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召喚士
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雄二の剣の腕は、かなり上達していた。
最初のへっぴり腰が信じられないくらい、自信に満ちている。
もちろん訓練を取り仕切るバルドに勝てるほどではないが、一般の兵士くらいの強さを身につけることができた。
一緒に訓練している者たちと、互角に戦うことができている。
その様子を、物陰から黒ずくめの男が見ていた。
「これほどの腕なら十分か。カイウスがどれほどの剣士かは知らんが……」
そう呟きながら雄二を見つめていると、そこに噂のカイウスがリィナとエリナを連れてやってきた。
雄二の様子がおかしいと聞いて、原因を確かめようと思ったのだ。
カイウスの顔を見ると、黒ずくめの男の顔が歪む。
「……父の仇」
そして、口の中で呪いの言葉を唱える。
その言葉が続くにつれて、雄二の瞳から光が消えていく。
リィナが雄二に声をかける。
「久しぶり。最近どうしてるの?」
軽い言葉で雄二の様子を探ろうとしたのだろう。
だが、雄二はそれに応えない。
息を荒くしながらカイウスを睨み、眉を逆立てる。
雄二の口からも、呪いの言葉が発せられる。
雄二のまとう空気が、物騒なものに変わった。
***
はるか昔、“召喚士”と呼ばれる者たちがいた。
彼らは呪文一つで、異世界から戦士を呼び寄せる。
その戦士は“訪問者”と呼ばれ、召喚士に従って敵を討った。
召喚士が敵を指定すると、その相手に対して圧倒的な武力を発揮するのだ。
訪問者は、戦争によく利用された。
敵に対して圧倒的な武力を振るうが、指定した相手以外には普通の力しか発揮できない。
敵と相対した時以外は、普通の人間に過ぎないのだ。
だから、万一反逆されても怖くはない。
そして、敵を見つけると正気を失ったように襲い掛かる。
複雑な作戦などを遂行することはできないが、狂戦士として敵に大きな損害を与えることができる存在だった。
だが、召喚士の報酬はかなり高かった。
訪問者に敵を指定するのは召喚士なので、待遇を良くしておかないと反逆される恐れがあったのだ。
しかし、400年ほど前に召喚の成功率が突然下がった。
訪問者の性質は変わらなかったが、いくら召喚士が呪文を唱えても何も起きない時が多くなった。
召喚ができないのであれば、召喚士に存在価値はない。
報酬ばかり高く、成果のない召喚士を雇う者はいなくなった。
こうして召喚士は姿を消し、一部の書物に記されるだけの存在となった。
——その古の術である召喚を、黒ずくめの男は成功させていたのだ。
だが、そのことに黒ずくめの男はすぐに気づけなかった。
男が召喚呪文を唱えてから雄二がこちらに来るまで、三日の時間がかかったのだ。
男は、自分の呪文が失敗したと思ってその場を去った。
その後、雄二がここに現れたのだった。
しかし、召喚士は自分が召喚した相手がわかる。
オーラのようなものを感じるのだ。
この町に来て雄二を見た時、男は召喚に成功していたことを知った。
それから、カイウスを敵とするよう呪文を送り続けていた。
***
今ではほとんど失われてしまった召喚という術。
盛んだった時でも、どうして人を召喚できるのかは誰も知らなかった。
最初の一人を除いては。
実は、召喚の呪文は遠い異国――“日本”に繋がっている。
召喚の呪文を唱えると、日本の空に手を伸ばすことができるのだ。
例えて言うなら、ネズミ捕りを仕掛けるようなもの。
そして、そのネズミ捕りは不慮の事故などで若くして死んだ魂を捕まえる。
捕まった魂は、トンネルのようなものを通ってこっちの世界にやってくるのだ。
ただ、その罠はお粗末なものだった。
たくさん漂っている魂の中の、ほんの一部しか捕まえることはできない。
言ってみれば、餌も何も付けていないネズミ捕りのようなものだ。
ただ400年ほど前、日本の戦国時代とよばれる時代まではそんなネズミ捕りでも捕まえられるほど魂がたくさんさまよっていた。
しかし、江戸時代になって平和になるとさまよう魂が減ったのだ。
だから、召喚の成功率が下がった。
なぜこの世界と日本が繋がっているのかは分からない。
ただ、若くして亡くなった者のごく一部はこの世界に召喚されることがあった。
魂というものの存在さえ確定していない日本において、そんなことが行われていたとは知る由もない。
***
訪問者の強さは、本人の強さに比例する。
だから、召喚した人間が女性だと召喚士やその依頼者は落胆した。
屈強な男性が現れると、戦を有利に進められると狂喜乱舞した。
黒ずくめの男は、自分の召喚が成功していたことを知った。
ただ、それが女性だったり弱かったりしたら意味がない。
さらに、カイウスに近づけるようにも考えなければならない。
しかし、何もしなくても雄二は自分で剣術を学び、さらにはカイウスに近しい立場になっていた。
黒ずくめの男は、自分の幸運を喜んだ。
雄二が見る見る剣術の腕を高めていくに従って、自分の宿願成就が近くなるのを感じた。
そして今日も雄二にカイウスを敵とするよう呪文を送り続けていると、そこにカイウス本人がやってきた。
敵に対しては何倍もの強さを発揮する訪問者——雄二に、カイウスが近づいていく。
「今だ!」
黒ずくめの男はほくそ笑んだ。
