【完結】お人好し()騎士と偽カタブツ侍女

日比木 陽

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「セド…でも私の実家の事情は分かってくれているのでしょう…?持参金も…」



アメリーの不安げな声を聞いて、セドリックはぐっと何かを堪える様な表情になった。



「…持参金…。…俺は嫡男ではないから不要だ。逆にアメリーに爵位を継げぬ男に嫁いで来てくれと乞う側の男だよ。」



セドリックの言葉に目を見張る。



アメリーは、数年前の傷を引きずって、自分は他の令嬢と同じ条件では嫁げないという劣等感でいっぱいになっていたのだ。



「セド…」




セドリックは子爵家の子息だが、確かに兄が2人居る。
継ぐ爵位はなく、自立をすれば子爵家を名乗れぬ存在だった。





――アメリーにも、アレックスと別れた際に、平民と結婚すればいいのでは?と考えた事もあった。
だがそれでは王宮侍女として雇い続けてもらえないであろうと断念したのだった。


セドリックは貴族令息で王宮に勤める騎士、その妻であれば引き続き同じ条件で働けるのだろう。




アメリーはどこかでセドリックとの結婚を夢のように憧れながら、現実では全く想像すらしていなかったことを自覚してしまう。




(そんなこと、考えられなかった…でも、結婚しても実家への仕送りは絶てない…まだあの子が卒業するまでは…)




「…アメは弟の学費を払い続けてる、という事で合っている?」

「…えぇ」



セドリックとの結婚への障害がないのかもしれないと浮足立ちたい気持ちを必死で抑えている。



「…アメ、残りの学費の分は、今回の特別任務を受ける事で貯まったんだ。だから、それを充ててほしい。…この1年プレゼントも出来ずにすまなかった。」



「!」



アメリーは驚き固まっている。



「付き合うまでに貯めていた金でこの家も買った。貴族に嫁ぐ様な環境を整えられていなくて申し訳ないが…」
「そんな!」


アメリーが慌てて否定する。



「セドリック…どうしてそこまで…」

アメリーは昨日からの目まぐるしい変化で、少し呆然としていた。


…別れていなかった、勘違いだった、…良かった。
…セドがまさか二人の新居をずっと探していたなんて。
…私も結婚ができる?
…それどころか、あの子の学費まで?本当にそんなことをしてもらってもいいのだろうか?
…また、一緒に眠れて、…嬉しい



頭の中で色んな感情がない交ぜになって、アメリーは固まってしまう。



「アメリーは凄く聡いのに、どうしてそんな単純明快な事の答えが浮かばないんだ?」


ふ、と愛おし気に笑ったセドリックの笑顔が、…アメリーの胸を衝いた。


「…早く俺のものにしたくて堪らない。…愛している。それ以外にないだろう?」





アメリーの頬に涙が伝った。


後から後から溢れるそれが、セドリックは堪らなく愛しかった。


その腕に搔き抱いて、アメリーの髪を優しく撫でる。



「せ、ど…ッ」



嗚咽が堪えきれず、セドリックの胸にしがみついて泣く彼女が、どうか家の責任という肩の荷を降ろして、ひとりのか弱い女として泣けていますようにと願う。


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