異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

文字の大きさ
300 / 331
書籍該当箇所こぼれ話

閑話 巫女姫というもの

しおりを挟む
人魚族・巫女姫視点
水神の眷属長から神託を受けるところのお話です。


**********


 わたしはサラーサ。
 蒼海宮の主である巫女姫という立場の人魚族です。

 わたしが巫女姫になったのは十歳の時。先代の巫女姫である婆様が亡くなり、次代の巫女姫の選考で、何故かわたしが巫女姫に選ばれたの。
 両親は喜んでいたけど、正直わたしは巫女姫になりたかったわけではないの。だって、巫女姫になると蒼海宮の最奥で隔離されるように静かに過ごす事になるんですから!
 巫女姫は一般の人魚族とは距離を置き、神聖視される存在でなくてはならないんだって。
 接触する者も人選され、ごく一部の者としか話すこともできないなんて……。そんな堅苦しいの、冗談じゃないわ!
 巫女姫に神様からの神託が下りるなんてここ何百年も無いのだから、そんなことにこだわる必要なんてないのにねぇ。
 実際、誰が巫女姫に相応しいか……なんて、わかっていないのだから。

 わたしは海を泳ぎ回るのが好きで、結界内だけど毎日のように泳ぎ回っていたの。それができなくなるなんて堪えられない!
 もう少し大きくなったら、結界を出てもっと広い海を泳ぎ回るんだ! と楽しみにしていたのに……。

 どうして? どうしてわたしなの?
 巫女姫になりたい人なんて、いっぱいいるじゃない! わたしなんかより、なりたい人がなればいいのに……。
 やっぱり諦めきれなくて、蒼海宮を抜け出そうと試みるも、いつも長のガルドに見つかって部屋に戻される。そんな毎日を過ごしていた。


 数年経ったある日、唐突に神託が下された。

(サラーサ? 聞こえていますか?)
「あっ、あなた様は……」
(わたくしは水神様に仕える眷属です)

 突然、頭の中に声が響いた。……これは!
 わたしは戦慄した。
 今まで感じたことのない、とても神聖な気配が感じられたのだから。遠い存在だったはずの神。何故かわからないが、これがそうだとはっきりと理解した。

「み、水の…け、眷属様が…わ、わたくしにご用がお有りでっ…!」
(落ち着きなさい、サラーサ)
「…も、申し訳…ありません……」

 声が震えました。声どころか、体が震えています。
 水神様ではないとはいえ、水の眷属様も遙かに高貴なお方。恐縮してしまうのは仕方がない事でしょう。
 ああ……。わたし…、落ち着くのよ……。

(では、用件を言います)

 わたしが落ち着くための時間を与えてくれた眷属様は、さっそく用件を仰いました。
 それは今現在、蒼海宮に棲む人魚族が面している危機についてだった。
 今、人魚族にとって大切な珊瑚が全滅するおそれがあった。その珊瑚を失う事は人魚族とっては命に関わるのだから、一大事だ。
 何故、そんな事になっているかというと、珊瑚を育成する洞窟の入り口を塞ぐように大きな船が沈没してきたのだから。そこが塞がってしまえば、他から洞窟の中に入る事が出来ず、珊瑚の世話が出来ない。世話の出来ない珊瑚はいずれ枯れてしまうこととなる。
 船をどかそうにも、船が大きすぎて一族総出でもびくともしなかったようだ。
 もう駄目だ…、そう思っていた時だった。
 それを解決するために眷属様が神託を下さったのだ。

(タクミさんという方が明日、海を訪れます。その方が必ず、あなた達が抱えている問題を解決して下さいます。お迎えに行って下さい)
「タクミ様ですね。その方は、どういった方なのでしょうか?」
(人族の方です。とても優しく、心穏やかな方です。詳しくは申せませんが、わたくし達、水の者にとって恩人ですわ)

 何てことでしょう! 水の眷属様にそんな風に言われる人が蒼海宮に来るなんて!
 下手な事をして、機嫌を損ねてしまわないようにしなくては!

