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番外 イベント編 2018年

年末年始

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今年はいろんなことがあったなぁ、とちらりと隣を見上げる。

うちの親は超過保護だから、毎年年末年始は絶対に帰って来いって言われてたんだけど、色々言い訳して今年は帰らなくていいように頑張った。

だから、今僕は静先輩の隣にぴったりくっついていられるのだ。

「どうした?」
僕がちらちら見ていたのに気づいたようで、ひっつかれてるのとは反対の手で、頭をぐりぐり撫でながら聞いてくる。
「っん、今年は初めてがいっぱいあったなって思って」

「あー、そうだな。俺らもこんなに長いこと一緒にいるのに、今年は静の初めてをたくさん見たな」

今は静先輩んで、三人一緒に年越し蕎麦を食べながらごろごろして、年を越そうとしている。
っていっても、まだ夜8時で時間早いから、蕎麦食べながらテレビ見てるだけだけど。

「なんですか、それ!! 気になる気になる」
「結永、余計なこと言うんじゃねぇよ」

「まあまあ、いいじゃないの」

テレビを消してニヤニヤしながら結永先輩が話し出す。
「弥桜くんの前じゃわかりやすいやつだけど、今までこんなに感情を出してたことなんてなかったんだよ。それが今年はずっと弥桜が弥桜がって、振り回されてばっかでね」

結永先輩から聞く話が新鮮で、楽しくなってくる。
当の静先輩はといえば、ぶつぶつと文句を言いながら、バツの悪そうな顔をしてそっぽ向いてる。
「それはそれは、大変ご迷惑をお掛けしました」

「くくっ、弥桜くん言ってることと表情かおが合ってないよ。全然迷惑だと思ってないでしょ」

てへ、バレた?
なんだか静先輩が僕のことでそんなふうになってたことや、今結永先輩に散々に言われてることとかが面白くて嬉してくて、ご迷惑を~とか言いながら顔はニヤニヤしてしまう。

「そんなこと言ったらお前だってそうだろ。雅貴さんの話してる時の表情なんか見たことなかったぞ」
「なっ、誰がそんな・・・」

「えっ、静先輩も結永先輩もなんで雅兄まさにいのこと知ってるの!?」
びっくりだよ。
静先輩の口から雅兄の名前が出てくるとは思ってなかった。
紹介した覚えもないし、いつ知り合ったんだろう。

「俺ん家の病院、桐生製薬から薬買ってるんだよね。最近、社長雅貴さんに変わっただろ? それでよく会うの」
「へぇー、知らなかったです」
「って、俺の話はどーでもいいんだよ。余計な事言ってるから、もうこんな時間じゃん。ほら食べたの片付けて!!」

食べ終わってからのんびり喋ってたから随分時間が経ってたみたいで、そろそろ日が変わる頃になっていた。
「結永が言い出したんだろうが」

「あっ、12時になった」

「あけましておめでとうございます」
二人に向かって頭を下げる。
「あけましておめでとう」
「おめでとう」

「静先輩、結永先輩も、僕なんかを今年もよろしくお願いします」
「なんかって言うな。よろしくな」
「俺も混ぜて~。静も弥桜くんもよろしくね」

いいなぁ、この感じ。
自然と笑顔がこぼれる。

「弥桜、今日はいつにも増して楽しそうだな」
「そうだね、さっきからずっと笑顔だよ。最初にあった時と比べて、ここ半年でよく笑うようになったよね」

「うん。なんかね、嬉しいなって。今までも母さんと父さんと雅兄がいたけど、普通に家族ってだけだった。それに大事にしてもらうことを、心から嬉しいって思えてたかわからなかったんだ。でも今は結永先輩がいて、とーっても大事な静先輩がいて、こんな僕でもこうやって大事にしてもらえることが嬉しいなって、少しは思えるようになった気がするから」

「なあ静!! 聞いたか!? あんなに自分に自信がなかった弥桜くんが、嬉しいって自分を大事にされることを少しでも嬉しいって思えるようになってくれたんだぞ」
よかった、って言う結永先輩に思いっきり抱き締められる。
「ああ、ほんとによかった」

なんか声が震えてると思って見れば、静先輩の目に涙が溜まってた。

「へっ、えっ、静先輩っ!! 大丈夫ですか!?」
「ぐへっ」
見たことない静先輩の姿にびっくりして、さっきから引っ付いてる結永先輩を突き飛ばして静先輩の頬に触れる。

「ああ、悪い。大丈夫」
「はぁ、良かった」
なにかの病気とかなのかと思ってびっくりした。
そういうのじゃなくて良かった。

「いやいやいや、良くないでしょ。びっくりした、弥桜くんに突き飛ばされるとは思ってなかった」
静先輩に何もなくてほっとしてたら、反対側から結永先輩のうめき声が聞こえてきた。
「あっ、ごめんなさい。それどころじゃなくて」

「いいよ、いいよ。弥桜くんは静以外見えてないもんな。ちょっとびっくりしただけ」

「いつまでもくっついてるからだ。返せ」
今度は静先輩に腕を引かれて、後ろからすっぽりと抱きかかえられる。
静先輩に抱えられるのは安心感があって、全身から力が抜けるようだ。

「あ、そうだ。両親に電話しなきゃ」
部屋の端っこに置きっぱなしのカバンの中に入ってる携帯に手を伸ばす。

「もしもし、母さん? 弥桜だよ。あけましておめでとう。うん、元気にやってる~。父さんにも宜しくね」
簡単に挨拶を済ませる。
その間、静先輩も結永先輩も、さっき入れたお茶を飲みながら静かに聞いているだけだった。
面白いのは、ここからだ。

「あのさ、雅兄いる?」

「ごほっ、、うぐっ」
なんかすごくわかりやすい反応を貰えた。

「ふーん」
静先輩も分かってくれてちょっと面白くなってきた。

「え~、さっき帰った? タイミング悪いなぁ。うん分かった、そうする。じゃあね、余裕出来たら一回ちゃんと帰るから」
どうやら、さっきまでいたらしいのだが、電話をする直前に帰ってしまったらしい。

一方、結永先輩は平然を装おうとして、出来てない。
ほっとしたのが丸わかりだ。

「なんだ、いなかったのか」
「うん、だから携帯に直接かけてみる」

「じゃあもうこんな時間だし、俺はそろそろ帰ろうかな」
案の定、この場から去ろうとして結永先輩が立ち上がった。
逃げようとしても逃さないぞ。

「ちょっと待ってくださいよ。結永先輩も関わりあるんですよね、ついでに挨拶していけばいいじゃないですか」
「そうしていけ」

「いや、でもなんで俺が弥桜くんと一緒にいるんだって思われるかも」
「大丈夫です。大学の先輩で、いつも仲良くしてもらってるんですって言うから」
「うっ」
「ほら、観念しろ」

結永先輩の服の裾を掴んだまま見上げる。
結永先輩はもう逃げるための言い訳も思いつかないのか、諦めたように戻ってきて座る。

「ちょっとだけだからな!!」

「そうこなくちゃ」
静先輩と視線を合わせてニヤニヤする。

「そうと決まれば、早速電話しましょ」
ポチポチっとスマホを操作して雅兄にかける。
そんなに待たずに出てくれた。

「もしもし、弥桜でーす。雅兄あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」

あー、結永先輩ガチガチに緊張してる。

「今日は帰れなくてごめんね。今大学にいて。あ、そうだ。雅兄、結永先輩と知り合いなんだって? 大学一緒で最近仲良くしてもらってるんだ。今課題を手伝ってもらってて一緒にいるから、変わるね。はい」

まだオロオロしてる結永先輩に無理やり渡す。
もう逃げられないぞー。

「っ、もしもし変わりました、朝夜ですっ。あ、あけまして、おめでとうございます。はいっ、仲良く、させてもらってます」

ガチガチに緊張してるし、声も半分裏返ってるんだけど、どことなく嬉しそうな感じ。
いつもと全然違う結永先輩の様子に、静先輩と二人でくすくす笑ってしまう。

「何が大学にいる、だよ。そもそも今大学開いてないだろ」
「だってそうでも言わないと、静先輩と一緒にいられないんだもん」
背中をスリスリして甘える。

「はい、じゃあ次の試薬の時に。失礼します」

二人でいちゃいちゃしてるうちに話は終わったらしく、通話終了の画面が光る携帯を突き返された。
「ほんとにもう俺、今日は帰るからね!! じゃあまた明日!!」
結永先輩はそれだけ言うと、ドタバタと足早に出ていってしまった。

「ちょっとやりすぎたかな?」
「いいんだよ、あれくらいで。いつも俺たちのこといじって遊んでるんだから、たまにはこれくらいしてもバチは当たらないさ」
そっか、そうだよねと納得して、くるりと向きを変え静先輩の方に向き直るような形で首に腕を回す。

「結永先輩って、雅兄のことどう思ってるのかな」
「さあな。今度直接本人に聞いてみればいいだろ」
「うん、そうする」

結永先輩が帰って二人きりになった部屋で、誰に見られることもなく静先輩にベタベタ甘える。
「ねぇ、静先輩。先輩は僕のことどう思ってるの? 今年も、来年もずっと一緒にいてくれる?」
額や頬にちゅっちゅっと甘えるように口付ければ、もちろんだ、とその腕で抱きしめてくれる。

「俺はずっと弥桜と一緒にいるよ」
「ふふっ、良かった」

そう言いながら、ゆっくり互いの唇を合わせていく。
息が続かなくなるほどに二人は新年初の口付けを堪能した。

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