33 / 37
謝罪
しおりを挟む
エリナの身体は、まだ本調子ではない。
傷を負った直後は自分で治癒魔法を施していたが、やがて気を失ってしまった。
そのままだと危なかったが、優秀な治癒魔法師たちの尽力によって峠は越している。
その傷が、ユージによってつけられたものだということもショックだった。
だが、それ以上にショックだったのが、リィナの声でユージが正気に戻ったことだった。
エリナ自身は、声をかける余裕もなかった。
体当たりをしてリィナがカイウス様を庇える位置に移動する時間を稼いだだけで、すぐに蹴飛ばされたのだ。
それでも、ユージが自分に向けた目には敵意しかなかった。
躊躇なく内蔵を破壊された。
でもリィナには……。
ここには多少の誤解がある。
雄二は敵だと指定されたカイウスに対しては普段の数倍の強さを発揮するが、それ以外のエリナやリィナには通常の雄二の強さしか発揮できない。
最近剣術を習っている雄二はエリナより強く、リィナとは互角なのだ。
それを知らないエリナは、カイウス様を圧倒するユージがリィナに本気を出すことを躊躇しているように思えた。
どっちにしても、それは「嫉妬」だった。
大事な妹に嫉妬をするなんて、とエリナは自分が情けなくなった。
ユージ様よりリィナが大事なんて言っておきながら、このざまだ。
「誰かに取られるかも」というリィナの言葉が、エリナの胸に響く。
ユージ様に必要なのはリィナなのでは……そう考えると、エリナの胸は鉛を打ち込まれたようになる。
リィナもユージ様とならきっと幸せになるだろう。
そんなことを考えれば考えるほど、エリナの瞳からは涙が溢れてくるのだ。
こんな姿をリィナに見せられない。
きっと私を心配してくれているだろう、と思いながらも、エリナはリィナに会うことができずにいた。
「ユージ様も、きっと狭量な私に愛想を尽かしているでしょうね」
エリナは、自嘲気味にため息をついた。
ユージが自分を蹴ったのは確かだが、間違いなく本人の意思ではない。
操られていただけなのだ。
それなのに、自分はユージに会おうとしていない。
ユージ様は、自分が怒っているからだと思うだろう。
「操られていてどうしようもなかっただけなのに、エリナは自分を許してくれない」、とユージ様は思っているに違いない。
嫌われても仕方がない……とエリナは思った。
その思考も、エリナの瞳を濡らした。
やっぱり死んでしまえばよかった、と思うほど、今のエリナは沈み込んでいた。
カイウス様に迷惑をかけ、見舞いたいというリィナやユージ様を拒絶し、一人でただ生を貪っている自分は何なのだろう、と考えずにいられない。
***
そんなエリナの部屋を、カイウス様が訪れた。
いつもの治癒魔法師とは違う人物を連れて。
その人物を見た途端、エリナの眉が逆立ち、ベッドから起き上がろうと身をよじる。
そこにいたのは、オルゲンだった。
「エリナ、落ち着きなさい」
カイウスが諭すように言う。
「でも……!!」
エリナの反応は当然のものだ。
カイウス様を殺そうとし、自分がこんな傷を負う原因を作った男。
——ユージ様を操った男。
こいつさえいなければ、今こんなことになっていないのに。
憎しみの気持ちが湧いてくる。
そんなエリナに、オルゲンは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。エリナ様」
「エリナ、この者はオルゲンと言うのだが、かなり強い魔力を持っている。召喚魔法に対する罰則も定められていない。そして何より、改心してこの町に尽くしたいと言っている。エリナには申し訳ないが、私はこのオルゲンを迎え入れることにした」
「……!!」
エリナは、自分が蔑ろにされているように感じた。
優秀な者がいれば、自分は切り捨てられるのだ。
「左様で……ございますか」
傷が治ったらここを出て行こう、とエリナは思った。
そう思いながら、瞳に涙が滲む。
