異世界転移したのにテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

文字の大きさ
29 / 37

召喚士

しおりを挟む
雄二の剣の腕は、かなり上達していた。
最初のへっぴり腰が信じられないくらい、自信に満ちている。

もちろん訓練を取り仕切るバルドに勝てるほどではないが、一般の兵士くらいの強さを身につけることができた。
一緒に訓練している者たちと、互角に戦うことができている。

その様子を、物陰から黒ずくめの男が見ていた。

「これほどの腕なら十分か。カイウスがどれほどの剣士かは知らんが……」

そう呟きながら雄二を見つめていると、そこに噂のカイウスがリィナとエリナを連れてやってきた。
雄二の様子がおかしいと聞いて、原因を確かめようと思ったのだ。

カイウスの顔を見ると、黒ずくめの男の顔が歪む。
「……父の仇」

そして、口の中で呪いの言葉を唱える。
その言葉が続くにつれて、雄二の瞳から光が消えていく。

リィナが雄二に声をかける。

「久しぶり。最近どうしてるの?」

軽い言葉で雄二の様子を探ろうとしたのだろう。
だが、雄二はそれに応えない。

息を荒くしながらカイウスを睨み、眉を逆立てる。
雄二の口からも、呪いの言葉が発せられる。

雄二のまとう空気が、物騒なものに変わった。

***

はるか昔、“召喚士”と呼ばれる者たちがいた。
彼らは呪文一つで、異世界から戦士を呼び寄せる。

その戦士は“訪問者”と呼ばれ、召喚士に従って敵を討った。
召喚士が敵を指定すると、その相手に対して圧倒的な武力を発揮するのだ。

訪問者は、戦争によく利用された。
敵に対して圧倒的な武力を振るうが、指定した相手以外には普通の力しか発揮できない。
敵と相対した時以外は、普通の人間に過ぎないのだ。
だから、万一反逆されても怖くはない。

そして、敵を見つけると正気を失ったように襲い掛かる。
複雑な作戦などを遂行することはできないが、狂戦士として敵に大きな損害を与えることができる存在だった。

だが、召喚士の報酬はかなり高かった。
訪問者に敵を指定するのは召喚士なので、待遇を良くしておかないと反逆される恐れがあったのだ。

しかし、400年ほど前に召喚の成功率が突然下がった。
訪問者の性質は変わらなかったが、いくら召喚士が呪文を唱えても何も起きない時が多くなった。

召喚ができないのであれば、召喚士に存在価値はない。
報酬ばかり高く、成果のない召喚士を雇う者はいなくなった。
こうして召喚士は姿を消し、一部の書物に記されるだけの存在となった。

——その古の術である召喚を、黒ずくめの男は成功させていたのだ。
だが、そのことに黒ずくめの男はすぐに気づけなかった。

男が召喚呪文を唱えてから雄二がこちらに来るまで、三日の時間がかかったのだ。
男は、自分の呪文が失敗したと思ってその場を去った。
その後、雄二がここに現れたのだった。

しかし、召喚士は自分が召喚した相手がわかる。
オーラのようなものを感じるのだ。

この町に来て雄二を見た時、男は召喚に成功していたことを知った。
それから、カイウスを敵とするよう呪文を送り続けていた。

***

今ではほとんど失われてしまった召喚という術。
盛んだった時でも、どうして人を召喚できるのかは誰も知らなかった。
最初の一人を除いては。

実は、召喚の呪文は遠い異国――“日本”に繋がっている。
召喚の呪文を唱えると、日本の空に手を伸ばすことができるのだ。

例えて言うなら、ネズミ捕りを仕掛けるようなもの。
そして、そのネズミ捕りは不慮の事故などで若くして死んだ魂を捕まえる。
捕まった魂は、トンネルのようなものを通ってこっちの世界にやってくるのだ。

ただ、その罠はお粗末なものだった。
たくさん漂っている魂の中の、ほんの一部しか捕まえることはできない。

言ってみれば、餌も何も付けていないネズミ捕りのようなものだ。
ただ400年ほど前、日本の戦国時代とよばれる時代まではそんなネズミ捕りでも捕まえられるほど魂がたくさんさまよっていた。
しかし、江戸時代になって平和になるとさまよう魂が減ったのだ。
だから、召喚の成功率が下がった。

なぜこの世界と日本が繋がっているのかは分からない。
ただ、若くして亡くなった者のごく一部はこの世界に召喚されることがあった。
魂というものの存在さえ確定していない日本において、そんなことが行われていたとは知る由もない。

***

訪問者の強さは、本人の強さに比例する。
だから、召喚した人間が女性だと召喚士やその依頼者は落胆した。
屈強な男性が現れると、戦を有利に進められると狂喜乱舞した。

黒ずくめの男は、自分の召喚が成功していたことを知った。
ただ、それが女性だったり弱かったりしたら意味がない。
さらに、カイウスに近づけるようにも考えなければならない。

しかし、何もしなくても雄二は自分で剣術を学び、さらにはカイウスに近しい立場になっていた。
黒ずくめの男は、自分の幸運を喜んだ。

雄二が見る見る剣術の腕を高めていくに従って、自分の宿願成就が近くなるのを感じた。
そして今日も雄二にカイウスを敵とするよう呪文を送り続けていると、そこにカイウス本人がやってきた。

敵に対しては何倍もの強さを発揮する訪問者——雄二に、カイウスが近づいていく。

「今だ!」

黒ずくめの男はほくそ笑んだ。
そして、最後の呪文を口にする。

「行け!」

その瞬間、雄二がカイウスに斬りかかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

処理中です...