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本編
537.忘れていた
本日はソルお爺さんから製麺機ができたと連絡が来たので、受け取りに行ってきたところだ。
その帰り道、僕達は街をぶらぶらとしていたのだが――
(巧さん、酷い!)
(ごめん、すっかり忘れてたわ~)
王都に戻って来てから神殿に行っていないことを思い出して、僕達は慌てて神殿にやって来た。
だが、シルにはひと言目から罵倒された。
(船でやり取りしたから、会った気でいたよ)
(会ってませんからね!)
(そうなんだよな~)
シルから手紙が届いただけ、会っていなかったんだよ。
(あ、そうです。具だくさんのご飯もスープも美味しかったですし、チーズケーキとティラミスっていう甘味も美味しかったです! 特に甘味はマリアノーラ様が喜んでいましたよ)
(ん? ご飯とスープは眷属に配るって言っていなかったか?)
(ええ、そうですよ。でも、味見だけはさせてもらいました。だって、僕が食べていないものを眷属達は受け取りづらいですからね)
(それもそうか?)
横取りしたわけではなさそうだな。
(気に入ってくれたのなら、また暇な時にでも眷属の人達に配るものを用意するよ)
(わ~、それは嬉しいです。ぜひお願いします! それで、追加でお礼の品を贈るって話なんですが、欲しいものは決まりましたか?)
(あ~、それが……考えていなかったよ)
そういえば、追加の話も出ていたか? 転移の魔道具を貰った時点で満足していたよ。
(えぇ~、何かないんですか?)
(ん~、転移の魔道具で充分すぎる対価だと思うんだけど……)
(いえいえ、少ないですよ! 転移の魔道具は手に入れようとすればできるものですけど、巧さんの料理は滅多に手に入らないものなんですから!)
……僕の料理が稀少品扱いになっていないか? いやまあ、シルからしたら手に入れにくいものではあるとは思うが……それでいいのかな?
(でも、本当に思いつかないんだよ)
(あ、それでは【雷魔法】とかはどうですか?)
(【雷魔法】? へぇ~、それはいいかも!)
新しい魔法属性か~。それはちょっと嬉しいかも。
スタンガンみたいなビリッとして人を気絶させるくらいの威力を使いこなせるようになれば、対人戦には使い勝手は良さそうだ。ほら、威力を間違えて魔物を消し炭にするのはまだいいが、盗賊とかでも人族を消し炭にするのは避けたいのでな。
(でも、そんなにほいほい魔法を付与? してもらってもいいものなのか?)
僕は後から水、火、土魔法を使えるようにしてもらっている。
だが、普通はこんなにも魔法属性が増えたりはしないだろう。
(スキルは適性があれば、開花するものですから問題ないですよ。それこそ努力で取得する人もいれば、何らかの拍子で取得する人もいますからね)
(何らかの拍子で魔法が使えるようになったりするのか?)
(はい! 例えばですね……魔物に襲われそうになっていた子供が、たまたま通りかかった巧さんに助けられる。その時使った巧さんの風魔法が格好良くてとても憧れる。そうしたら、いつの間にか風魔法が使えるようになっていた……なんて話だってあり得ることですからね)
(へぇ~)
憧れから使えるようになるってこともあるんだな~。
(あとはそうですね~……火事で死にそうになって【水魔法】が発動するとかもありますよ)
(なるほど、切っ掛けにもいろいろあるってことなんだな)
(そうですそうです。だけど、適性と資質がまったくないのはどうしようもありませんけどね。【剣術】スキルでしたら、剣を持っただけで取得する人、数回剣を振るってみて取得する人、何年も修行をしてやっと取得する人と、何年も修行しても取得できない人と……差がはっきりと出るスキルもあります)
剣を持っただけでスキルを取得するのは、かなりの才能の持ち主ってことか? でも、一番才能があるのは、生まれた時からスキルを持っていることか?
(じゃあ、アレンとエレナも他の魔法を使えるようなったりするのかな~?)
アレンとエレナは才能の塊のような子達だし、そのうちいろいろ覚えそうだ。
(あ~…………)
(ん?)
子供達が将来いろんな魔法を使っているところを想像していると、シルが渋い声を出す。
(あの子達に関しては、身体を使うスキルはどんどん覚えるかもしれませんが、魔法はせいぜい【氷魔法】くらいですかね~)
(え、そうなのか!?)
シルの言葉に、僕は驚いた。
(ほら、あの子達は水属性の才能が抜群というか、占めているというか……他の属性が入り込む余地がないほどなんですよね~)
水神様の子供だから、水属性特化ということか?
(それを言うなら、僕はどうなんだ? 風属性特化じゃないのか?)
そういう理屈だと、僕は風神の眷属なのだから風属性特化になるはずだ。
そうなると、風魔法以外が使えるのはおかしい。
(巧さんはほら、称号がいろいろとありますからね。可能性は無限大です!)
(……称号か~)
そういえば、称号があると適性が増えたり、熟練度が鍛えやすかったりするんだったか?
