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第3章 火宅之境
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しおりを挟む「そう言えば弥桜、ここ布団ってあるのか? いつもお義兄さんが泊まりに来た時とか、どうしてんだ?」
静先輩はむにむにと僕の顔を弄り回していた手をようやく離して、さっきまで手を付けていたレポートを片付け始めた。
「え、雅兄が来た時だってこのベッドで寝てるよ」
当然のようにそう答えると、静先輩の片付ける手が止まってゆっくり視線が上がってきた。
「二人で?」
「二人で」
だって雅兄だよ?
家族なんだから一緒に寝るのは当たり前じゃん。
むしろ別々に寝るっていう発想の方があり得ないと思うんだけど。
そんなこと聞いて、静先輩は何が言いたいのだろう。
「布団を敷いたりとかは」
「しない、かな」
一緒に寝るとか寝ないとか、ベッドだとか布団だとか。
まるでこれから静先輩もここで寝るというような言い方・・・・・・。
「まさかとは思うけど、静先輩今日泊ってくつもり?」
「いや、むしろ帰れと?」
そんな堂々と言われても、どこも当たり前じゃないんですけど!?
むしろ当然のように夕飯食べたら帰るもんだと思ってたし、だから先に結永先輩が帰っちゃった時は後でひとりで帰るんだ、なんてことしか考えてなかった。
なんかよくわからない会話のせいでちゃんと考えなかったって言うのもあるけど。
「布団とかうちにはないしソファもないから、寝るのは本当にこのベッドしかないんですよ。まあ、静先輩が勝手に床で寝てる分には特に何も言わないけど・・・・・・」
あーだこーだ言ってもまだまだ帰れる時間だから、嫌なら帰るっていうことも出来るわけなのだが。
静先輩はあーとかうーとか数秒唸った後、何やら一人で勝手に納得したようでうんと一つ頷くと、僕の手を取ってすごーくわざとらしく上目遣いで首を傾げて見せた。
「なぁ弥桜、一緒に寝よ?」
自信作と言わんばかりの満面の笑みで微笑まれて、キラキラと輝きのようなものまで見えはじめた静先輩。
僕の好きな顔が、僕のためだけに、今目の前で、輝いている。
ああ、絶対こんな言葉に頷いてはいけない。
まんまと乗っかって一緒に寝るなんて言ってしまった日には、自分の身がどうなるかなんて分かったもんじゃない。
そう、分かっているのだ。
分かっているのだけれど。
どんなに手のひらの上で転がされているとわかっていても、こんなお願いを断れるほど僕の意思は強くなかった。
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