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2話「さあ、外へ!」
しおりを挟むその辺にいそうな農民の変装した魔王に
「いつの間に変装を?」
シャルディーの指摘に魔王グラールは笑いながら
「魔王だとバレバレの格好は好ましく無い。あくまでも散歩だからな」
「なるほど」
心地よい風が頬を掠め、賑わう鳥達の囀りに二人は深く深呼吸した。
ふと、魔王グラールは50年間も主人が居ない魔王城でシャルディーが何をしていたのか気になり歩きながら尋ねた。
「私が居なかった50年間、何をしていたのだ?」
「7割は魔王城の修復で、3割は故郷に帰ったりしていました。」
シャルディーは故郷に帰った時の写真を見せる。
「おお!立派なエビリア草じゃないか!」
魔王グラールは写真の畑に生えたエビリア草に興奮していた。
「これは師匠が趣味で栽培しているのです」
「あの魔神クレインが!?」
エビリア草
シャルディーの故郷は魔神クレインが管理する、極寒の大地「グリアスガーデン」である。
エビリア草の効能は、あのエリクサーを凌ぐ効果があるとされている。しかし、余りにも貴重な上、一つの株から抽出されるエキスは極僅かで保存が極めて難しい。外気に触れた瞬間に気化してしまう。
ほとんどの者は、エビリア草を花としてコレクションする者だけである。
そしてエビリア草の花は少しだけ、茹でた海老のような形をしている。
魔王グラールはエビリア草に対する情熱の説明を、シャルディーは興味なさそうに聞き流していた。
舗装された街道を歩きながら、魔王グラールは遠くから歩いてくる老人に気が付いた。
「シャルディー、あの老人」
「ええ、規格外のオーラを纏っています」
魔王の本能がビリビリと危険信号を発信していた。
「下がれ。復活したばかりで鈍っているか、あの老人で試してみよう」
魔王グラールの掌から火の玉を老人に向かって放った。
「殺さないでくださいよ」
「もちろんだ、擦り傷程度に済ませる」
下級ファイヤーボール Level 300
ファイヤーボールが老人目掛けて放たれると、一瞬にして老人に着弾する。強烈な爆風と爆炎が周囲の木々を飲み込んだ。
「擦り傷で済むんですか?」
「ちょっとやり過ぎたかな?」
「ん?」
火の海の中、揺らめく人影に魔王グラールは驚愕した。老人は擦り傷、火傷すら負っておらず、ゆっくりと小さな歩幅で歩いていた。
「ほえ?なんか一瞬、暖かくなったような気が」
老人はファイヤーボールにすら気が付いていない様子だった。
「ありえんっ!!」
魔王グラールは再び呪文を唱える体勢に入った。
老人が魔王グラールに気が付くと手を振った。
「おお!久しぶりだのう…」
「次は容赦はせん!」
特級ファイヤーボール Level 125
魔王グラールの掌から煮え沸る火球が放たれると、老人の言葉をかき消し、地面を硝子化させながら老人に向かっていった。爆音、爆風、爆炎が空気を熱し周辺は焦土と化した。
シャルディーは結界で身を守り、手作りの団子を頬張りながら「50年前と威力が変わっていないですね」と興味なさげに言った。
「当たり前…だ…」
魔王グラールは自分の目を疑った、煙で老人は見えないが、50年前に見たことがあるオーラが揺らめいていた。
「まさか、勇者カルレイン…?」
シャルディーが呟くと団子の串が手元から落ちた。魔王グラールは、あの時と同じ汗が滲む。
「ははは、そんな馬鹿な!」
煙がようやく晴れると無傷の老人が杖を突いたまま、既に魔王グラールの目の前に立っていた。
「!?」
「!?」
老人の鋭い視線は魔王グラールに向けられ、二人は身動きが取れずにいた。老人の第一声に二人は身構えた。
「あの、次は背中にファイヤーボールを当ててくれませんかね?」
………?
「あ、え?ファイヤーボール?」
「ええ」
「背中に?」
老人は魔王グラールに背を向けて少し距離を置いて「ファイヤーボールなら凝った肩をほぐせるような気がしたので」と背中を向けたまま言った。
魔王グラールはプルプルと震えながら叫んだ。
「ほぐすより、溶かし切ってくれるわ!」
「ほほ、それは楽しみだわい」
滅級 メテオストライク Level 800を!
唱えようとした時、シャルディーが後ろから大剣の平らな部分で魔王グラールの後頭部を叩いた。
バゴーン!
「イッタ!何をするんだ!」
「そんなの唱えたら、この一帯が永久焦土になってしまうでしょうが!」
魔王グラールは後頭部を摩りながらシャルディーの言葉に納得して、特級ファイヤーボールを唱える。
特級ファイヤーボール Level 125+1×30
無数のファイヤーボールが宙に現れ、勇者カルレインの背中に向かって放たれた。
シャルディーは心配そうに声を掛ける。
「勇者カル…」
煙の中から笑い声が聞こえた。
「ホッホ、流石に少し火傷したわい」と杖で煙を払う勇者カルレイン。
「貴様。本当に、あの勇者カルレインなのか?」
「お爺さんになったがの」
「それはなんたる幸運、ここで貴様を倒せば勇者を倒した魔王に!」
「いや、元勇者だから。っていうかお爺さんになんて事を」と冷静にシャルディーは突っ込んだ。
魔王グラールは剣を抜き、勇者カルレインの首元に向かって振るった。
「今日が貴様の命日じゃー!」
ガキーン!!と音が響き、強烈な衝撃波で地面が抉れた。
勇者カルレインは人差し指と親指で刀身を掴んでいた。
「これは素晴らしい業物ですね!オリハルコンの剣ですかな?」
「そうだろう!勿論!これはドワーフに頼み込んでって、オイ!」
慌てて勇者から距離を取り、彼が本物の勇者カルレインだと認識を改めた魔王グラールは、冷や汗を流しながら剣を納めた。
シャルディーは食べ終わった団子の皿を鞄に入れながら言った。
「流石、元勇者といったところですか」
瞬足 Level 12
「勇者カルレイン!また会おう!」
魔王グラールは物凄い速さで魔王城へと走り去って行った。
「魔王様!?勇者カルレイン!失礼します!」
シャルディーは慌てながら鞄を抱え、元勇者カルレインにお辞儀すると魔王グラールを追いかけた。
一人になったカルレインは「全く忙しいのぉ」と笑いながら、小さな歩幅で魔王城へと歩き始めた。
その頃、魔王城に辿り着いた魔王グラールは震えていた。
「いやいや!初エンカウントが最強の勇者カルレインって!?死ぬかと思ったわ!」
長い廊下を歩きながらブツブツ呟いていると門が開くや否や、シャルディーが魔王グラールの背中にドロップキックを炸裂させた。
無慈悲なドロップキック Level 200+1
「アベブッ!?」
魔王グラールはゴロゴロと転がりながら玉座に衝突した。
「魔王様!私を置き去りにして逃げるなんて最低です!」
頬を膨らませ魔王グラールの耳を摘み上げた。
「イタタタッ!痛い!痛いって!本ッ当にすまん!」
「許しません!」
「どら焼きをあげるから機嫌直して、ねっ!」
シャルディーは差し出されたどら焼きを奪い、頬張りながら言い放った。
「これで許したわけではないですからね!もう!」
続くッ!
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