異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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書籍該当箇所こぼれ話

閑話 とんでもない兄弟

アイザック視点
タクミとの出会い~遠征前半部分のお話です。


**********


 私はアイザック・リスナー。
 ここ、騎士団シーリン支部・第二隊副隊長を勤めています。
 私が所属する隊の隊長であるグランヴァルト=ルーウェン殿は、じっとしていることを嫌う、良く言えば実直な行動派。悪く言えば何も考えずに突っ走る脳筋な方です。
 そんな隊長の補佐という立場ですが、隊長に日々の書類仕事をさせることが目下、私の仕事という状態です。

「隊長っ!」
「何だ? そんなに慌てて」

 執務室で仕事をしていると、ガヤの森の方向から人影が見えると、街門を警備していた者が慌てて報告してきた。
 ここ数日どころか、ここ最近、この門を抜けてガヤの森へ向かった者はいません。
 街へ出入りする場合は大抵はここ、西門以外を利用します。もし仮に街道から逸れてしまった場合にこの門へ来てしまう者は、北西や南西の方角からやって来ます。
 しかし、見えた人影は真西。ガヤの森から真っ直ぐにこちらに向かって来る、というじゃありませんか。
 偶にですが無謀な者が森に行こうとしますが、その場合でも一旦はこの街に滞在してから森へと向かうため、我々の誰かが確認しているはずです。

「アイザック、ちょっと行って様子を見てくるわ」
「了解しました。ちゃんと戻ってきてくださいね。でないと、今夜は寝られませんよ」
「………わかってる」

 ここで引き留めても、そわそわし出して仕事になりません。それなら了承して、ついでに息抜きもして来てもらった方が仕事は捗りますからね。
 ということで、隊長が門へと向かい、件の人物を待ちかまえることになりました。

 しばらくして隊長が執務室へと戻ってきました。

「隊長、どうでした?」
「どうやら村から出てきて薬草を採りに行って来たらしい。しかも子供を二人も連れて」
「…子供、ですか?」
「ああ。ちびっこいのが一緒だった」
「………」

 ただの世間知らずな青年。だと思い込みそうだが、その青年はしっかりとガヤの森から薬草を採取してきたらしいです。
 そうなると、それなりの実力者ということになります。
 しかし、残念ながら村から出てきたばかりの彼は、ギルドなどの機関にも所属しておらず、ランクなどの実力の目安すらわからなかったようです。
 まあ、身分証すら持っていないのだからそうでしょう。
 その時の私はそこまで興味を抱かなかったので、その青年のことはそれで終わらせてしまいました。ですが後日、隊長がその青年と子供達に冒険者ギルドで再会していたそうです。
 そこでさらにその青年に興味を持ち、騎士団で行われるガヤの森へと調査および討伐の遠征に参加するように依頼していたそうです。
 当日になってから、そのことが判明しました。
 本当に隊長はいつも勝手なことを……。子供を連れた冒険者を強引に参加させるなんて、ありえないですよ!
 私達がどこに向かうのかわかっているのか、心配になってしまいます。
 だからといって、正式な依頼で来ている方を追い返すわけにはいかず、結局遠征には参加して貰うことになりました。

「あっ、おいっ!」

 森に入ってしばらくした時でした。
 部下であるカインが指を指しながら、慌てたような声を上げました。
 何事かと指す方向を見ると、子供達がレッドウルフに向かって走っているじゃありませんか。
 ちょっと、待って下さい! 何故そっちに向かうんですかっ!?
 はぁ!? 男の子がレッドウルフの懐に入るなり、見事な蹴りを繰り出しました。
 ええぇぇ!? 何故、レッドウルフの身体が持ち上がるんですかっ!? 子供の蹴りですよ?
 魔物としては小さめの部類に入ったとしても、子供達の倍の大きさはあるんですよ?
 今度は女の子の方が、レッドウルフの脇からドロップキックっ!?
 レッドウルフが吹っ飛びましたよっ!!
 …………何てことでしょう。Cランクの魔物を易々と倒してしまったではありませんか。
 あんな小さな子どもが? なんだか、とんでもないものを見てしまった感じです。

「「たおしたー!」」
「あ、うん。良くやったな~、怪我はないな?」
「うん」
「だいじょーぶ」

 子ども達が仲良く二人一緒にレッドウルフを引きずりながら、笑顔で帰ってきました。状況を見る限り、これはいつもの光景だということが窺えました。
 怪我はなくて良かったんですけどね……。少々、やるせない気持ちになったのはたぶん私だけではないでしょう。

「あー、それとな。今回はお兄ちゃん達が魔物と戦いたいから、アレンとエレナが戦うのはお休みにしようか」
「「? わかったー」」

 そうですね。そうしてもらった方が助かります。
 いくらなんでも、小さな子供に戦わせて我々が安全な場所にいるなど、騎士として情けなくなりますから。
 あっ、堪らず隊長がタクミさんに詰め寄りました。どうしてこんなに強いのかは気になりますからね。
 Cランクの冒険者を伸したのを知っている? 信じられないのは理解できますが、隊長…そんな情報をもっていたんですか……。

「だから、この子達はやせ細っていたところを、ガヤの森で見つけたんです」
「それは聞いたぜ」

 ちょっと待って下さい。ガヤの森にいたってことだけでも驚きなんですが、やせ細っていたところを見つけた? 元から痩せていたということも無くはありませんが……。充分に食事が出来ない状態が続いていたってことですよね?

