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違和感
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僕は、カイウス様に感謝している。
自分に害をなす者と言われている僕に、カイウス様はとても良くしてくれている。
僕が暮らしていくのに不自由がないよう、何かと気を使ってくれる。
お金も支給してくれた。
リィナやエリナにとっても、カイウス様は恩人だろう。
だから出会った時のリィナが、そのカイウス様に害をなすと言われた僕に良い感情を持たなかったのも当然と言える。
どうして僕がこの世界に来たのか、それは分からない。
日本での僕は、交通事故で死んでしまった。それは確かだ。
次に目が覚めた時、僕はこの世界にいた。
もしもカイウス様が領主じゃなかったら、僕はすぐに二度目の死を迎えていたのかもしれない。
僕のことをすぐに受け入れてくれたカイウス様に、僕は恩義を感じている。
だから、疫病や水害の時に田中と渡会に頼った。
その時の提言は、役に立ったと思う。
カイウス様に感謝されると、僕の方が面映ゆくなる。
今はリィナやエリナとも仲良くしていて、とても楽しい毎日を過ごしている。
これも、カイウス様が僕を受け入れてくれたからだ。
……なのに、最近カイウス様に何か違和感を抱くことが増えている。
ハッキリとしたことは分からない。
だけど、言葉の端々や態度の片隅に違和感——いや、嫌悪感のようなものを抱いてしまうのだ。
***
今日、僕はリィナとエリナと堤防の工事を視察しに来ている。
僕自身も「信玄堤」というものを見たことはないが、田中と渡会に聞いた知識で必死に理解しようとしている。
水害を防ぐための工事において、この世界では僕が一番のエキスパートなんだ。
……エキスパートじゃないといけないんだ。
これはかなりのプレッシャーだった。
ついこの間まで、僕はただの高校生だったのだからそれは仕方がないと思う。
それでも、この世界でそんな言い訳は通用しない。
僕は、カイウス様のためにも頑張ろうと思った。……でも。
最近の違和感を、僕はエリナに相談してみた。
リィナの方が快活で豪快に見えるけど本当は繊細だから、カイウス様を否定するようなことを言うとどんな反応をするか分からないから。
「エリナ、最近のカイウス様って何か変じゃないか?」
「……?そうですか?どういうところが?」
「うーん、具体的には分からないけど、何となく違和感があるんだ」
「私は何も感じませんが……ユージ様がそう言うなら何かあるのかもしれませんわね。少し気にして見てみますわ」
「ありがとう」
エリナは僕に好意的に接してくれているし、察しがいいからとても相談しやすい。
リィナに対する態度を見ても、すごく優しい子なのがよくわかる。
そうして2人で話している時、突然3人組の男が僕たちを取り囲んだ。
「お二人さん、随分楽しそうだねえ」
「俺たちにもその幸せを分けてくれねえかなあ」
「お前ら見てるとムカつくんだよ」
……これは、向こうの世界にもいたチンピラという奴か。
僕は絡まれているらしい。初めての経験だから、どうしても足が震える。
それでも、僕はエリナを守りたかった。
剣術の練習をしているのは、こういう時に誰かを守りたいからだ。
リィナに初めて会った時の状況で、演技ではなく本当に守れるように。
ただ、それだけではなかった。
その三人組の男は、みんな黒い服で黒い髪を肩まで伸ばしていた。
——それは、カイウス様と同じ装い。
日本のハロウィーンなら、カイウス様のコスプレだと周りに思われるだろう。
その相手に対して、僕はなぜか強い苛立ちを感じた。
もちろん絡まれているのだから、好感情を持つわけはない。
だが、普通なら怖くなるはずだ。実際膝は震えている。それなのに、憎悪が先に立った。
頭で考えるより先に、僕は護身用の短剣を懐から出した。
そして、相手に斬りかかる。
「え!?」
一人の男の腕から血がほとばしる。
自分たちが主導権を握っていると思い込んでいた三人は、いきなり斬りかかられて混乱している。
「な、なんだこいつ!」
「待てって、おい!」
相手が何か叫んでいるが、僕は怒りに任せて短剣を振るう。
その勢いに恐れを抱いたのか、三人組は逃げて行った。
一瞬僕も追いかけそうになったが、エリナのことを思い出した。
「大丈夫?」
と声をかける。
「ありがとうございました。……随分お強くなられたのですね」
エリナが僕を褒めてくれる。それは、すごく嬉しい言葉だった。
「ううん、まだまだだよ。でも、エリナを守らなきゃって思ったんだ」
僕は、照れ隠しのようにそう言った。
それは本心だ。その気持ちは確かにあった。
だけど……あの三人に対する憎悪も確かにあった。
——いや、そっちの方が大きかったのかもしれない。
僕は、自分自身に違和感を抱いた。
何か不自然な感情が、僕の中に芽生えている。
その時、リィナが戻ってきた。
「大丈夫だった!?騒ぎを聞きつけて戻ってきたんだけど」
あの三人に絡まれた騒ぎは、結構大きくなっていたようだ。
「ええ、ユージ様が追い払ってくれましたわ」
エリナがそう言ってくれた時、僕は少し誇らしい気持ちになった。
「私がいればもっと鮮やかに追い払ってあげたのに」
リィナが本気で悔しそうに言う。確かに、僕とエリナとリィナの三人ならリィナが一番強いだろう。
「僕だって剣術を習ってるんだからな」
そう言いながら「早くリィナより強くなってみんなを守れるようになりたい」と僕は思った。
***
「やはり伝承のとおりだな」
黒ずくめの男は、くつくつと笑いながら雄二を見ていた。