そして、最後の呪文を口にする。
「行け!」
その瞬間、雄二がカイウスに斬りかかった。
最初のへっぴり腰が信じられないくらい、自信に満ちている。
もちろん訓練を取り仕切るバルドに勝てるほどではないが、一般の兵士くらいの強さを身につけることができた。
一緒に訓練している者たちと、互角に戦うことができている。
その様子を、物陰から黒ずくめの男が見ていた。
「これほどの腕なら十分か。カイウスがどれほどの剣士かは知らんが……」
そう呟きながら雄二を見つめていると、そこに噂のカイウスがリィナとエリナを連れてやってきた。
雄二の様子がおかしいと聞いて、原因を確かめようと思ったのだ。
カイウスの顔を見ると、黒ずくめの男の顔が歪む。
「……父の仇」
そして、口の中で呪いの言葉を唱える。
その言葉が続くにつれて、雄二の瞳から光が消えていく。
リィナが雄二に声をかける。
「久しぶり。最近どうしてるの?」
軽い言葉で雄二の様子を探ろうとしたのだろう。
だが、雄二はそれに応えない。
息を荒くしながらカイウスを睨み、眉を逆立てる。
雄二の口からも、呪いの言葉が発せられる。
雄二のまとう空気が、物騒なものに変わった。
***
はるか昔、“召喚士”と呼ばれる者たちがいた。
彼らは呪文一つで、異世界から戦士を呼び寄せる。
その戦士は“訪問者”と呼ばれ、召喚士に従って敵を討った。
召喚士が敵を指定すると、その相手に対して圧倒的な武力を発揮するのだ。
訪問者は、戦争によく利用された。
敵に対して圧倒的な武力を振るうが、指定した相手以外には普通の力しか発揮できない。
敵と相対した時以外は、普通の人間に過ぎないのだ。
だから、万一反逆されても怖くはない。
そして、敵を見つけると正気を失ったように襲い掛かる。
複雑な作戦などを遂行することはできないが、狂戦士として敵に大きな損害を与えることができる存在だった。
だが、召喚士の報酬はかなり高かった。
訪問者に敵を指定するのは召喚士なので、待遇を良くしておかないと反逆される恐れがあったのだ。
しかし、400年ほど前に召喚の成功率が突然下がった。
訪問者の性質は変わらなかったが、いくら召喚士が呪文を唱えても何も起きない時が多くなった。
召喚ができないのであれば、召喚士に存在価値はない。
報酬ばかり高く、成果のない召喚士を雇う者はいなくなった。
こうして召喚士は姿を消し、一部の書物に記されるだけの存在となった。
——その古の術である召喚を、黒ずくめの男は成功させていたのだ。
だが、そのことに黒ずくめの男はすぐに気づけなかった。
男が召喚呪文を唱えてから雄二がこちらに来るまで、三日の時間がかかったのだ。
男は、自分の呪文が失敗したと思ってその場を去った。
その後、雄二がここに現れたのだった。
しかし、召喚士は自分が召喚した相手がわかる。
オーラのようなものを感じるのだ。
この町に来て雄二を見た時、男は召喚に成功していたことを知った。
それから、カイウスを敵とするよう呪文を送り続けていた。
***
今ではほとんど失われてしまった召喚という術。
盛んだった時でも、どうして人を召喚できるのかは誰も知らなかった。
最初の一人を除いては。
実は、召喚の呪文は遠い異国――“日本”に繋がっている。
召喚の呪文を唱えると、日本の空に手を伸ばすことができるのだ。
例えて言うなら、ネズミ捕りを仕掛けるようなもの。
そして、そのネズミ捕りは不慮の事故などで若くして死んだ魂を捕まえる。
捕まった魂は、トンネルのようなものを通ってこっちの世界にやってくるのだ。
ただ、その罠はお粗末なものだった。
たくさん漂っている魂の中の、ほんの一部しか捕まえることはできない。
言ってみれば、餌も何も付けていないネズミ捕りのようなものだ。
ただ400年ほど前、日本の戦国時代とよばれる時代まではそんなネズミ捕りでも捕まえられるほど魂がたくさんさまよっていた。
しかし、江戸時代になって平和になるとさまよう魂が減ったのだ。
だから、召喚の成功率が下がった。
なぜこの世界と日本が繋がっているのかは分からない。
ただ、若くして亡くなった者のごく一部はこの世界に召喚されることがあった。
魂というものの存在さえ確定していない日本において、そんなことが行われていたとは知る由もない。
***
訪問者の強さは、本人の強さに比例する。
だから、召喚した人間が女性だと召喚士やその依頼者は落胆した。
屈強な男性が現れると、戦を有利に進められると狂喜乱舞した。
黒ずくめの男は、自分の召喚が成功していたことを知った。
ただ、それが女性だったり弱かったりしたら意味がない。
さらに、カイウスに近づけるようにも考えなければならない。
しかし、何もしなくても雄二は自分で剣術を学び、さらにはカイウスに近しい立場になっていた。
黒ずくめの男は、自分の幸運を喜んだ。
雄二が見る見る剣術の腕を高めていくに従って、自分の宿願成就が近くなるのを感じた。
そして今日も雄二にカイウスを敵とするよう呪文を送り続けていると、そこにカイウス本人がやってきた。
敵に対しては何倍もの強さを発揮する訪問者——雄二に、カイウスが近づいていく。
「今だ!」
黒ずくめの男はほくそ笑んだ。
そして、最後の呪文を口にする。
「行け!」
その瞬間、雄二がカイウスに斬りかかった。
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