==========
【称 号】異世界転生者 創造神マリアノーラの祝福を受けし者
風神シルフィリールの友人 風神シルフィリールの甥っ子
火神サラマンティールの楽しみ 土神ノームードルの加護を受けし者
救済者 下級迷宮を制しし者
魔物の契約者 Aランクの冒険者
水竜王の加護を受けし者 食の伝道師
中級迷宮を制しし者 刹那
神を餌付けし者
==========
そういうことなら、僕は万遍なく称号があるよな~。
というか、改めて見ると多いな! そして、突っ込みどころ満載。
って、おい! 【風神シルフィリールの甥っ子】って何だよ! いやまあ、前にシルと水神様は兄弟のようなものだから、シルにとってアレンとエレナは甥っ子姪っ子。僕はその兄だから、僕も甥っ子って話をしたけどさ~。
それで称号になるってどういうことだよ! 絶対にシルが意図的に増やしたよな?
(ははは~、巧さんは、僕の家族のようなものですから!)
(……だから、心を読むなよ)
称号の削除ができるかどうかは知らないが、既に手遅れのような気がする。とりあえず、放置しておこう。ただ、ギルドカードの表示だけは気をつけよう。
(消せません。というか、消しませんので、カードの表示には気をつけてください)
(だから、心を読むなよ)
(ではでは、【雷魔法】を付与しておきますね!)
心を読む云々は無視され、さくさくと魔法の付与がされたようだ。
(シル、ありがとう)
(いえいえ、これはお礼ですから)
(それでもだよ。あ、次の食べもののリクエストはあるか? ついでだから、今聞くよ?)
(えっと、その……まだ決まっていないんですよ。……僕個人的には麺料理が食べてみたいんですけど、こればっかりはマリアノーラ様達を無視して決めるわけにはいかないんで……)
言葉尻のほうでシルの声が震えていた。他の神様達の意見を無視したら……どうにかなるのかな?
(今聞くのは、定期的なリクエストから外すから、他の神様達と決めたらその時また言って)
(いいんですか!?)
(いいよ。で、麺料理の何がいいんだ?)
(何でも良いです! どれも食べたことのない料理ですからね!)
最近、僕が麺料理に嵌っていることもしっかり把握しているようだな。
(了解。近いうちに作って送るよ)
(ありがとうございます!)
料理を送る話をしていると、シルはいつも嬉しそうだ。
何かの間違いではないかと疑いたくなる称号の【神を餌付けし者】だが、シルの様子を見る限り間違いではないんだな~……思い知らされてしまうんだよな~。
(じゃあ、そろそろ帰るな)
(わかりました。でも、寂しいんで会いに来るのは忘れないでくださいね)
(ははは~、努力するよ)
神殿通いって、どうしても忘れてしまうんだよな~。
今度、何か対策を考えてみよう。
その帰り道、僕達は街をぶらぶらとしていたのだが――
(巧さん、酷い!)
(ごめん、すっかり忘れてたわ~)
王都に戻って来てから神殿に行っていないことを思い出して、僕達は慌てて神殿にやって来た。
だが、シルにはひと言目から罵倒された。
(船でやり取りしたから、会った気でいたよ)
(会ってませんからね!)
(そうなんだよな~)
シルから手紙が届いただけ、会っていなかったんだよ。
(あ、そうです。具だくさんのご飯もスープも美味しかったですし、チーズケーキとティラミスっていう甘味も美味しかったです! 特に甘味はマリアノーラ様が喜んでいましたよ)
(ん? ご飯とスープは眷属に配るって言っていなかったか?)
(ええ、そうですよ。でも、味見だけはさせてもらいました。だって、僕が食べていないものを眷属達は受け取りづらいですからね)
(それもそうか?)
横取りしたわけではなさそうだな。
(気に入ってくれたのなら、また暇な時にでも眷属の人達に配るものを用意するよ)
(わ~、それは嬉しいです。ぜひお願いします! それで、追加でお礼の品を贈るって話なんですが、欲しいものは決まりましたか?)
(あ~、それが……考えていなかったよ)
そういえば、追加の話も出ていたか? 転移の魔道具を貰った時点で満足していたよ。
(えぇ~、何かないんですか?)
(ん~、転移の魔道具で充分すぎる対価だと思うんだけど……)
(いえいえ、少ないですよ! 転移の魔道具は手に入れようとすればできるものですけど、巧さんの料理は滅多に手に入らないものなんですから!)
……僕の料理が稀少品扱いになっていないか? いやまあ、シルからしたら手に入れにくいものではあるとは思うが……それでいいのかな?
(でも、本当に思いつかないんだよ)
(あ、それでは【雷魔法】とかはどうですか?)
(【雷魔法】? へぇ~、それはいいかも!)
新しい魔法属性か~。それはちょっと嬉しいかも。
スタンガンみたいなビリッとして人を気絶させるくらいの威力を使いこなせるようになれば、対人戦には使い勝手は良さそうだ。ほら、威力を間違えて魔物を消し炭にするのはまだいいが、盗賊とかでも人族を消し炭にするのは避けたいのでな。
(でも、そんなにほいほい魔法を付与? してもらってもいいものなのか?)
