異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

文字の大きさ
298 / 321
書籍該当箇所こぼれ話

閑話 何だあいつら?

しおりを挟む
冒険者・ランディ視点
遠征中の話です。


**********


 俺はランディ。二十歳。
 Dランクの冒険者で、Bランクパーティ『黒の双剣』の一員だ。
 今回、騎士団と合同のガヤの森魔物討伐の依頼を受けてシーリンの街にやって来ていた。
 俺は初めてだが、グレイさん達は以前に一度、依頼を受けたことがあるらしい。
 本来、俺くらいの実力でガヤの森に入るのは危険だ。だから、俺だけシーリンの街で待機するようにと言われていた。
 だけど、置いて行かれるのは嫌だ!
 グレイさん達の実力には及ばないものの、これでももうすぐCランクに上がれると言われている。俺の年でCランクになれるのは早い方だ。
 そんな頑なな俺の態度にグレイさんの方が折れてくれた。連れて行ってくれる代わりに絶対、命令に従うことを約束させられた。
 もちろん了承したさ。これで一緒に依頼に行ける!

 依頼日当日。
 出発前、集合場所の西門で待機していると、俺よりも三、四歳 若そうな男が小さな子どもを二人も連れてやって来た。

「おはようございます、ヴァルト様」

 子連れの男は遠征の総隊長である騎士のところに挨拶にいった。
 なっ! もしかしてあいつらもガヤの森に行くのか!?
 あいつバカか? ピクニックにでも行くつもりでいるのか?
 そう思ったのは俺だけではないはずだ。グレイさん達もそう思っただろうし、準備を進めていた他の騎士達もあの男に厳しい視線を送っていた。
 しかし、あの隊長の騎士が強引に参加を決めたような話しをしていた。
 その途端、騎士達の態度は軟化した。あの隊長は人望が厚いようで、その人が決めたことなら仕方がないって感じだ。
 でも本気で連れて行くのか? 足手纏いだろ?
 まあ、俺達のパーティとは違う隊になるみたいだし、関わることはないなら別に構わないか。
 せいぜい死なないように頑張れ、俺はそう思った。


 森の調査が始まった。
 初日は進行途中でジャイアントボアとオークに遭遇した。だけど、グレイさんや騎士達が問題なく倒した。俺も少しは役に立ったぞ!
 だけど、どうやら森の様子がおかしいらしい。
 本来ならばもう少し魔物と遭遇するはずなんだとか。それに森自体が異様に静かに感じるだってさ。俺にはわかんないけど、グレイさんもそう言うから、そうなんだろう。

 二日目も初日と変わらない感じだった。

「ぶ、ブラッディウルフだ!!」

 変わらないと思っていたのが、突然の襲撃で呆気なく崩れた。

「こんな処で群れだとっ!? ランディ! お前は身を守ることに集中しろっ!」
「は、はいっ!」

 Bランクの魔物。ブラッディウルフが群れで襲ってきた。
 一匹でも厄介な魔物なのに、相手は群れだ。一、二、三………、七匹もいやがる。
 それに対して、俺達『黒の双剣』のメンバーが五人とシーリン支部の騎士が十二名。
 ブラッディウルフ一匹に対して半数の人数で対峙しても倒せるかどうか、というところだろう。
 圧倒的に不利な状態だった。
 騎士の一人が直ぐさま赤の照明弾を使った。救援を呼ぶためだ。
 今日の夜に同じ野営ポイントに集合する予定だったといえ、どのくらい離れた場所にいるのかはわからない。それまで何とか持ちこたえなければ、俺達に明日は無い。
 次々と飛び掛かってくるブラッディウルフに俺達は防戦を強いられた。
 攻撃する隙がなく、じりじりと追いつめられていく。襲いくる爪を剣で弾き飛ばすが、あまりの力に体勢が崩れてしまう。

「ランディ! 避けろっ!」
「くっ!!」

 グレイさんの声で咄嗟に地面を転がり、襲ってきたブラッディウルフを避けようとしたが、腕に爪を掠めてしまった。

「っ……」
「ランディ、大丈夫かっ?」
「なんとか……」

 そう答えたものの、疲労がどんどん重なり、足が重くなってきた。
 立ち上がらなければ! そう思うが体が言うことを聞いてくれない
 ちくしょう! このままでは!!
 死を覚悟しなければならない、そう思ったその時――

