いの強い水を“受け止める”んじゃなく、“逃がす”ようにして、堤防の負担を減らすんです」

カイウス様は腕を組み、じっと図面を見つめていた。
「なるほど……“逃がす”か。今まではいかに高く堤を積むかばかり考えていた」

「堤の高さを競うよりも、水の勢いを殺すほうが安全です。まず、この川が合流する勢いの強い地点に岩壁を作ります。」

「ふむ、この一部分だけにか」

「はい、その岩壁が勢いを弱めると共に流れの角度を変えます。そして、先端が細くなるように石を積んで、流れが左右に分かれるようにします。そこにとぎれとぎれの堤防を作って水流を分けて、外へ逃がすんです。

「ほう、確かに繋がっている堤防だと一カ所が破れるとそこから全てが壊れてしまう。この方法なら水の力が分散されそうだな。

カイウス様は顎に手を当てて考え込む。

「君の世界の人々の発想はとても面白いな」

「僕たちは魔法が使えませんから、災害が起こったら何もできません。だから、できるだけ起きないように防ごうとしているんです」

少し誇らしげにそう言うと、カイウス様は微かに笑った。

「よし、試してみよう。これに使う材料は多いが、岩を削るのは土魔法、組み上げた石を固めるのは火や風の魔法で乾かして固定すればいい。ユージ君、指揮を頼めるか?」

「はい!」

***

午前中いっぱい、僕たちは現場に出た。
リィナは風魔法で木材を運び、エリナは倒壊した家から使える資材を回収してくれる。
兵士たちは黙々と泥をかき出し、住民が差し入れる温かいスープの湯気があちこちで揺れていた。

「ユージ、ここの地面はどうするの?」

リィナが腰をかがめて尋ねる。
僕は地面の形を見て、棒で簡単な図を描いた。

「この辺りを少し削って、低くする。水が溢れたらこっちに逃げるようにするんだ」

「つまり、川の一部を“わざと壊す”ってこと?」

「そう。全部を守ろうとすると、逆に壊れるんだ。
流れを抑え込むより、流れを受け入れた方がいい」

リィナは小さくうなずき、「……何か優しい考え方だね」と笑った。

「え?」

「無理に抑え込むより受け入れて被害を減らそうっていうの、何かいいね」

彼女の言葉に少し照れくさくなり、僕は顔を逸らした。

——この堤防によってカイウス様の町では水害がほとんどなくなり、安心して暮らすことができるようになったのである。

***

「二人ともお疲れ様」

僕は、リィナとエリナに声をかける。
二人とも、先頭に立って働いてくれた。

「もう、服が泥だらけですわ」
「ふっふーん、私みたいに手足を出していれば、お風呂に入るだけで綺麗になるわよ」
「こっちの世界ではそれははしたないんですの!それに、服も短パンも汚れてましてよ」
「エリナの服よりずっと洗濯は簡単だよ」

こっちの世界……ということは、リィナはエリナにも日本から来たことを言えたんだな。
エリナは優しい子だから大丈夫だと思っていたけど、リィナは勇気が要っただろう。
僕は、何となく嬉しい気持ちになった。

「大体何でそんな格好にこだわるんですの?」

「私、向こうでは嫌なことばかりだった。生きてても辛くて」

「……」

「でもね、そんな世界でも一つだけ好きなものがあったの。あっちにはね、アイドルっていう人がいるの。私が好きだったアイドルは、キレイな腕や脚が魅力的で、笑った顔がすごく可愛らしくて、あんなふうになりたいってずっと思ってたの」

リィナの言うアイドルの名前は、僕には聞き覚えのないものだった。
リィナがこっちに来たのは僕よりも地球時間で6~7年くらい前のはずだから、聞いたことくらいありそうなものだけど、マイナーな人なんだろうか。

とにかく、そのアイドルのことを話している時のリィナは、輝くような笑顔をしていた。
あっちの世界のことをそんな顔で話すリィナを見て、僕は少し安心した。

「だからエリナもこういう服着てみなよ。絶対かわいいよ!」

「嫌ですわよ、恥ずかしいですもの」

「こっちの世界でもアイドルを流行らせたいなあ」

「リィナがもっと前に出てその服装の魅力をアピールしたら、出来るかもしれないな」

リィナは、少しはにかんだ。
「わ、私は絶対着ませんわよ」

エリナがその横でおののいていた。

***

黒いローブを羽織った男が、陰から雄二を見つめていた。

「……成功していたのか」

そう言って、怪しげに笑った。
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