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不穏
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「エリナぁ、もう二度とあんなことしないから許してよお」
Tシャツ短パンというリィナとお揃いの寝間着を騙し打ちで着せてから、エリナはリィナと一緒にお風呂に入らなくなっていた。
本気で怒っているわけではないが、少しお灸を据えようと思ったのだ。
多少の解放感を覚えないでもなかったが、やはり恥ずかしさの方が強かった。
たまたま誰にも会わずに部屋まで戻ることができたが、誰かに見られていたらと思うと顔が熱くなる。
だが、今日はエリナの方もリィナと話したいことがある。
だから、
「絶対にあんなことをしてはいけませんわよ。今度やったら永久にお風呂に一緒に入りませんからね」
そう言って、お風呂の用意を始めた。
リィナは、顔を輝かせて自分の部屋に戻る。
そして、すぐに用意を済ませてエリナを待った。
エリナが部屋から出てきて、二人でお風呂に向かう。
「エリナ、何かあったの?」
言葉はいつものエリナと同じだったが、表情が少し暗い。
「リィナは、私の変化に気づいてくれますのね」
二人は湯気に包まれながら桶で湯を掛け合い、その温かさが少しだけエリナの緊張を解いた。
「ユージ様の様子がおかしいんですの」
「どんな風に?」
「『カイウス様を倒す』と仰っていましたわ。他にも『虐げられている人を救いたい』とも」
「へ?何でカイウス様を倒すの?それに、誰が虐げられてるっていうの?」
「わかりませんわ。でも、普段のユージ様とは違いましたわ。憎しみに憑りつかれたような顔で……」
「確かにカイウス様に対する態度もおかしかったけど……二人の間に何かあったのかな?」
「たとえ個人的に何らかの諍いがあったとしても、虐げられているというのは違いますわ」
「それで、エリナは深刻だと思う?」
「ええ。でも、カイウス様に相談するかどうか迷っていますの」
領主を倒すと言い放ったのだ。下手をすると不敬罪に問われかねない。
「でもユージの腕じゃ、カイウス様を倒すことなんて無理だと思うけどな」
「やり方はいくらでもありますわ。何より、ユージ様が別人のようになったことが気になりますの」
『守りたい』と言われた時はとても嬉しかった。
だが、虐げられている人を救いたいという言葉に打ち砕かれた。
「あのユージ様は、私の好きなユージ様ではありませんわ」
エリナは、唇をかんでそう言った。
***
僕は、剣術の修業を終えて家に帰った。
だが、まるでその修業は他人事のように感じられる。
どうしても修業中のことがあまり思い出せない。
体は疲れているが、頭がすっきりしない。
以前は心地よい疲れと充実感があったのに、最近は気分が沈んでしまう。
すごく嫌な気分だ。何もかもを壊してしまいたいという衝動に駆られることさえある。
エリナに会ったら聞きたいことがあったような気がする。
いや、今日エリナに会ったような……。
今日会ったことを思い出そうとすると、頭が痛くなる。
自分が自分でないような感覚。
僕は、何をしているんだろう。
あれ、今日ご飯食べたかな……。
そして、僕の意識は睡魔に刈り取られる。
***
「カイウス様、ユージ様と何かありましたか?」
次の日、エリナとリィナはカイウス様の部屋を訪れた。
領主としての仕事は忙しいが、二人を娘のように思っているカイウス様はできるだけその訪問を邪険にしないようにしている。
もちろん、二人がそれに甘えてつけ上がらないことを信じてのことだ。
「いや、最近私に対する辺りが強いようだが心当たりはまったくない」
「カイウス様……」
エリナは、ためらいながら口を開く。
「昨日、ユージ様はカイウス様を倒すと言っておられましたわ。虐げられている人を救いたいとも」
「……!」
予想外の言葉に、カイウス様は言葉を失った。
「そこまでの憎しみをカイウス様に抱くなんて不自然だと思います。何か、人の心を操る魔法みたいなものはありませんか?」
リィナの問いに、カイウス様は首を横に振る。
「そんな魔法はないはずだ。人の心には触ることができないのだから」
「ですよねえ」
「それに、そんなことができてしまったら秩序も何もあったものじゃない。他人を操って罪を犯させることができたら、本当の悪人を罰することができなくなる」
「……それは怖いですわ」
「じゃあ、性格が変わっちゃうような病気とかは?」
「それもほとんど聞いたことがない。……いや、一度だけ穏やかだった人が急に怒りっぽくなったことはあったか……」
「それかもしれない。その時はどんな感じでしたか?」
「あの時は確か、町の長老が急に気性が荒くなったんだ。だが原因が分からず、みんなで困っているうちに亡くなってしまった。だから病気とも言い切れない」
「カイウス様!」
エリナが声を上げる。
「ユージ様は、不敬罪に問われるのでしょうか?」
「私を倒す、というのはみんなに言っているのか?」
「いえ、私だけですわ」
「なら、聞かなかったことにしておこう。何かと世話になったのだし、原因を突き止めることを考えるべきだと思う。私も調べてみるが、エリナとリィナもユージ君の様子を見ていてくれるか?」
「ありがとうございます。私たちも原因を探ってみますわ」
エリナは、雄二を守りたかった。
そして、リィナも平和な日々を失いたくなかった。
***
雄二は、今日も剣術の修業に出かける。
そして、それを黒ずくめの男が見ていた。
その瞳には、満足げな笑みが浮かんでいた。
