彼と僕の猫事情

薔 薇埜(みずたで らの)

文字の大きさ
9 / 16
彼と僕の猫事情

9

しおりを挟む

零れ落ちた涙を拭いながらカナが教えてくれた。

オレとユイは、色んな人にことある事に、そっくりねと言われていた。
だからオレも、きっとユイも、自分たちはそっくりなんだと思い込んでいた。
確かに似ていないわけじゃない。
普通に他人が見れば、オレとユイはそっくりなのだ。

でもカナだけは、他の誰よりも、オレたちを見ている時間が圧倒的に長い。
笑顔、泣き顔、寝顔、お腹が空いた時の顔・・・・・・。
色んな顔を四六時中見ていたから、見ているうち何なんとなく気づいたんだって。
オレの方が優しい顔してるなって。
カナだけが知っている特別だから、誰にも教えたくはなかったんだって言った。

「だからね、これは叶の顔なんだよ」

カナの言葉にちょっとだけ安心した。
これが本当にユイの顔だったら、カナはずっと悲しくて泣いちゃうんじゃないか。
オレがユイを奪ってるみたいじゃないか。
すごく不安だったから、カナがこれはオレの顔なんだって言ってくれてよかった。

「じゃあ、次は僕が訊いてもいいかな。どうして叶は戻ってきたの?」

さっき訊かれたことだ。
忘れたわけじゃない。
カナの秘密を教えてもらったから、今度はオレの秘密を教えてあげる。

「あのね、オレとユイは毎年約束をするんだ。それを守るために、神様にお願いして戻してもらったの」

二人でそんなことをしていたのか、と驚くカナ。

「カナは知らなくても仕方ないよ。約束は毎年カナの誕生日にするんだけど、その前にユイがいっぱいカナを啼かせるから、カナいつも疲れて眠ってるんだもん」

オレ、何か変な事言っただろうか。
カナの顔が急に真っ赤になっちゃった。

「大丈夫? 熱でもあるの!?」
「・・・・・・いや、大丈夫。なんでもないから話を続けてくれ」
「オレ、ずっと見てたから知ってるよ!! ユイがいっぱいカナのこと啼かすけど、カナあれ大好きでしょ!? いつも幸せいっぱいの顔で寝てるもん」

カナの顔が更に真っ赤になった。

でもオレ、本当に全部知ってるもん。
毎年カナの誕生日には、みんなでケーキを食べてプレゼントを渡してお祝いするんだ。
それで生まれてきてくれてありがとうって言って、"きす"ってやつをするんだ。
ユイが教えてくれた。
きすをするとカナがもっとって言って、そのまま"せっくす"をするんだ。
オレはその間、ずっと隣にいるから全部知ってる。
愛してるよって言ってきすをして抱き締めるんだ。

「そうじゃない、もうその話はいいから。約束って、どんな約束をしたんだ?」

ちょっと話が脱線しちゃったのを、無理矢理カナに戻される。
そうそう、本題は約束の方だっだ。

これだけは、どうしても言わなきゃいけない。
ユイが死んで、カナが死を決めた日から。
オレだけがこのことを知っていて、オレだけがカナに伝えられるから。
どうしても伝えたかった。
でもいくら猫の言葉で言っても、人間のカナには伝わらないから諦めていたんだ。

それが、今言えるチャンスが目の前にあって、言わないわけにはいかない。

「今年も俺と叶で叶十を幸せにしような」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...