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彼と僕の猫事情
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しおりを挟む何度涙を拭っても、拭ったそばから溢れ出して止まらない。
真っ赤になりながらも、幸せだったあの日々を思い出してカナの涙は溢れ出る一方だった。
ついには堪えきれずに、オレの胸にしがみついて声を上げて泣きじゃくる。
「ゔゔ・・・・・・、ぼくは、唯叶と、叶と、一緒にいられれば、・・・・・・それだけでじゅうぶんなほど、しあわせ、だったんだ」
ユイが死んだ時も何も言わなかったカナが、心の内を漸く吐き出し始めた。
「でも、急に、ひっぐ・・・・・・、い、いなく、なって、ぼくのすべてが、もっていかれたみたいに、空っぽになって・・・・・・。痛くて、辛くて、悲しくて悲しくて」
辛いって、悲しいって、どんなに泣いても言わなかったカナが、心から絞り出すような声で叫ぶ。
カナの悲痛の叫びが、堪えていたオレの涙まで溢れさせた。
「僕の唯一の支えは、叶だった。叶には最期まで生きて欲しかった。でも、叶を置いて逝くことも、叶に置いて逝かれることも、僕には耐えられないんだ。だから、唯叶と暮らしたこの家で、一緒に死のうって決めて・・・・・・」
カナを抱き締める腕に力を込める。
「唯叶を僕から奪った全てが憎くて、生きることに希望を見出せなかった」
そう言うカナが酷く脆く儚く見えて、失くならないように繋ぎ止めるのに必死だった。
「なあ、叶はこの先、どうなるんだ」
散々泣き叫んだカナの口から、妙に冷静な低い声が響いた。
おかしいなとは思ったけど、深くは追求せずに問い掛けに答える。
「えっと、カナが死ぬまでって条件で人間にしてもらったから、それまではカナと一緒にいるつもりだよ」
「そうか」
それだけで言葉を切ったカナは、しがみついていたオレの胸から顔を出すと、真っ直ぐにオレを見て言った。
その瞳に生気はなかった。
「戻ってきてもらって悪いけど、僕と一緒に死んでくれ」
カナが発した言葉を、数秒理解出来なかった。
カナは一体何を言っているのか。
オレはカナに幸せになって欲しくて戻ってきたって言ったのに。
「もう十分だ。叶が死ぬまで生きた。こんな所にはいられない。お願いだから、唯叶の所へ行かせてくれ」
ああ、そうか。
カナはユイが死んだことを、まだ少しも受け入れられていないんだ。
3年経った今でも、カナの心の全てはユイに捧げたまま。
この先、どんなに長い時を過ごしたとしても、その事実が変わることはないだろう。
カナの心は、蜘蛛の巣に囚われた蝶のように、ユイに縛られ続ける。
巣から逃れる術を知らず、巣の主に喰い尽くされ一生を終える蝶のように、カナのこれからを奪うのもユイ。
カナはユイから解放される術を持たない。
そして、カナを解放する術を持つ者も誰一人いない。
カナの心は死んでもなお、ユイに囚われ続ける。
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