異世界転移したのにテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

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オルゲンは、父を想って泣き続けた。
その間、カイウスはずっと立ったままオルゲンを見つめていた。

ようやく涙が落ち着いたオルゲンが、小さく呟いた。

「殺せ。もう生きていく意味もない」

オルゲンが顔を上げると、カイウスと目が合った。

「ユージと言ったか、あの者には迷惑をかけた。直接謝りたい気持ちもあるが、会うとおかしな作用が起こるかもしれん。だから、利用して申し訳なかったと伝えて欲しい」

「……オルゲン、と申したな。私の父が申し訳ないことをした。そして、私は父とは違う道を歩もうとしている。暴虐な父は恣意的に刑罰を行っていたが、私は法に従っている」

「……」

「その法の中に、他人を操って危害を加えた場合の取り決めがない。私を暗殺しようと目論んだと君は言うが、その証拠もない。そして、私は怪我一つしていない」

オルゲンは、カイウスの顔から目を離さない。

「召喚を成功させた君の力は、かなりのものだと思う。また、今後同じことをする者が出てきた時のために、君の力や経験が活かせたらと考えてしまう」

「……」

「どうしても私が憎いなら、ここを去ってまた襲うがいい。その時には法を整備しておく。だが、もしも私を許そうという気持ちになった時は、私に力を貸してもらえないだろうか」

オルゲンは、大きく息を吐いた。

「……少し、考えさせてください」

昨日までは仇と思っていたのだ。そう簡単に答えは出せない。
いや、出すべきではないと思った。
それでもオルゲンは、自分が少しずつカイウスに惹かれているのを感じていた。

***

「召喚されてくる者は、幸せなのだろうか」とカイウスは考える。

オルゲンの父アステルが召喚した女性は、カイウスの父グロウゼンの何人もいる愛人の一人になった。
その女性はとても優しく、子供だったカイウスを可愛がってくれた。
カイウスも、その人が大好きだった。

カイウスが大人になり、クーデターが起こった時、臣下も愛人もみんな父の下から逃げ去った。
だが、その女性だけは父の下に残った。

カイウスは、必死で説得した。その女性を助けたかった。
他の愛人たちは、父の力を背景に贅沢三昧な暮らしをしていた。
だから、誅されても仕方がないと思っていた。

けれど、その女性は常に慎ましく暮らしていた。
そのことで父になじられたこともある。
決して大事にされていたようには思えなかった。

それなのに、その人は「一人ぼっちじゃ可哀想でしょ」と笑って父に殉じた。
「この人に生かしてもらっていたのだから」と。

カイウスは知らないことだが、召喚されたということはこの女性も日本で若くして命を落としたということだ。
だから、生かしてもらっていることへの感謝の気持ちが強かったのだろう。
また、贅沢に靡かないその女性の真心がグロウゼンに少しずつ通じていったところもある。

カイウスは、その女性の気持ちがまったくわからなかった。
ただ、自ら死を選ぼうとしているその女性に対して、父は今まで見たことのない優しい表情を浮かべていた気がする。

その表情を引き出した女性を、カイウスは美しいと思った。
異世界から来たというユージに寛大だったのも、その女性とのことがあったからかもしれない。

自分に害をなす者、と言われても、カイウスはユージを受け入れた。
結果としてその占いは当たりかけたが、大した怪我もない。
操られたユージの方が被害者だろう。

今回の件で傷を負ったのは……エリナだった。
カイウスは、エリナの部屋に足を向けた。

***

エリナは、ずっとふさぎ込んでいる。

「一人にしておいて下さいまし」

そう言って、誰とも会おうとしない。
カイウスだけは、領主の命令として無理矢理に部屋に入り込んだ。

それは、エリナの身体のためだった。
エリナの内臓の損傷はかなり激しく、エリナ自身の治癒魔法だけでは完治は難しいほどだった。

だから、カイウスは治癒魔法の専門家をエリナの看病に遣わしていた。
その際は、カイウス自身も同行するようにしている。
自分のとばっちりを受けたようなものだから、責任も感じているのだ。

さらに最近では、心に対する気配りも必要だと感じている。
エリナは、リィナやユージとも会おうとしていないらしい。

ユージは直接怪我を負わせた相手だからわからなくもない。
とは言っても普段のエリナなら、操られていたことを理解して受け入れただろう。

さらにリィナにまで会わないというのが気にかかる。
一時期は張り合うような素振りもあったが、最近は急速に仲が良くなったように思っていた。

「エリナ、具合はどうだ?」

「カイウス様、大分良くなりましたわ」

エリナは、そう言って起き上がろうとする。
具合がかなり悪い時からそうなので、カイウスはその都度それを止めなくてはいけない。
いつも同じ反応なので、本当に良くなったかどうかがわからない。

カイウスは、治癒魔法師に目を向ける。

「ええ、危ないところは越しました。これから良くなっていくと思います」

やっぱりまだ無理をしているのか。
カイウスの前で横になっていることを、エリナはとても恐縮している。
それはエリナの良いところだが、まだ甘えてくれてもいいのに、とカイウスは思う。

「エリナ、お前は家族のようなものなのだからそんなに遠慮をするな」

「ありがとうございます。でも、けじめはつけなくてはいけませんわ」

カイウスは少し困り顔になったが、もう命には別条ないのだから好きにさせようと思った。

「ところで、まだユージ君を許す気になれないのか?」

「……」

「リィナにも会ってないらしいが、どうしたんだ?」

その質問に対する答えはない。長い沈黙が続いた。
そして、エリナが鼻をすする音が聞こえた。
……涙をこらえているのだろう。

「傷つけてしまったのなら済まない。力になれることがあったら何でも言ってくれ」

そう言って、カイウスはバツの悪そうな顔をしてエリナの部屋を出て行った。

***

カイウス様が出て行った後、エリナは一人つぶやいた。

「私は、つまらない女ですわ」
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