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第四章:『闇乃宮参ノ闘戯場/地獣キネコ』

【第17話】

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『我が名はキネコ、闇乃宮、第二闘戯場を守りし闘士である』
 眼下の古代ローマのコロッセオそのものな第三闘戯場、開かれた格子戸から出て来た身長3メートル近くある二足歩行する虎。
 サンダルに鉄のパンツ上の腰巻、お茶椀のような簡易胸当てを付けた裸の上半身。
 右手に幅広の重量級片手剣と左腕に円形の盾を装備した巨漢は観客席の闇乃宮討伐隊メンバーを鋭い眼で見回す。
『我は強き者との手合わせを求める……故にそなたとそなた、そしてそなたにお相手願おう』
 チノミヤノミコト、式神フウ、ナルカミノモノ須田丸を指名したキネコは壁の梯子を指さして降りて来るように促す。
「須田丸、お前……」
「アタシが言うのもなんだが……大丈夫じゃねえだろ?」
 ゴブガミ生存可能性と言う精神的希望でのメンタル回復はさておき、先ほどのアオネコ戦の大技でかなりのダメージを受けているであろう須田丸。
「俺は平気っすよ!! 早く行きましょう」
 重鎧と二本の重籠手に身を包んだ須田丸はカラ元気で立ち上がり、いの一番に梯子に向かおうとする。
「須田丸、あかんで」
 その前に立って止める英里子。
「でも……」
「デモもストもあらへん。お天道様が許そうがウチがキミを死なせんよ」
 どストレートにして有無を言わせぬ口調と気迫に思わず黙り込む3人。
「そこの虎さん、須田丸君と戦いたい気持ちは分かるで……でもな、順番は守らんとあかんよ?」
 3人とその他全員を黙らせた後、ずかずかと観客席最前列に立ち、キネコに上から説教し始める英里子。
『そなたは……地神紋をさずかりしタメシヤのもののふ、呉井 英里子。そうであるな?』
英里子について『思考と行動が読めない変人』だと事前に聞いていたキネコはなめられないように聞き返す。
「せや、そしてアンタが指名した須田丸君の師や」
『なに?』
『師匠』と言う強キャラ枠確定ワードに思わず食指が動いてしまうキネコ。
「お前の言う通り、須田丸君は強者の中の強者、そして漢の鑑たるスーパーナイスガイや。
 けどな、その師たるウチを差し置いて戦う事はアカン……タイガーな見た目はとにかく礼節をわきまえてそうなお前さんならその程度分かっとると思っとったがなぁ?」
 謎マウント論理ながらも言葉巧みに相手の琴線をコチョコチョして確実に論理誘導していく鮮やかなトークっぷりに聞きほれてしまう闇乃宮討伐隊。
『うむ、それもそうだな……ヤミネコ、対戦指名後の変更は大丈夫だったな?』
『ああ、お前が望むならそうするがよい』
『なれば強き者の師よ、そなたが弟子の代わりにお相手してもらおう。その他2人と共に降りてまいれ』
「物分かりが早くて助かるわぁ!! お二人さん、行くで!!」
 須田丸を座らせた英里子はチノミヤノミコト、式神フウと共に第二闘戯場への梯子を下り始める。

『タメシヤ五武神長、チノミヤノミコト様。貴方様の武名はあちこちで伺っております。
 そしてこの度はお仲間様をお預かりして呼び出すような事になってしまい、大変申し訳ございません』
 チノミヤノミコトを先頭に身構える3人を前に一度武器を納め、立ち膝でかしずくと言う武人として最大の敬意を示すキネコ。
「ならば直ちに我らの仲間とミズノモノをすぐに返していただきたいと言いたいところだが……ひとまずそのような野暮な事は無しとしましょう」
『お心遣いありがとうございます、チノミヤノミコト様。
 このような形とは言え……お手合わせいただける以上、互いに悔い無きよう全力で参りますのでご覚悟ください』
 そう言いつつ、友好の握手を求めて右手を差し出すキネコ
(フウちゃん、あれは罠やで!!)
 第三試合開始宣言されていないスポーッマンシップタイム中とは言え、差し出された黄色い剛毛に覆われた鋭い爪の巨大なタイガーハンドに躊躇する英里子。
(ああ、アタシでもわかるさエリちゃん!! チノミヤ様があんな罠にかかるわけ無いだろ!?)
 あれは名実ともにリーダー格のチノミヤ様にのみ向けられたモノであろうが……万が一罠だった場合ヒトのもののふや式神の自分では腕を引きちぎられる。
 この状況下でチノミヤ様が応じる事は無かろうものの、風袋の口紐に手をかけた式神フウは2人の動向を見守る。
「……うむ、そなた程の猛者とあらば我も良き戦いが望めそうだ」
 ノーガードでゆっくりと向かって行き、その右手を握るチノミヤノミコト。

(あかぁぁぁん……ではなさそやな?)
(おいおい、こいつマジ? 見た目に反してイイ奴なのか?)
 英里子と式神フウの目の前で普通(?)に固く手を握り合う大虎剣闘士と白狩衣に烏帽子のマッチョマン。
 キネコが手の中に仕込んだ『神をも一滴で殺す』毒針を突き立ててくる、接触発動型の魔力吸奪的な能力を用いて来る、単純に油断したゴブガミ様の手を握りつぶす、腕を大根のようにもぎ取る、etc……と言う展開を予測していた2人はまさかの両者共にナイスガイ展開を戸惑いつつも見守る。

『これより闇乃宮・参ノ闘戯『地獣キネコ』 を始める!! 両者とも構えよ!!』
 3人がコロッセオに降り、橋が撤去されたのを確認したヤミネコは審判としての仕事を果たすべく一気に口上を述べる。
『はじめっ!!』
『タイガーハート!!』
『剛岩化(ごうがんか)!!』
 第三試合開始宣言直後、コンマ数秒もおかずに肉体強化技を同時詠唱し相手の手を握り潰そうとするチノミヤノミコト様とキネコ。
『チッ……惜しかったな』
「私もだよ、虎殿。 はあっ!!」
 キネコの手を振り払ってバックジャンプし、すぐさま自身の武器たる巨大鉄甲・神紋甲を召喚装着したチノミヤノミコト様は一足飛びに再接近する。
「はぁぁぁぁぁ!!」
『ふあははは、 ふははははは!!』
「ぶっ、フウちゃん!! ウチらはどないすればええんや!?」
「さっ、さあ……でもこのままならアタシらが入らんでもチノミヤ様だけで何とかなるんじゃないか?」
 超重量級兵器たる装着済みなチノミヤノミコト様の剛腕パンチを分厚い片手剣と小型の盾で難なく受け止め流す剣闘士キネコと敵の反撃を紙一重でかわしつつノーガードアタックを仕掛ける事を楽しんでいる五武神最強の剛武神・チノミヤノミコト様。
 接近戦で戯れるようにガチ殺し合う楽しむ狂戦士と強戦神を前にドン引き気味な式神女子&もののふ女子は思わず顔を見合わせる。
「それならええんやけど『アイテムスキャナー!!』」
 壇条学院オカルト研究会マヨイガ探索隊だった頃、いろいろな意味でお世話になった万能探索サポートシステムを起動させた英里子。
 マヨイガ内アイテムや魔物の情報を取得できるそれがタメシヤノミコト様含む五武神には適用されないことは確認済みだがグラディエータータイガーな魔物には適用されるかもしれないと考えた英里子はダメ元で殴り合う第三闘戯場内の2人に向ける。

【第18話に続く】
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