(大丈夫ですよ、サラーサ。タクミさんは多少の粗相で怒ったりはしませんよ。むしろ、仰々しくする方がご気分を害すかもしれませんね)
「ど、どうしたら……」
(程々に、ということですよ)

 眷属様はタクミ様への対応の手解きをして下さいました。わたしはそれを一言一句、聞き逃さないように耳を傾けました。
 その中には耳を疑うような内容もありました。
 ゴミですよっ!? 眷属様! ゴミをタクミ様に渡せと仰るのですかっ!?
 そんな事をしたら、気分を害しませんかっ!? 本当に大丈夫なんですかっ!?
 ……しかし、眷属様が大丈夫だと仰るので、腹を括ってそのように行動するしかありません。

 一通り手解きをしていただくと、眷属様からの神託が切れました。
 少し寂しく感じましたが、今はそれどころでありません。

「ガルド! ガルドっ!! 大変よ、ガルドっ!!」

 大至急、準備を整えるために、わたしは大声でガルドを呼びました。
 はしたない、と怒られるかもしれませんが、そんな事関係ありません。

「巫女姫様、そんな大声を上げて。いかがいたしましたか?」
「神託よ! 神託が下りたの!!」

 わたしがそう言うと、ガルドが目を見開いて固まっていた。
 わぁ~、ガルドがこんな反応するなんて珍しいわね……。って、そんなこと言っている場合じゃないわね。

「ガルド、聞いている? 明日、海岸にくるタクミ様をここにお連れすれば、あの厄介な船をどうにかしてもらえるんですって!」
「本当ですかっ!?」

 あっ、復活した。
 硬直から復活したガルドは、今度は前のめりになりながら、わたしの言葉に耳を傾けた。

「本当よ。水の眷属様がそう言うんだから、間違いないわよ。だから、誰かを迎えにやらないといけないの! ああ! 内密によ! タクミ様に迷惑が掛かるといけないから、神託が下りたことは触れ回らないで、最小限に押さえるようにって」
「でしたら、ミレーナを使いに出しましょう。巫女姫様のお付きで、私の孫です。秘密を漏らすような教育はしておりません」
「そうね、ミレーナがいいわ。すぐに呼んでちょうだい」

 ガルドが慌ただしく部屋を出ていった。
 普段、わたしに対して静かに行動するように言うガルドが……。ガルドも動揺しているのね。あんなガルドを見ていると、不思議な事にわたしの方は冷静になるわ……。
 うん、落ち着いて準備が出来そうだわ。

 ガルドがミレーナを連れて戻ってくると、三人で念入りに打ち合わせをしました。
 タクミ様は人族ということなので、魔道具の人魚の腕輪が必要になる。お連れ様もいるようなのでミレーナには腕輪を複数持って行くように指示を出し、ガルドには歓待の準備を任せました。
 ちなみに、報酬として渡すものの話もすると、ガルドもミレーナも驚愕していました。やっぱりそういう反応になるわよね……。本当に大丈夫かしら?
 ……いいえ! 水の眷属様の言葉を疑うような事をしてはいけないわ。大丈夫に決まっているわ!
 こうして慌ただしくタクミ様をお迎えする準備をしました。

 眷属様でしたけど、神託自体が下りたのは数百年ぶり。そんな快挙が起こったのがわたしが巫女姫を勤める代だなんて、驚きと嬉しさでいっぱいだった。
 巫女姫として投げやりな気持ちがいつの間にか払拭され、誇りが持てた気がしました。
 今からでも遅くないわよね? わたし、立派な巫女姫になってみせるわ!

 ――と、決意したのですが……。

 概ね、予定は通りに事は進んだのだけど、わたしがタクミ様に対面した時、少し調子に乗りすぎてタクミさんを困らせてしまいました。
 ……本当にごめんなさい。反省しています。
 これからよ! これから立派な巫女姫になるんだから!


しおりを挟む
感想 10,562

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

買われた彼を解放しろと言うのなら返品します【完】

綾崎オトイ
恋愛
彼を解放してあげてください!お金で縛り付けるなんて最低です! そう、いきなり目の前の少女に叫ばれたルーナ。 婚約者がこの婚約に不満を感じているのは知っていた。 ルーナにはお金はあるが、婚約者への愛は無い。 その名前だけで黄金と同価値と言われるほどのルーナの家との繋がりを切ってでも愛を選びたいと言うのなら、別に構わなかった。 彼をお金で買ったというのは、まあ事実と言えるだろう。だからルーナは買ってあげた婚約者を返品することにした。 ※勢いだけでざまぁが書きたかっただけの話 ざまぁ要素薄め、恋愛要素も薄め

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。