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「あまり、無理をなさりすぎたのです」
イムラが言った。
今もどこか影のような雰囲気があるのは、黒っぽい地味な服装、両肩に垂らした黒い髪、黒い眼の色のせいばかりではなかった。
面差しは若く、とりたてて言うほどの特徴もなかったが、妙に落ち着きはらったところがあり、その表情からは彼が何を考えているかわかりはしない。
影のように、見えはするがとらえどころのない、そんな人間に思われた。
「船旅は長いものでした」
イムラは言葉を継いだ。
「しかし、彼も満足なさったでしょう。思いのほか!早くあなたに会うことができたのですから」
イムラとテーブルを挟んで座っていたアロウィンは、まるで落ち着けずに膝の上に置いた手を組んだりほどいたりしていた。
丸い窓からは暮れ時の陽光が斜めに射し込み、木目のあらわになったテーブルを横切っている。船室はたゆたう波にあわせて軽いきしみの音をたてていた。
アロウィンは、頭の中をめぐるましく駆けまわっている様々な想いを整理づけようと努力した。
彼が何者なのか知ることが先決だ。
自分の運命の一端を握っているのはどうやら確かなことのようだけれども。
「いったい、何がどうなっているんです」
アロウィンはとうとう頭を上げた。
「あの人は誰で、あなたがたはなぜぼくのことを知っているんです」
「あなたも、彼を知っていますね」
反対にイムラが尋ねた。
「ええ、見ました。夢の中で何度も。だけど答えになっていない。なぜ?」
「血のせいです、アロウィン」
「血?」
「彼はシャデル・シス・マダ。目覚めたら何もかも話してくださるはず」
イムラが語り終わらないうちに、シャデルが隣の寝室から厚いカーテンをめくって現れた。
「シャデル」
イムラは気づかわしげに声をかけた。
「まだ休んでいられた方が」
「いや。もう大丈夫だ」
シャデルはイムラを制し、彼の隣の椅子に腰を下ろした。
両手をテーブルの上で組み、アロウィンの方に顔を近づけてあっさりと言う。
「おまえは、わたしの弟だ、アロウイン」
「なんですって!」
アロウィンは、あやうく椅子から立ち上がりそうになって叫んだ。
「もっとも腹違いだがな。王には正妃であるわたしの母の他に、もう一人妻がいた。それがアイメだ」
シャデルはアロウィンの当惑を無視し、椅子に深くもたれて話し出した。
「王はことのほかアイメを愛し、おまえが生まれた。ところが、わたしの母は嫉妬深い女でな、おまえたちを殺そうとした。アイメはおまえを連れてこの島に逃げた。わたしは、おまえを迎えに来たわけさ、アロウィン。王の子はわたしとおまえしかいない。〈王を継ぐ者〉には当然おまえがなるべきなんだ」
「だって、あなたがいる!」
アロンは、こんどこそ椅子から飛び上がって叫んだ。
自分が王の子であることすら信じられないのに、〈王を継ぐ者〉など、とっぴょうしもなさすぎる。
シャデルは口の端をゆがめてちょっと笑い、自分の髪をつまみ上げた。
「わたしが生まれた時、医者は言ったそうだ。成人するまで生きられないだろうと」
アロウィンは言葉を失った。
「医者の予言は半分はずれた。わたしは、なんとか成人できたからな。だが、もう長くはないだろう。王の子は、じきにおまえだけになる」
「そんな」
その時、今までひっそりと座っていたイムラが立ち上がった。
アイメが来たのだ。
船室の入り口に立ったアロウィンの母は、着ているものこそ島の貫頭衣とスカートだったが、背筋をまっすぐに伸ばし、アロウィンがこれまでに見たこともないほど貴然としていた。
「この日がくることを前から知っていたような気がしますわ、シス・マダ」
母は、シャデルに一礼してから言った。
「ですが、あなたがじきじきに来て下さるとは思ってもみませんでした」
「船旅がしてみたかったのさ」
シャデルは微笑した。
「それと、あなたにわびが言いたかった。王妃は、健康な子供を産んだあなたが憎かったんだ」
アイメは静かに頷いた。
「あなたの息子に、何もかも話してしまったよ、アイメ」
「王の息子でもありますわ」
アイメは淋しげに微笑みを返した。
「これからのことは、アロウィンが決めるでしょう」
昼間のどんよりとした天気とはうらはらに、夜空にはくまなく星々がちらばっている。
アロウィンは磯辺の岩に座り、暗い海を眺めていた。
ひんやりとした夜気にあたって、ようやく今日一日のほてりが冷めてきたような気がした。
自分は、アロウィン・アリ・マダと言うわけだ。アリ・マダ。つまり王の次男という意味だ。
そして、これからどうすべきか。
アロウィンは何度目かの問いを自分にくりかえした。もはやウェストファーレンは彼方の土地ではない。手を伸ばせば、すぐとどくところにそれはあるのだ。あまりに、唐突すぎるほどに。
〈王を継ぐ者〉だって。
なにかの冗談だと笑い飛ばしてみる。そうでもしなければ、怖ろしくて、いてもたってもいられない。たしかに、ウェストファーレンに行くことは夢だった。だが、こんな形でしめされるとは。
アロウィンは手元にあった小石を、海にむかって放り投げた。月明かりに照らされて銀粉をまぶしたようにきらめく海は、波音とともにこともなく石を呑み込んだ。
もう一度石を投げようとしたアロウィンは、ふと手を止めた。足場の悪い岩をつたって、シャデルがこちらに近づいて来る。
「シス・マダ」
アロウィンは驚いて声をかけた。
「休んでいなくて、いいんですか」
「ああ」
シャデルは岩に座り、夜空をあおいだ。
「いい月夜だな」
彼の白い横顔は、そのまま月の光に溶け込みそうだった。
「レヴァイアに来るか? アロウィン」
シャデルは言った。アロウィンは小石を手の中でもてあそんだ。
「ぼくは、まだわかりません。レヴァイアにはほかにも〈王を継ぐ者〉にふさわしい人がいるんじゃないですか」
「いるさ。王位が空くのを心待ちにしている連中がな」
「だったら、なんでぼくが」
「早い話が、わたしの意地だ」
シャデルは軽い笑い声をたてた。
「わたしには、残すものがなにもない」
「その人たちの鼻をあかすために」
言ってしまってから、はっとした。
「すみません」
「その通りだ、気にするな」
シャデルは、あっさりと言った。
「それから、おまえはわたしの夢を見たそうだな、アロウィン」
「ええ」
「それは、おまえの中にあるクラウトの血のせいだ」
「クラウト?」
「ウェストファーレンの二番目に古い種族だ。今では純血種はどこにいるのかもわからないほどわずかな数になっているが、レヴァイアの王族はいくらかその血をひいている。彼らには魔力があった。おまえがわたしの予知夢を見たのもその血のなごりだろう」
「ぼくに、魔力?」
アロウィンはあっけにとられて言った。
「おどろくことはないさ」
シャデルは微笑んだ。
「その昔、ウェストファーレンに君臨していたクラウトの〈力〉に比べたら、ごくちっぽけなものだ。普通の人間よりも、いくらか勘がいいにすぎない。だが、その勘、漠とした予見のようなものも、わたしがここに来た理由のひとつなんだ、アロウィン。それは、長い間わたしにささやきかけてきた。おまえをレヴァイアに連れ戻すべきだとな」
「どういうことなんでしょう」
「さあ、わからない」
シャデルは夜風にほつれた前髪をかきあげると、軽く腕を組んで海を見やった。
「あるいは、レヴァイアがおまえを必要としているのかもしれない。わたしには何も言えない。それを確かめるのはおまえだろう、アロウィン」
アロウィンはゆっくりとうなずいた。
背後で人の気配がした。
振り向いたアロウィンは、岩陰に隠れてこちらを見ているイリュの大きな瞳に出会った。
声をかける間もなく、イリュは身をひるがえして駆け去った。
追いかけることはできなかった。アロウィンははじめて胸ににぶい痛みを感じながら、彼女の後ろ姿を見送った。
イムラが言った。
今もどこか影のような雰囲気があるのは、黒っぽい地味な服装、両肩に垂らした黒い髪、黒い眼の色のせいばかりではなかった。
面差しは若く、とりたてて言うほどの特徴もなかったが、妙に落ち着きはらったところがあり、その表情からは彼が何を考えているかわかりはしない。
影のように、見えはするがとらえどころのない、そんな人間に思われた。
「船旅は長いものでした」
イムラは言葉を継いだ。
「しかし、彼も満足なさったでしょう。思いのほか!早くあなたに会うことができたのですから」
イムラとテーブルを挟んで座っていたアロウィンは、まるで落ち着けずに膝の上に置いた手を組んだりほどいたりしていた。
丸い窓からは暮れ時の陽光が斜めに射し込み、木目のあらわになったテーブルを横切っている。船室はたゆたう波にあわせて軽いきしみの音をたてていた。
アロウィンは、頭の中をめぐるましく駆けまわっている様々な想いを整理づけようと努力した。
彼が何者なのか知ることが先決だ。
自分の運命の一端を握っているのはどうやら確かなことのようだけれども。
「いったい、何がどうなっているんです」
アロウィンはとうとう頭を上げた。
「あの人は誰で、あなたがたはなぜぼくのことを知っているんです」
「あなたも、彼を知っていますね」
反対にイムラが尋ねた。
「ええ、見ました。夢の中で何度も。だけど答えになっていない。なぜ?」
「血のせいです、アロウィン」
「血?」
「彼はシャデル・シス・マダ。目覚めたら何もかも話してくださるはず」
イムラが語り終わらないうちに、シャデルが隣の寝室から厚いカーテンをめくって現れた。
「シャデル」
イムラは気づかわしげに声をかけた。
「まだ休んでいられた方が」
「いや。もう大丈夫だ」
シャデルはイムラを制し、彼の隣の椅子に腰を下ろした。
両手をテーブルの上で組み、アロウィンの方に顔を近づけてあっさりと言う。
「おまえは、わたしの弟だ、アロウイン」
「なんですって!」
アロウィンは、あやうく椅子から立ち上がりそうになって叫んだ。
「もっとも腹違いだがな。王には正妃であるわたしの母の他に、もう一人妻がいた。それがアイメだ」
シャデルはアロウィンの当惑を無視し、椅子に深くもたれて話し出した。
「王はことのほかアイメを愛し、おまえが生まれた。ところが、わたしの母は嫉妬深い女でな、おまえたちを殺そうとした。アイメはおまえを連れてこの島に逃げた。わたしは、おまえを迎えに来たわけさ、アロウィン。王の子はわたしとおまえしかいない。〈王を継ぐ者〉には当然おまえがなるべきなんだ」
「だって、あなたがいる!」
アロンは、こんどこそ椅子から飛び上がって叫んだ。
自分が王の子であることすら信じられないのに、〈王を継ぐ者〉など、とっぴょうしもなさすぎる。
シャデルは口の端をゆがめてちょっと笑い、自分の髪をつまみ上げた。
「わたしが生まれた時、医者は言ったそうだ。成人するまで生きられないだろうと」
アロウィンは言葉を失った。
「医者の予言は半分はずれた。わたしは、なんとか成人できたからな。だが、もう長くはないだろう。王の子は、じきにおまえだけになる」
「そんな」
その時、今までひっそりと座っていたイムラが立ち上がった。
アイメが来たのだ。
船室の入り口に立ったアロウィンの母は、着ているものこそ島の貫頭衣とスカートだったが、背筋をまっすぐに伸ばし、アロウィンがこれまでに見たこともないほど貴然としていた。
「この日がくることを前から知っていたような気がしますわ、シス・マダ」
母は、シャデルに一礼してから言った。
「ですが、あなたがじきじきに来て下さるとは思ってもみませんでした」
「船旅がしてみたかったのさ」
シャデルは微笑した。
「それと、あなたにわびが言いたかった。王妃は、健康な子供を産んだあなたが憎かったんだ」
アイメは静かに頷いた。
「あなたの息子に、何もかも話してしまったよ、アイメ」
「王の息子でもありますわ」
アイメは淋しげに微笑みを返した。
「これからのことは、アロウィンが決めるでしょう」
昼間のどんよりとした天気とはうらはらに、夜空にはくまなく星々がちらばっている。
アロウィンは磯辺の岩に座り、暗い海を眺めていた。
ひんやりとした夜気にあたって、ようやく今日一日のほてりが冷めてきたような気がした。
自分は、アロウィン・アリ・マダと言うわけだ。アリ・マダ。つまり王の次男という意味だ。
そして、これからどうすべきか。
アロウィンは何度目かの問いを自分にくりかえした。もはやウェストファーレンは彼方の土地ではない。手を伸ばせば、すぐとどくところにそれはあるのだ。あまりに、唐突すぎるほどに。
〈王を継ぐ者〉だって。
なにかの冗談だと笑い飛ばしてみる。そうでもしなければ、怖ろしくて、いてもたってもいられない。たしかに、ウェストファーレンに行くことは夢だった。だが、こんな形でしめされるとは。
アロウィンは手元にあった小石を、海にむかって放り投げた。月明かりに照らされて銀粉をまぶしたようにきらめく海は、波音とともにこともなく石を呑み込んだ。
もう一度石を投げようとしたアロウィンは、ふと手を止めた。足場の悪い岩をつたって、シャデルがこちらに近づいて来る。
「シス・マダ」
アロウィンは驚いて声をかけた。
「休んでいなくて、いいんですか」
「ああ」
シャデルは岩に座り、夜空をあおいだ。
「いい月夜だな」
彼の白い横顔は、そのまま月の光に溶け込みそうだった。
「レヴァイアに来るか? アロウィン」
シャデルは言った。アロウィンは小石を手の中でもてあそんだ。
「ぼくは、まだわかりません。レヴァイアにはほかにも〈王を継ぐ者〉にふさわしい人がいるんじゃないですか」
「いるさ。王位が空くのを心待ちにしている連中がな」
「だったら、なんでぼくが」
「早い話が、わたしの意地だ」
シャデルは軽い笑い声をたてた。
「わたしには、残すものがなにもない」
「その人たちの鼻をあかすために」
言ってしまってから、はっとした。
「すみません」
「その通りだ、気にするな」
シャデルは、あっさりと言った。
「それから、おまえはわたしの夢を見たそうだな、アロウィン」
「ええ」
「それは、おまえの中にあるクラウトの血のせいだ」
「クラウト?」
「ウェストファーレンの二番目に古い種族だ。今では純血種はどこにいるのかもわからないほどわずかな数になっているが、レヴァイアの王族はいくらかその血をひいている。彼らには魔力があった。おまえがわたしの予知夢を見たのもその血のなごりだろう」
「ぼくに、魔力?」
アロウィンはあっけにとられて言った。
「おどろくことはないさ」
シャデルは微笑んだ。
「その昔、ウェストファーレンに君臨していたクラウトの〈力〉に比べたら、ごくちっぽけなものだ。普通の人間よりも、いくらか勘がいいにすぎない。だが、その勘、漠とした予見のようなものも、わたしがここに来た理由のひとつなんだ、アロウィン。それは、長い間わたしにささやきかけてきた。おまえをレヴァイアに連れ戻すべきだとな」
「どういうことなんでしょう」
「さあ、わからない」
シャデルは夜風にほつれた前髪をかきあげると、軽く腕を組んで海を見やった。
「あるいは、レヴァイアがおまえを必要としているのかもしれない。わたしには何も言えない。それを確かめるのはおまえだろう、アロウィン」
アロウィンはゆっくりとうなずいた。
背後で人の気配がした。
振り向いたアロウィンは、岩陰に隠れてこちらを見ているイリュの大きな瞳に出会った。
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