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第6章 一蓮托生
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しおりを挟むある夏休みに入ってすぐの一日のことだった。
静先輩は休みに入っても時々大学に用事で行くことがあるけど、今日は珍しく一緒に行かないかと誘われた。
帰りに近場だけど大学の最寄り駅でデートしようってお誘いだった。
確かに最近大学以外はほぼずっと家に籠りきりだったし、元々僕に静先輩の関係ない用事なんてほぼないから当然だけど今日も空いてる。
二つ返事で行くと答えて、ついてきたはいいんだけど。
「君一人? これから俺たちと一緒に遊ばない?」
早速知らない人たちに詰め寄られて動けなくなってしまっていた。
とりあえず大学まで着いてきたはいいけど、僕は用事ないしこの暑い中連れ回しても、と言うことでいつもの喫茶店のいつもの席で静先輩を待ってることにした。
今日は、この春大学を卒業した結永先輩も久しぶりに来ており、お昼ご飯は一緒に食べようって約束もした。
僕たちが着いた頃はまだ時間も早くいつも通りほとんど人はいなかったんだけど、お昼が近づくにつれてちょっとずつ人が増えてきて、どんどん居心地が悪くなってきたところだった。
静先輩でもましてや先輩たちですらない、本当に知らない人たちに囲まれて逃げられないしなす術なく恐怖に震える。
静先輩からもらったピアスに手を伸ばして、少しでも心を落ち着けることくらいしか出来なかった。
「静先輩・・・早く戻ってきて・・・・・・」
静先輩が僕用にってアレンジしてくれた羽根飾りに触れる。
きっと声は届いてる。
すぐ戻ってきてくれる。
大丈夫ってわかってても、もう囲まれることが怖くなってしまった体は震えが治らない。
丁度ちょっとした用でマスターが出ていて、周りの人も口出してとばっちりは受けたくないといった雰囲気で誰の助けも望めないようなタイミングを狙ったんだと思う。
中々返事をしない僕に痺れを切らして、男が手を伸ばしてきた時だった。
「あれ、桐生じゃん。久しぶり」
こんな状況の中で僕に声をかけてきた人に驚いて、その場にいた全員の視線が彼に集まった。
「・・・・・・雪藤?」
声を掛けてきたのが、思いもよらない人で驚きすぎて逆に恐怖を忘れて声が出た。
この大学で唯一僕の友達と言ってもいいかもしれない相手だ。
「・・・・・・もしかしなくても、友達って雰囲気じゃないよな?」
雪藤の問いかけに必死に頷く。
とにかく静先輩が来るまでは、ひとりにしないで欲しい。
「おい、俺たちの邪魔すんじゃねえよ」
「何、今日は一人?」
「静先輩と結永先輩が、すぐ戻ってくるはず」
男たちの声は完全に無視して話を進める雪藤に、戻ってきた震えに耐えながら答える。
「ああ、それってあれだろ。二階堂先輩。桐生と仲良いらしいって話はよく聞くけど、見たことないんだよな」
「もうすぐ来ると思うから、会えると思う」
やけに静先輩の名前を強調する話し方に違和感を覚えながらも、出来るだけ静先輩が戻ってくるまでの時間を稼ぎたくて男たちを意識しないように必死に相槌を打つ。
それでも大した話はしていないはずなのに、何故か男たちはそわそわし始めた。
「おい、二階堂ってあの二階堂か?」
「こいつも、桐生って・・・・・・」
「まじかよ」
急に慌て出した男たちは、真っ青になってその場から立ち去っていった。
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