僕は後から水、火、土魔法を使えるようにしてもらっている。
だが、普通はこんなにも魔法属性が増えたりはしないだろう。
(スキルは適性があれば、開花するものですから問題ないですよ。それこそ努力で取得する人もいれば、何らかの拍子で取得する人もいますからね)
(何らかの拍子で魔法が使えるようになったりするのか?)
(はい! 例えばですね……魔物に襲われそうになっていた子供が、たまたま通りかかった巧さんに助けられる。その時使った巧さんの風魔法が格好良くてとても憧れる。そうしたら、いつの間にか風魔法が使えるようになっていた……なんて話だってあり得ることですからね)
(へぇ~)
憧れから使えるようになるってこともあるんだな~。
(あとはそうですね~……火事で死にそうになって【水魔法】が発動するとかもありますよ)
(なるほど、切っ掛けにもいろいろあるってことなんだな)
(そうですそうです。だけど、適性と資質がまったくないのはどうしようもありませんけどね。【剣術】スキルでしたら、剣を持っただけで取得する人、数回剣を振るってみて取得する人、何年も修行をしてやっと取得する人と、何年も修行しても取得できない人と……差がはっきりと出るスキルもあります)
剣を持っただけでスキルを取得するのは、かなりの才能の持ち主ってことか? でも、一番才能があるのは、生まれた時からスキルを持っていることか?
(じゃあ、アレンとエレナも他の魔法を使えるようなったりするのかな~?)
アレンとエレナは才能の塊のような子達だし、そのうちいろいろ覚えそうだ。
(あ~…………)
(ん?)
子供達が将来いろんな魔法を使っているところを想像していると、シルが渋い声を出す。
(あの子達に関しては、身体を使うスキルはどんどん覚えるかもしれませんが、魔法はせいぜい【氷魔法】くらいですかね~)
(え、そうなのか!?)
シルの言葉に、僕は驚いた。
(ほら、あの子達は水属性の才能が抜群というか、占めているというか……他の属性が入り込む余地がないほどなんですよね~)
水神様の子供だから、水属性特化ということか?
(それを言うなら、僕はどうなんだ? 風属性特化じゃないのか?)
そういう理屈だと、僕は風神の眷属なのだから風属性特化になるはずだ。
そうなると、風魔法以外が使えるのはおかしい。
(巧さんはほら、称号がいろいろとありますからね。可能性は無限大です!)
(……称号か~)
そういえば、称号があると適性が増えたり、熟練度が鍛えやすかったりするんだったか?
==========
【称 号】異世界転生者 創造神マリアノーラの祝福を受けし者
風神シルフィリールの友人 風神シルフィリールの甥っ子
火神サラマンティールの楽しみ 土神ノームードルの加護を受けし者
救済者 下級迷宮を制しし者
魔物の契約者 Aランクの冒険者
水竜王の加護を受けし者 食の伝道師
中級迷宮を制しし者 刹那
神を餌付けし者
==========
そういうことなら、僕は万遍なく称号があるよな~。
というか、改めて見ると多いな! そして、突っ込みどころ満載。
って、おい! 【風神シルフィリールの甥っ子】って何だよ! いやまあ、前にシルと水神様は兄弟のようなものだから、シルにとってアレンとエレナは甥っ子姪っ子。僕はその兄だから、僕も甥っ子って話をしたけどさ~。
それで称号になるってどういうことだよ! 絶対にシルが意図的に増やしたよな?
(ははは~、巧さんは、僕の家族のようなものですから!)
(……だから、心を読むなよ)
称号の削除ができるかどうかは知らないが、既に手遅れのような気がする。とりあえず、放置しておこう。ただ、ギルドカードの表示だけは気をつけよう。
(消せません。というか、消しませんので、カードの表示には気をつけてください)
(だから、心を読むなよ)
(ではでは、【雷魔法】を付与しておきますね!)
心を読む云々は無視され、さくさくと魔法の付与がされたようだ。
(シル、ありがとう)
(いえいえ、これはお礼ですから)
(それでもだよ。あ、次の食べもののリクエストはあるか? ついでだから、今聞くよ?)
(えっと、その……まだ決まっていないんですよ。……僕個人的には麺料理が食べてみたいんですけど、こればっかりはマリアノーラ様達を無視して決めるわけにはいかないんで……)
言葉尻のほうでシルの声が震えていた。他の神様達の意見を無視したら……どうにかなるのかな?
(今聞くのは、定期的なリクエストから外すから、他の神様達と決めたらその時また言って)
(いいんですか!?)
(いいよ。で、麺料理の何がいいんだ?)
(何でも良いです! どれも食べたことのない料理ですからね!)
最近、僕が麺料理に嵌っていることもしっかり把握しているようだな。
(了解。近いうちに作って送るよ)
(ありがとうございます!)
料理を送る話をしていると、シルはいつも嬉しそうだ。
何かの間違いではないかと疑いたくなる称号の【神を餌付けし者】だが、シルの様子を見る限り間違いではないんだな~……思い知らされてしまうんだよな~。
(じゃあ、そろそろ帰るな)
(わかりました。でも、寂しいんで会いに来るのは忘れないでくださいね)
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