その時、オルゲンが信じられないことを言った。
「私とエリナ様、二人きりにさせてもらえませんか」
「絶対嫌!」と言おうとしたのに、カイウス様はすぐにそれを聞き入れてしまった。
私が殺されてもいいのですわね、とエリナは寂しく思った。
オルゲンは、そんなエリナの腹に手をかざした。
「ちょっと!何すんの!やめてよ!」
普段の言葉遣いも忘れるほどの嫌悪感を、エリナは示した。
だが、その治癒魔法は今までの誰から受けたものより優しく効き目のあるものだった。
内臓が整っていくのが、自分でもわかる。
今まで専門の治癒魔法師が何人も治そうとしてくれたが、ここまでの効果はなかった。
この男は一流の魔術師だ、と認めざるを得なかった。
そんなエリナに、オルゲンは自分の身の上を語った。
父がカイウスの父に殺されたこと。その復讐で迷惑をかけてしまったこと。
カイウスの度量に惹かれたこと。
そんなことを聞かされても……とエリナが思った時、オルゲンが言った。
「エリナ様は、ユージ様のことがお好きなのでしょう?」
「なっ……!」
エリナは、顔を真っ赤にして否定しようとした。
あなたなんかに何がわかるの!と逆上しそうになった。だが
「私がユージ様に邪念を送っていた時、エリナ様は頻繁にユージ様を訪ねてこられました」
そう言われて、エリナの顔はさらに赤くなる。
客観的に考えると、頻繁に剣術の練習を見に行くのは好意があるからだろう。
だとすると、周りの人にもバレバレだった……?
だって、カイウス様への恨みで凝り固まっていたこいつにもバレてるんだから……。
「リィナ様によってユージ様が正気に戻ったことを気にしているのでは?」
こいつ、どこまで私の気持ちを理解してしまってるんだ!とエリナは歯噛みした。
生かしておけん!とまで思ったが、今のエリナでは太刀打ちできる相手ではなかった。
そして、オルゲンはリィナの召喚について口を開く。
傷を負った直後は自分で治癒魔法を施していたが、やがて気を失ってしまった。
そのままだと危なかったが、優秀な治癒魔法師たちの尽力によって峠は越している。
その傷が、ユージによってつけられたものだということもショックだった。
だが、それ以上にショックだったのが、リィナの声でユージが正気に戻ったことだった。
エリナ自身は、声をかける余裕もなかった。
体当たりをしてリィナがカイウス様を庇える位置に移動する時間を稼いだだけで、すぐに蹴飛ばされたのだ。
それでも、ユージが自分に向けた目には敵意しかなかった。
躊躇なく内蔵を破壊された。
でもリィナには……。
ここには多少の誤解がある。
雄二は敵だと指定されたカイウスに対しては普段の数倍の強さを発揮するが、それ以外のエリナやリィナには通常の雄二の強さしか発揮できない。
最近剣術を習っている雄二はエリナより強く、リィナとは互角なのだ。
それを知らないエリナは、カイウス様を圧倒するユージがリィナに本気を出すことを躊躇しているように思えた。
どっちにしても、それは「嫉妬」だった。
大事な妹に嫉妬をするなんて、とエリナは自分が情けなくなった。
ユージ様よりリィナが大事なんて言っておきながら、このざまだ。
「誰かに取られるかも」というリィナの言葉が、エリナの胸に響く。
ユージ様に必要なのはリィナなのでは……そう考えると、エリナの胸は鉛を打ち込まれたようになる。
リィナもユージ様とならきっと幸せになるだろう。
そんなことを考えれば考えるほど、エリナの瞳からは涙が溢れてくるのだ。
こんな姿をリィナに見せられない。
きっと私を心配してくれているだろう、と思いながらも、エリナはリィナに会うことができずにいた。
「ユージ様も、きっと狭量な私に愛想を尽かしているでしょうね」
エリナは、自嘲気味にため息をついた。
ユージが自分を蹴ったのは確かだが、間違いなく本人の意思ではない。
操られていただけなのだ。
それなのに、自分はユージに会おうとしていない。
ユージ様は、自分が怒っているからだと思うだろう。
「操られていてどうしようもなかっただけなのに、エリナは自分を許してくれない」、とユージ様は思っているに違いない。
嫌われても仕方がない……とエリナは思った。
その思考も、エリナの瞳を濡らした。
やっぱり死んでしまえばよかった、と思うほど、今のエリナは沈み込んでいた。
カイウス様に迷惑をかけ、見舞いたいというリィナやユージ様を拒絶し、一人でただ生を貪っている自分は何なのだろう、と考えずにいられない。
***
そんなエリナの部屋を、カイウス様が訪れた。
いつもの治癒魔法師とは違う人物を連れて。
その人物を見た途端、エリナの眉が逆立ち、ベッドから起き上がろうと身をよじる。
そこにいたのは、オルゲンだった。
「エリナ、落ち着きなさい」
カイウスが諭すように言う。
「でも……!!」
エリナの反応は当然のものだ。
カイウス様を殺そうとし、自分がこんな傷を負う原因を作った男。
——ユージ様を操った男。
こいつさえいなければ、今こんなことになっていないのに。
憎しみの気持ちが湧いてくる。
そんなエリナに、オルゲンは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。エリナ様」
「エリナ、この者はオルゲンと言うのだが、かなり強い魔力を持っている。召喚魔法に対する罰則も定められていない。そして何より、改心してこの町に尽くしたいと言っている。エリナには申し訳ないが、私はこのオルゲンを迎え入れることにした」
「……!!」
エリナは、自分が蔑ろにされているように感じた。
優秀な者がいれば、自分は切り捨てられるのだ。
「左様で……ございますか」
傷が治ったらここを出て行こう、とエリナは思った。
そう思いながら、瞳に涙が滲む。
その時、オルゲンが信じられないことを言った。
「私とエリナ様、二人きりにさせてもらえませんか」
「絶対嫌!」と言おうとしたのに、カイウス様はすぐにそれを聞き入れてしまった。
私が殺されてもいいのですわね、とエリナは寂しく思った。
オルゲンは、そんなエリナの腹に手をかざした。
「ちょっと!何すんの!やめてよ!」
普段の言葉遣いも忘れるほどの嫌悪感を、エリナは示した。
だが、その治癒魔法は今までの誰から受けたものより優しく効き目のあるものだった。
内臓が整っていくのが、自分でもわかる。
今まで専門の治癒魔法師が何人も治そうとしてくれたが、ここまでの効果はなかった。
この男は一流の魔術師だ、と認めざるを得なかった。
そんなエリナに、オルゲンは自分の身の上を語った。
父がカイウスの父に殺されたこと。その復讐で迷惑をかけてしまったこと。
カイウスの度量に惹かれたこと。
そんなことを聞かされても……とエリナが思った時、オルゲンが言った。
「エリナ様は、ユージ様のことがお好きなのでしょう?」
「なっ……!」
エリナは、顔を真っ赤にして否定しようとした。
あなたなんかに何がわかるの!と逆上しそうになった。だが
「私がユージ様に邪念を送っていた時、エリナ様は頻繁にユージ様を訪ねてこられました」
そう言われて、エリナの顔はさらに赤くなる。
客観的に考えると、頻繁に剣術の練習を見に行くのは好意があるからだろう。
だとすると、周りの人にもバレバレだった……?
だって、カイウス様への恨みで凝り固まっていたこいつにもバレてるんだから……。
「リィナ様によってユージ様が正気に戻ったことを気にしているのでは?」
こいつ、どこまで私の気持ちを理解してしまってるんだ!とエリナは歯噛みした。
生かしておけん!とまで思ったが、今のエリナでは太刀打ちできる相手ではなかった。
そして、オルゲンはリィナの召喚について口を開く。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる