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しおりを挟む大地が高いと、星々はこんなにも近くに見える。
メダリアの山並の間の降るような星空をあおぎながら、アロウィンは〈緑人〉の天幕の前にたたずんでいた。
アロウィンとライランに〈力〉が目覚めたのは、〈彼〉の〈力〉に触発されたためだろうとイムラムが言っていた。今もって信じられないことだった。自分はどう考えても今まで通りの自分だし、これからも変わることがないように思われる。
シャデルが言っていたのは、このことなのだろうか?
やはりこのような星の下でシャデルは言ったのだ。
レヴァイアがアロウィンを必要とする時が来るかもしれない、と。
だとすれば、自分は戦わなければいけない。
どんなことをしても。
「まず、フフルの所に戻りましょう」
そうイムラは言ったのだった。
「わたしの記憶が正しければ、インダインはネイクロートとグララ族の集落を結ぶ延長線上にあります。フフルにも急を告げなければなりません。レヴァイア王軍が真っ先に戦いを挑むのは砂漠の部族でしょうから」
「もしフフルたちも〈彼〉に支配されているとしたら? 都よりもインダインに近いはずだよ、グララ族の居場所は」
「それはありえないと思いますよ」
イムラはにこりと笑ったものだ。
「〈彼〉が支配できるのは、意志の弱い者たちだけです。砂漠の民は厳しい自然と隣り合わせですからね、心が強くなければ、とても生きていけませんよ」
確かにイムラの言う通りだろう、とアロウィンは思った。
でも、宮廷人たちは、やすやすと〈彼〉の手中に落ちたのだ。
アウィロンはかたわらにぼんやりと立っているライランに目を向けた。夜目にも彼の顔は青ざめて見えた。
無理もない。捨てて来たとはいえ、王宮には、彼の父と兄がいる。
「あまり、いい気持ちはしないね、ライラン。王宮が今どうなっているか考えると」
ライランはアロウィンを見返した。
「無理しなくてもいいんだぜ、アロン。あそこにいるのは、あんたにざまみろと思われてもしかたない連中ばかりなんだ」
「でも、ジュダインは大丈夫だと思うよ」
「あたりまえさ!」
ライランは声高に言った。
「あの人は、誰にも支配されない」
「わかるよ」
「おれは、いつも彼に押し潰されてきたんだ、アロン。彼はできのいい兄貴で、おれはできの悪い弟だった。父親があんな調子だったから、ジュダインはずいぶん小さい時からおれの親がわりになろうとしていたよ。母さまは、おれを産んでじきに死んでしまったしな」
「……」
「ジュダインは、おれの気持ちなど、かまいはしなかった。何か一つのことがある。すると、彼はきまってこう言うんだ。わたしはこう思う、だからおまえもこうしなければならない。だけど、おれにだって自分の意志ってものがあるさ。そんなジュダインが嫌でおれは──ちくしょう!」
ライランはいらだたしそうに髪の毛をかきあげた。
「なんだってジュダインのことばかり。おれは!」
アロウィンはそっとライランの肩に手をのせた。
「きみは、ジュダインのことが心配なんだよ、ライラン」
「そんなことはない」
「ジュダインときみは兄弟だ。心配しない方がおかしいよ」
「彼は王を殺したんだぜ」
「そうだね」
アロウィンはうつむき、つま先でしきりに草を掘り起こした。
「でも、ぼくの憎しみはきみの憎しみじゃない。意地を張るのはやめてくれよ、ライラン。かえって辛くなる」
「アロン」
「それに、ジュダインもこの事態をなんとかしようとしているはずだよ。今のところ、ぼくたちの目的は同じなんだと思う」
「あんたは意地がなさすぎるんだ」
ライランはきっと眉を上げて叫んだ。
「ずいぶんと寛大になったもんだな、アロウィン。レヴァイアのために自分の復讐を忘れるつもりか? きれいごとを並べるやつは、おれは大嫌いだ。ジュダインだって、大嫌いだ!」
ライランはくるりと背を向けて駆け出した。
アロウィンはひとり、ため息をついた。
ジュダインへの復讐を、もちろん忘れたわけではなかった。
でも、とアロウィンは思った。
自分にはできない気がする。
〈彼〉のように、憎しみで盲目になることなんて。
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