自分に害をなす者と言われている僕に、カイウス様はとても良くしてくれている。
僕が暮らしていくのに不自由がないよう、何かと気を使ってくれる。
お金も支給してくれた。
リィナやエリナにとっても、カイウス様は恩人だろう。
だから出会った時のリィナが、そのカイウス様に害をなすと言われた僕に良い感情を持たなかったのも当然と言える。
どうして僕がこの世界に来たのか、それは分からない。
日本での僕は、交通事故で死んでしまった。それは確かだ。
次に目が覚めた時、僕はこの世界にいた。
もしもカイウス様が領主じゃなかったら、僕はすぐに二度目の死を迎えていたのかもしれない。
僕のことをすぐに受け入れてくれたカイウス様に、僕は恩義を感じている。
だから、疫病や水害の時に田中と渡会に頼った。
その時の提言は、役に立ったと思う。
カイウス様に感謝されると、僕の方が面映ゆくなる。
今はリィナやエリナとも仲良くしていて、とても楽しい毎日を過ごしている。
これも、カイウス様が僕を受け入れてくれたからだ。
……なのに、最近カイウス様に何か違和感を抱くことが増えている。
ハッキリとしたことは分からない。
だけど、言葉の端々や態度の片隅に違和感——いや、嫌悪感のようなものを抱いてしまうのだ。
***
今日、僕はリィナとエリナと堤防の工事を視察しに来ている。
僕自身も「信玄堤」というものを見たことはないが、田中と渡会に聞いた知識で必死に理解しようとしている。
水害を防ぐための工事において、この世界では僕が一番のエキスパートなんだ。
……エキスパートじゃないといけないんだ。
これはかなりのプレッシャーだった。
ついこの間まで、僕はただの高校生だったのだからそれは仕方がないと思う。
それでも、この世界でそんな言い訳は通用しない。
僕は、カイウス様のためにも頑張ろうと思った。……でも。
最近の違和感を、僕はエリナに相談してみた。
リィナの方が快活で豪快に見えるけど本当は繊細だから、カイウス様を否定するようなことを言うとどんな反応をするか分からないから。
「エリナ、最近のカイウス様って何か変じゃないか?」
「……?そうですか?どういうところが?」
「うーん、具体的には分からないけど、何となく違和感があるんだ」
「私は何も感じませんが……ユージ様がそう言うなら何かあるのかもしれませんわね。少し気にして見てみますわ」
「ありがとう」
エリナは僕に好意的に接してくれているし、察しがいいからとても相談しやすい。
リィナに対する態度を見ても、すごく優しい子なのがよくわかる。
そうして2人で話している時、突然3人組の男が僕たちを取り囲んだ。
「お二人さん、随分楽しそうだねえ」
「俺たちにもその幸せを分けてくれねえかなあ」
「お前ら見てるとムカつくんだよ」
……これは、向こうの世界にもいたチンピラという奴か。
僕は絡まれているらしい。初めての経験だから、どうしても足が震える。
それでも、僕はエリナを守りたかった。
剣術の練習をしているのは、こういう時に誰かを守りたいからだ。
リィナに初めて会った時の状況で、演技ではなく本当に守れるように。
ただ、それだけではなかった。
その三人組の男は、みんな黒い服で黒い髪を肩まで伸ばしていた。
——それは、カイウス様と同じ装い。
日本のハロウィーンなら、カイウス様のコスプレだと周りに思われるだろう。
その相手に対して、僕はなぜか強い苛立ちを感じた。
もちろん絡まれているのだから、好感情を持つわけはない。
だが、普通なら怖くなるはずだ。実際膝は震えている。それなのに、憎悪が先に立った。
頭で考えるより先に、僕は護身用の短剣を懐から出した。
そして、相手に斬りかかる。
「え!?」
一人の男の腕から血がほとばしる。
自分たちが主導権を握っていると思い込んでいた三人は、いきなり斬りかかられて混乱している。
「な、なんだこいつ!」
「待てって、おい!」
相手が何か叫んでいるが、僕は怒りに任せて短剣を振るう。
その勢いに恐れを抱いたのか、三人組は逃げて行った。
一瞬僕も追いかけそうになったが、エリナのことを思い出した。
「大丈夫?」
と声をかける。
「ありがとうございました。……随分お強くなられたのですね」
エリナが僕を褒めてくれる。それは、すごく嬉しい言葉だった。
「ううん、まだまだだよ。でも、エリナを守らなきゃって思ったんだ」
僕は、照れ隠しのようにそう言った。
それは本心だ。その気持ちは確かにあった。
だけど……あの三人に対する憎悪も確かにあった。
——いや、そっちの方が大きかったのかもしれない。
僕は、自分自身に違和感を抱いた。
何か不自然な感情が、僕の中に芽生えている。
その時、リィナが戻ってきた。
「大丈夫だった!?騒ぎを聞きつけて戻ってきたんだけど」
あの三人に絡まれた騒ぎは、結構大きくなっていたようだ。
「ええ、ユージ様が追い払ってくれましたわ」
エリナがそう言ってくれた時、僕は少し誇らしい気持ちになった。
「私がいればもっと鮮やかに追い払ってあげたのに」
リィナが本気で悔しそうに言う。確かに、僕とエリナとリィナの三人ならリィナが一番強いだろう。
「僕だって剣術を習ってるんだからな」
そう言いながら「早くリィナより強くなってみんなを守れるようになりたい」と僕は思った。
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「やはり伝承のとおりだな」
黒ずくめの男は、くつくつと笑いながら雄二を見ていた。
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