「……この子達は独自で“この森で生き残っていた”っていうこと……ですか?」
「あっ!!」
「そうですね。倒していたのか、逃げ過ごしていたのか。どうやって過ごしていたかまではわかりませんが、確実に数日間は森の中にいたはずです」

『……………』

 子どもがこの森に入ったなら、あっという間に魔物の餌食です。それを生き延びていた。それはとんでもないことですよ?
 思いもしない情報でした。さらに今度はタクミさんが稀少な時空魔法の使い手ですか……。
 隊長を見ると隊長も驚いているようだったので、知らなかったのでしょう。
 隊長が遠征当日のまで、我々に知らせていなかったことが原因ですが、どんな人物か調査する時間が無かったのは痛かったですね。
 とはいっても、自分の能力を簡単に他人に知らせないのは普通のことですし、シーリンの街に来てからそれ程日数が経っていませんので、どれほど情報が出てきたかはわかりませんけどね。
 まあそれでも、人柄や周りの評判くらいは調べられたはずです。
 ああ、私は彼がこの街に来た時に何故、興味を持たなかったのかと、今更ながらに悔やみました。

 その後もまた驚きの連続でした。
 まず、子供達の動きや体力にも驚かされましたよ。始終、あちこちと走り回りながらも、道を進む我々に決して遅れることなく付いてくるんですから。
 普通の子どもなら付いてくるだけでも精一杯、……いいえ、付いてこられませんよ?
 それに採取能力や知識は見事なものでした。
 魔力草に魔霊草、シュイ草、ベラーナ……。次々と薬草やら木の実なんかを採ってきました。
 薬草は種類だけではなく、しっかりと特徴まで覚えているようで、触れてはいけないものには決して触れずにいました。
 それに比べてうちの隊長は!!

「隊長、それは素手で触るとかぶれるんです。この子達が何故、自分達で採らずにタクミさんを呼んだのか、少しは考えてください! 『本能で動くのは止めろ』とあれほど申し上げたでしょう! それにどうして子供達が知っていることを、いい大人のあなたが知らないのですかっ!! ―――(中略)―――あなたという人は毎度毎度、……少しは懲りて下さい!」

 少しは脳味噌も使いましょう!
 隊長の迂闊な行動に対して説教をしていると、不意に下から引かれる感じがしました。

「ん?」

 何かと思い下を向くと、子供達が私の上着の裾を掴んで引いているではありませんか。

「どうしましたか?」
「はい」
「あげるー」

 子供達が何かの袋を差し出してきましたので、屈んで視線を合わせてから子供達から袋を受け取りました。中身を確認するとイワミズゴケがたっぷりと入っているじゃありませんか。
 イワミズゴケは最近なかなか手に入らない素材です。そのために今現在、それを材料とする薬(足の痒みに効く特効薬)の在庫が切れてしまっている状況なのです。
 しかもその薬は騎士団の三割の人間(私は使ってません)が常用している薬なので、無い状況はとても厳しいものがありました。
 これが手に入れば騎士団の薬室でも作ってもらえるはず。頂けるのなら大変ありがたいものです。

「これを私に頂けるのですか?」
「うん」
「どーぞ」
「ありがとうございます」
「「うん!」」

 子供はそれ程好きではありませんでしたが……可愛いですね。
 照れたように笑う表情に、私は思わず頭を撫でてしまいました。
 他にもいろいろな事実が発覚しました。最近シーリンの街でブームを巻き起こしている新しい形態のパンが、タクミさんのアイディアだったとか……、タクミさんがオークを瞬殺する実力の持ち主だったとか……。
 今日一日で、数ヶ月分は驚いたのではないでしょうか。
 正直とても驚き疲れました。なのに、遠征はあと四日もあります。最後まで持つでしょうか……。

 次の日は気味が悪いほど、何も起こらない日でした。
 半日以上、移動しても魔物一匹とも遭遇しませんでした。今日は早めに調査を切り上げようかと思ったその時―――

「照明弾だ! 急いで合流するぞっ!」

 緊急を知らせる照明弾が使われました。私達とは別の隊、二つのうちのどちらかに何か起こったのでしょう。急いで行かなければ!

「あれは何なんですか?」
「別の隊が救援を要請している光です。手に負えない魔物などに遭遇した場合などに使用される合図です」

 救援を知らせる魔道具。これは騎士だけでなく、冒険者でも使うものなのですが、タクミさんは知らないのですね。
 そういえば、冒険者自体にも成り立てと言っていましたか? とても新人には見えない実力のせいで忘れていました。
 先を急ぎながら、軽く説明してさしあげると感心したように聞いていました。
 こういうところは普通の新人とあまり変わらない感じなんですね……。

「急いだ方がいいんですね?」
「ああ、そうだ」

 タクミさんが隊長に改めて確認していますが、何をする気ですか?

「でしたら、先に行きますね」
「おい?」
「風よ、我が身に纏いて疾風と成せ。《アクセル》」

 タクミさんは子供達を抱き上げると、呪文を唱えました。
 するともの凄い風が巻き起こり、あり得ないスピードであっという間に、遙か先を駆けて行きました。

「はぁ!? 何だあの早さは!」
「……風、魔法……ですか?」

 ……確か、中級の呪文に速度を上げるものがあったはずです。
 それを使用したのでしょうが、出ている速度が異常でしょう……。普通、あれ程まで速くないはずです。本当に規格外な人ですね……。

「可笑しいだろっ!?」
「ええ、他の者が使った場合と比べると、かなりの差があるでしょうね」
「………あいつは本当にデタラメだな」
「そのようですね。タクミさんなら何とかしてくれる可能性はありますが、我々も急ぎましょう」
「……そうだな」

 向こうは照明弾を使うほどの窮地だ。
 何とかしてくれるところまでいかなくとも、私達が到着するまで時間を稼いではくれるはずです。
 頼みましたよ、タクミさん。




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