 ――ドーンッ。

「なっ! 何だっ!?」

 !!!? 何が起きたんだ!?
 突然の爆発音と暴風。さらに砂埃で視界が一気に悪くなった。
 しかし、その砂埃は一瞬で消え去った。
 視界が良くなると、何匹かのブラッディウルフが蹌踉めいていた。

「ギャウン!」

 ブラッディウルフの尋常じゃない鳴き声に慌てて背後を振り向くと、男がブラッディウルフの体の上から剣で斬りつけていた。
 男は突き刺した剣を引き抜くと、すぐ側にいたもう一匹のブラッディウルフを切り捨てた。その一撃で確実にブラッディウルフを仕留めていた。
 見覚えのある人物だった。
 あいつだ! 子供を連れてきていた男だ。
 違う隊に同行していたはずた。ということは、救援に来てくれたのか? ……と思ったが、他の者の姿は見当たらなかった。

 ――ドコンッ!

「なっ!!!?」

 今度は俺の目の前で起きた。
 子供が空から降ってきて、ブラッディウルフを下に押しつぶして着地していた。
 はぁ!? 嘘だろう!? 地面がめり込んでるぞ!!
 確実に下敷きにされたブラッディウルフは死んでいるだろう。なんてことだ。あっという間に四匹のブラッディウルフを倒してしまった。

「気をつけるんだよ」
「「はーい!」」
「おっ、おい!?」

 子供が残っているブラッディウルフのうちの一匹に向かって走っていった。
 グレイさんも慌てたような声を出していた。
 はぁ!? ちょっと待てっ! あの二人とブラッディウルフを戦わせる気かっ!?
 無謀だろっ! あんた保護者だろう? なんで見送ってんだよっ!
 子供は一匹のブラッディウルフを挟み込むと、交互に攻撃をしかけ始めた。

「やっ!」
「ほいっ」
「とう!」
「はっ!」

 はぁ!? ブラッディウルフと対等に渡り合っている!? 冗談だろう!?
 グレイさんだってブラッディウルフ相手なら、一対一でも苦労するはずだ。そんな魔物相手に子供が対等だとっ!?
 夢か? これは夢だよな?
 いやいや、ブラッディウルフにやられた傷がズキズキと痛む。これは現実だ。
 だが、夢のような出来事なのは間違いない。

「ほりゃあー」
「んしょ!」

 攻撃を仕掛けては距離をとり、相手が迫ってくればさらりと避ける。
 子供達の戦い方は余裕さえ感じる見事なものだった。

「「こっちこっちー♪」」

 うわー。挑発までしてやがる……。何なんだいったい……。

「よぉ!」
「ほいっ」

 あっ、ブラッディウルフが体勢を崩した。

「「とう!」」
「ギャウン!」

 それを見逃さず、二人が息を合わせて渾身の跳び蹴りを繰り出す。
 ブラッディウルフはその蹴りに耐えきれずに吹っ飛んでいった。

「「あっ」」

 あっ……。飛んでいったブラッディウルフが、子供達の保護者っぽい男が相手していたブラッディウルフに激突した。
 ぶつかり合った二匹のブラッディウルフは縺れるように転がっていた。
 男も驚いたようにこっちを見ていたが、そこにいたのが子供達だったことに納得したような顔をしていた。そして転がっていったブラッディウルフに近づくと、首を斬りつけていた。
 トドメを刺したんだよな?
 てことは、こいつら…全部……倒したってことだよな……。

「おい! 無事かっ!?」

 あっ、……他の隊の騎士が来た。もう終わっちゃっているけどな……。
 ……ああ、うん。ていうか俺達、助かったんだな……。
 衝撃的なことが有りすぎて、本当に助かったと実感できるまで少し時間が掛かってしまったのは仕方がないよな?



しおりを挟む
感想 10,303

あなたにおすすめの小説

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。