Tシャツ短パンというリィナとお揃いの寝間着を騙し打ちで着せてから、エリナはリィナと一緒にお風呂に入らなくなっていた。
本気で怒っているわけではないが、少しお灸を据えようと思ったのだ。
多少の解放感を覚えないでもなかったが、やはり恥ずかしさの方が強かった。
たまたま誰にも会わずに部屋まで戻ることができたが、誰かに見られていたらと思うと顔が熱くなる。
だが、今日はエリナの方もリィナと話したいことがある。
だから、
「絶対にあんなことをしてはいけませんわよ。今度やったら永久にお風呂に一緒に入りませんからね」
そう言って、お風呂の用意を始めた。
リィナは、顔を輝かせて自分の部屋に戻る。
そして、すぐに用意を済ませてエリナを待った。
エリナが部屋から出てきて、二人でお風呂に向かう。
「エリナ、何かあったの?」
言葉はいつものエリナと同じだったが、表情が少し暗い。
「リィナは、私の変化に気づいてくれますのね」
二人は湯気に包まれながら桶で湯を掛け合い、その温かさが少しだけエリナの緊張を解いた。
「ユージ様の様子がおかしいんですの」
「どんな風に?」
「『カイウス様を倒す』と仰っていましたわ。他にも『虐げられている人を救いたい』とも」
「へ?何でカイウス様を倒すの?それに、誰が虐げられてるっていうの?」
「わかりませんわ。でも、普段のユージ様とは違いましたわ。憎しみに憑りつかれたような顔で……」
「確かにカイウス様に対する態度もおかしかったけど……二人の間に何かあったのかな?」
「たとえ個人的に何らかの諍いがあったとしても、虐げられているというのは違いますわ」
「それで、エリナは深刻だと思う?」
「ええ。でも、カイウス様に相談するかどうか迷っていますの」
領主を倒すと言い放ったのだ。下手をすると不敬罪に問われかねない。
「でもユージの腕じゃ、カイウス様を倒すことなんて無理だと思うけどな」
「やり方はいくらでもありますわ。何より、ユージ様が別人のようになったことが気になりますの」
『守りたい』と言われた時はとても嬉しかった。
だが、虐げられている人を救いたいという言葉に打ち砕かれた。
「あのユージ様は、私の好きなユージ様ではありませんわ」
エリナは、唇をかんでそう言った。
***
僕は、剣術の修業を終えて家に帰った。
だが、まるでその修業は他人事のように感じられる。
どうしても修業中のことがあまり思い出せない。
体は疲れているが、頭がすっきりしない。
以前は心地よい疲れと充実感があったのに、最近は気分が沈んでしまう。
すごく嫌な気分だ。何もかもを壊してしまいたいという衝動に駆られることさえある。
エリナに会ったら聞きたいことがあったような気がする。
いや、今日エリナに会ったような……。
今日会ったことを思い出そうとすると、頭が痛くなる。
自分が自分でないような感覚。
僕は、何をしているんだろう。
あれ、今日ご飯食べたかな……。
そして、僕の意識は睡魔に刈り取られる。
***
「カイウス様、ユージ様と何かありましたか?」
次の日、エリナとリィナはカイウス様の部屋を訪れた。
領主としての仕事は忙しいが、二人を娘のように思っているカイウス様はできるだけその訪問を邪険にしないようにしている。
もちろん、二人がそれに甘えてつけ上がらないことを信じてのことだ。
「いや、最近私に対する辺りが強いようだが心当たりはまったくない」
「カイウス様……」
エリナは、ためらいながら口を開く。
「昨日、ユージ様はカイウス様を倒すと言っておられましたわ。虐げられている人を救いたいとも」
「……!」
予想外の言葉に、カイウス様は言葉を失った。
「そこまでの憎しみをカイウス様に抱くなんて不自然だと思います。何か、人の心を操る魔法みたいなものはありませんか?」
リィナの問いに、カイウス様は首を横に振る。
「そんな魔法はないはずだ。人の心には触ることができないのだから」
「ですよねえ」
「それに、そんなことができてしまったら秩序も何もあったものじゃない。他人を操って罪を犯させることができたら、本当の悪人を罰することができなくなる」
「……それは怖いですわ」
「じゃあ、性格が変わっちゃうような病気とかは?」
「それもほとんど聞いたことがない。……いや、一度だけ穏やかだった人が急に怒りっぽくなったことはあったか……」
「それかもしれない。その時はどんな感じでしたか?」
「あの時は確か、町の長老が急に気性が荒くなったんだ。だが原因が分からず、みんなで困っているうちに亡くなってしまった。だから病気とも言い切れない」
「カイウス様!」
エリナが声を上げる。
「ユージ様は、不敬罪に問われるのでしょうか?」
「私を倒す、というのはみんなに言っているのか?」
「いえ、私だけですわ」
「なら、聞かなかったことにしておこう。何かと世話になったのだし、原因を突き止めることを考えるべきだと思う。私も調べてみるが、エリナとリィナもユージ君の様子を見ていてくれるか?」
「ありがとうございます。私たちも原因を探ってみますわ」
エリナは、雄二を守りたかった。
そして、リィナも平和な日々を失いたくなかった。
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雄二は、今日も剣術の修業に出かける。
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その瞳には、満足げな笑みが浮かんでいた。
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