24 / 152
第2章 社燕秋鴻
20
しおりを挟む静先輩のこと、知らないことだらけだ。
彼が一体何者なのか、どうして静先輩の方が悪者扱いされているのか。
静先輩とは別れが近いから知らなくてもいいことかもしれないけれど、初めて好きになった人が悪者扱いされているのは誰だって気分が良くない。
その理由ぐらいは知りたいと思ってもバチは当たらないだろう。
「あ、あの・・・・・・」
講義室に入るときにすれ違った人に声を掛けてみようとしたけど、すごく迷惑そうな顔を向けられて通り過ぎられてしまった。
やっぱりかわいそうだと、Ωだからと言われるようになっても、最初の卑怯者のイメージがなくなったわけじゃない。
だからみんな、こんなやつとは話したくないのだろう。
でもだからと言って、静先輩に直接聞くわけにはいかないし。
もう少しだけでも他を当ってみようと、同じ列に座ったやつに声を掛けてみることにした。
「・・・すいません。き、聞きたいことがっ・・・・・・」
「っお願いだから巻き込まないでくれ。俺たちみんなあの人に目を付けられたくないんだよ」
その人は声を掛けた瞬間に真っ青になって捲し立てて足早に僕から離れた席へと行ってしまった。
本当に何なんだ!?
みんなして静先輩のこと腫物扱いして。
僕と話したくないだけなのかと思ったら、あの人に目を付けられたくないってことは静先輩と関わりたくないってことじゃないか。
なんでみんな静先輩のこと、そんなに避けるんだろう。
ここまであからさまな態度にされると、悲しみを通りこして逆になんだかイライラしてくる。
結局、もう誰かに聞く気にもなれないし半径三席以内に人なんて誰一人としていないから、その講義は一人席を使いたい放題にしてしっかり授業を受けてやった。
なんだかんだで次の講義室でも大体同じように避けられてぽっかり空いた席で受けることになると、もうそういうもんなんだと諦めもついてくる。
元々自分のことについては初めから特に何とも思っていなかった。
そういうものだと納得していたし、むしろこんなもんかと若干気が抜けた部分すらあったくらいだ。
一方で、その非難の声の中に静先輩を侮辱するものがあると、それにはイラつきを抑えられないでいた。
どうしてそんなことが言えるのだろう、とそろそろ爆発寸前になったところでその時間の講義が終わって講堂の入り口がざわざわしていることに気が付いた。
そこにはさっきまで一緒にお昼を食べてなんとか空気を明るくしようとしてくれていた朝夜先輩がいて、僕と視線が合うとにこりと微笑んで手を振ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる